刹那に微睡み

それじゃあ、また縁があったら。


そうスタコラサッサと立ち去ろうとした梨花の襟首を、陛下はむんずと捕まえた。


「!?!?」


ワタワタと暴れる梨花を子猫みたいにひょいっと持ち上げて。


「………やはり、へぼいな」


ボソッと漏らした。


そのくせ、神出鬼没に現れられるのは一体どういうカラクリだろう。



「………お、おろしてください」


身長差もあって梨花の体はぶらぶら宙ぶらりん。

陛下はしれっと梨花の言葉を無視すると、しげしげと彼女を観察する。

そして、興味は失せたとばかりにパッと手を離した。




「………」


いつかの時みたいに、彼女の体はベシャリと潰れた。

プルプルと彼女の体が震える。


(いったい、私が何したというの___!)


ずっとずっと前に彼女がしでかしたことは忘却の彼方である。



彼女が顔を上げた時にはヘボの評価は確定していたけれど梨花は粘った。



そこから梨花はいかに自分がへぼくないかを滔々と(と本人は思っている)__語った。


途中陛下は欠伸をして意識だけどこかへぷらぷら散歩させながらも、最後は大真面目を装って頷いた。

実際は全然聞いていないので評価は払拭されていない。


それでも梨花はヘボなので全然気づかず、満足げに足を踏み出した。




…………転んだ。



花びらに埋もれていた木の根っこに盛大に足を引っ掛けた。



「………」



流石に陛下も哀れに思ったのか、両脇に手を差し込んで抱き上げた。

扱いが先ほどより進化したのは、もしかしたら語った効果かもしれない。




陛下は子供を抱くみたいに片手で梨花を抱いて来た道を戻っていく。





そうして陛下は何事もなかったように戻って来たわけだけれども、王宮は上に下にの大騒ぎになった。



だって突如陛下が消えたと思ったら、見知らぬ少女を抱きかかえて戻って来たのだ。

しかもその少女は陛下の腕の中で大胆にもぐっすり眠りこけている。

慌てふためく官吏やら女官やらの脇を抜けて、陛下はぽいっと自分の寝台に梨花を放り投げた。



そのまま陛下は傍らでつまらなそうに書類をめくる。


衝撃で僅かに梨花は意識を浮上させたが、パラパラと書類を捲る音にまた微睡みの中に沈んでいく。

陛下もすやすやという寝息に耳をすませ、うとうとと微睡み始めた。






やがて、一つだった寝息が二つに増えた。















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