幕間 お伽話と王子様1
「よう!今日もきてやったぞ、月姫」
「………君は今日も無駄に偉そうだね」
月姫は呆れたように肩をすくめて、それでもってお客様を招いてやった。
部屋の隅に大切にしまってある茶器を取り出す。
その間に少年は火をつけて、ぽこぽこお湯を沸かし始めた。
「今日の茶菓子はついさっき厨房で蒸されたばっかの饅頭でーす」
その言葉通り、竹かごにはいった饅頭からは温かそうな湯気がたっている。
「君、またくすねてきただろ………」
「おう!」
全く、王子とは思えない手癖の悪さだ。
「せめて出来立てはやめて、余り物とかにしなよ。いっぱいあるだろ」
「えー。だって出来立ての方がうまいじゃん!」
拗ねたように彼は唇を尖らした。
このボンボンが!と喉元まで出掛かった言葉をすんでのところで月姫は飲み込む。
「それよりさ、ほら話の続き聞かせろよ。菓子と交換だろ?」
「………本当、君は物好きだよね」
この国には星の数ほど王子がいる。
けれどわざわざ菓子を持って、月姫のところにくるのは彼くらいだった。
「わかってないな、月姫は。俺は他のやつらと違って真の価値がわかる男なんだよ!」
「はいはい」
なんだかんだ言ってケラケラといつも明るく笑う彼が月姫は嫌いでなかった。
「じゃあ、君の好きな天上から落っこちて来たお姫様の話をしようか。
_____これは、昔むかしのこと」
いつも通りの口上に、彼は笑顔を消して真剣な顔で話しに耳を傾ける。
昔むかし、天上から落っこちたお姫様。
彼女が故郷に戻るまで。地上でのお話。
地上に落っこちたお姫様はちょうど通りがかった王子様に拾われてお城へと連れて行かれました。
_____それは幸せだったのかは誰にもわからない、喜びと悲しみの物語。
落日の箱庭 @leefie_no
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