第39話 買い物 裏その➁
中ノ瀬君が次々と着替えていきます。
背が低い女の子――琴さん曰く『律ちゃんだよ。直の妹の』―—は所謂ミリタリー系の服ばかり持ってきます。ふむふむ……こうして見ると、悪くはありません。
そして、さつきさんはオーソドックスな物。
……これはこれで、中々。
私だったら
「まったく。あの御二人は分かっていません! 直さんには執事服こそが似合うといいますのに!」
「えー。直が着ても似合わないよ~。だって、別にカッコよくないし」
「あら? あらあら? あらあらあら? ……聞きましたか、ねねさん?」
「ええ、聞きました、透子さん」
中ノ瀬君達の死角から、監視――こほん、見守っていた私と透子さんは、
所詮、恋の世界は弱肉強食。弱き者はただ死あるのみ。
と言うより、琴さんは『幼馴染』というアドバンテージを持たれてますし? 強敵を叩くのは、戦場の大原則ですし??
ま、まぁ、幼馴染と結ばれるお話なんて、今や絶滅危惧で、別に、全然、本当に気にしてませんけど……気にしてませんけど、現実は琴さんだけ、呼び捨てなんですよね……。
透子さんへ目配せ。承諾の色。微笑みかけます。
「つまり、琴さんは、中ノ瀬君がカッコよくない、と言われるんですね?」
「う、うん。だって、直だよ? あんな服着ても、宝の持ち腐れかな~って」
「ふ~ん。なるほど。透子さん?」
「琴ちゃん」
「?」
「琴ちゃんには愛が足りないと思いますわ!」
「!?」
「それに素直じゃありませんね。好きな男の子を『カッコよくない』だなんて……それを、中ノ瀬君が聞いたら、きっと悲しみますよ?」
「わ、わ、わ、私は、べ、べ、別に直のことなんか……」
「「嫌い?」」
「そんなわけないじゃんっ! 私は、昔から、むぐっ」
「「声が大きいっ!」」
いきなり、大声を出した琴さんの口を、透子さんと押さえ、周囲を見渡します。
……どうやら、バレずにすんだようです。
中ノ瀬君が、さつきさんと妹さんに笑顔を向けています。それを見た、二人は
「? ねねちゃん? む」「どうした――……う~。直のバカ……」
どうやら、透子さん達にも見えたようです。
ズルいです。ズルイ、ズルイ!
私、あんな風に笑いかけてもらったことありませんっ!!
ゲーム内だって、あんまり優しくしてくれませんし……これは、一度、本気で話し合う必要がありますね。まったくっ! どーして、ああなんでしょうか。
……はっ!
も、もしや、綺麗じゃないと、眼中にすら入ら――それはないですね。
「むー! むむー!! むむむー!!! 直さん……私には、優しくないのに、この前、知り合ったばかりのさつきにはあんな風に微笑みかけるなんて……お、おかしいです。間違ってます。本来であれば、あの場にいるのは私な筈なのに……」
目の前で、ハンカチを噛んでいる透子さんに対しても対応は結構、ぞんざいですし。綺麗であれば、この人にも優しい筈です。
幼馴染である、琴さんの見解は――視線を向けると、もう普段と変わらない様子で、小首を傾げています。
「? どうかした??」
「いえ……琴さん、つかぬことをお聞きしますが」
「?」
「さっき、少し怒ってましたよね? 中ノ瀬君に対して」
「あ~うん。ちょっとね」
「なのに、今はもう普段通り。どうしてですか?」
「え? だって、直だもん。仕方ないよ~。相手があんなに綺麗な人と律ちゃんだもん。ああいう風になるかな、って」
「…………」
こ、これが、これが、幼馴染のアドバンテージ!!!
そこはかとなく漂う『私、分かってるから』。
心の中に広がる、この苦い味は敗――い、いえっ! 負けてませんっ! 負けませんっ!! 幼馴染が勝つお話は、流行らない、と言った筈ですっ!!
第一、勝負はまだ始まってもいないのです。だって、誰も、か、か、彼女になってませんし? ……彼女。ナオさんが彼氏。えへ。
私が、色々考えていると、左袖を引っ張られました。
「ねねちゃん」
「! な、何ですか。わ、私は別に」
「……あれを見てください」
「?」
透子さんが声を潜め、指で一組の男女? を指差しました。
とんでもない、美男美女です。まるで、芸能人のような――……ん?
いえいえいえ。そんな馬鹿な。
目の前の人と違って、あの人がわざわざ出てくるなんてことは。
「わぁぁぁ。綺麗な人だねぇ。男の子は~、私達よりも年下かな? 中学生?? だけど、すっっごく、整ってるね! だけど……う~ん、何処かでみたことがあるような……」
琴さんが、感嘆の声を漏らした後、腕を組み、考え込まれています。
私は、透子さんを見やります。面白がっているのが半分。困ったことになった、が半分。それで、察してしまいました。小声で尋ねます。
「(…………透子さん)」
「(……撫子と、もう一人は、さつきの弟さんです。因みに、シスコン)」
「(……なるほど)」
確かに、これは面白い事態であり、困った事態です。
撫子さんが参戦してくるのは、とてもとても、由々しきこと。
ですが……当面は、このネタで優位に立てます。直さんに教える、と言えば、あの撫子さんです。抑え込めます。
ですが、さつきさんの弟さんは……。
お姉さんが男の人と一緒だったらどういう反応になるんでしょうか。
琴さんが、のほほん、と促されます。
「二人共、直達、移動するみたいだよ~。行かないの?」
「「行きます」」
今は、中ノ瀬君です。
とりあえず、今日、さつきさんにしていたことは、後々、私にもしてもらわなければ!
中ノ瀬直は白魔術師を愛している 七野りく @yukinagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます