第9話

逃げ出した連中は、帰ってこなかった。

 自殺でもしたのかなと思ったが、考えても仕方がないと思った。

 僕はやられたことをやり返しただけ。これで問題になるのなら、どうして僕のときは何もならなかったと腹立たしくなる。僕は二年間耐えてきた。たかだか一発殴られただけで自殺とかしてほしくない。


「気分はどうだい? 転生、できたようだが」

帰り道、今泉さんに会った。

「今日で一か月。転生プログラムもこれに完了だ。これからは、好きに生きるといい。とりあえず、私の力は当分不要だろう?」

「ありがとうございました」

 僕は、感謝の言葉を告げる。彼がいなければ、僕は帰ってこれなかった。

「いや、頑張ったのは君だ。それに私はとりあえず一つの成功事例を手に入れることができた、君というね」

 彼は続ける

「それに、感謝というなら、いつかこの仮を返してくれればいい」

「どうすればいいんですか? けっこう重い仮ですけど」

「私が君に願うことは二つ。一つは私のことを覚えていて欲しいこと。二つは、私が困ったときに助けて欲しい、ということだ」

「アバウトですね。具体的には教えてください」

「いや、具体的も何もこれが全てさ。私は早い段階で人生に見切りをつけてね。自分の能力では、何もできないことを自覚してしまった。そして、自分が生きる目的について考えた」

 天を仰ぎ続ける。

「人はいつか死ぬ。そして、死んだらおしまいだ。何も残らない。だったら、私はなんのために生きればいい?」

 パチンと指を鳴らす。

「私は、永遠に生きたい。だから、誰かの心の中に生きていたい。救ってくれた人の記憶ってのは、深く心に刻まれるだろう? 私がたとえ今死んでも、君はきっと私のことを忘れない。さっき念も押したしね。そしたら、『私』は君の中で生き続けるられる。それに、君が成功者になったら、私はそのお師匠様として後世に残る。君の救世主としてね。凡才の僕は、君のような人をたくさん救って、伝説になりたいのだよ」

 続ける。

「いい人生だろう。救う過程で昨日のチンピラみたいなのには不幸になるけど、君を幸せにできる。悪しきをくじき、弱きを救う。その先で、私は天国に行けるのか、人生かけた実験だ」

「今泉さんは、必ず天国行けますよ。天国があれば、の話ですけど」

「私、人を殺してるんだ」

 飄々とした口調で言う。

「え?」

「それも20人くらい」

「えぇ?」

「だから、罪滅ぼしをしたら、ちゃんと天国へ行けるか実験。行けなかったら、救ってきた命に価値がなかったか、足りなかったか、そもそも、そんな制度じゃないから。仮に行けたら、私が殺した人間には価値がなかったということになる。どちらに転んでもかまわない。私は答えを得る」

「僕は……とりあえず、感謝してますよ。あなたのことは、一生忘れません。そして、誰かを助けるときには、僕も手伝います」

「そうしてくれると助かる」

 じゃあ、元気でね。と今泉さんは去っていった。「とりあえず、今回はここまで。縁があったらまた」と。


 彼がただの救世主ではないことは分かった。

 しかし、僕にとっては、まぎれのない救世主であった。

 彼がいつか、僕に助けを求めたら一番に駆けつけたい。そう思った。

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革新塾 虹色 @nococox

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