友達

怜 一

友達


 アナタは小学生の頃に誰と遊んでいたか覚えていますか?同じクラスの子だったり、同じ習い事をしていた子だったり。

仲の良い友達と鬼ごっこやサッカー、一輪車やお手紙交換なんかで遊ぶのが定番でしょうか。でもよくよく思い出してみると、その中に一人だけ本当に居たかどうかわからない、存在が曖昧な子がいませんか?そんな子がいたら、もしかしたらその子はアナタにしか見えていなかった子かもしれませんね。

  とある場所に住んでいるT子さんの家庭には、今年で小学校に入学する一人っ子の息子さんがいました。

 その日は無事に入学式が終わり、息子さんはさっそく周りの同級生と仲良くなり、これから学校へ行くことを凄く楽しみにしていました。そんな息子さんを見て、これからの新生活にT子さんも張り切っていたそうです。

  ですが、ある日息子さんが入学式の時に撮った集合写真を持って帰ってきてから異変が起こりはじめました。

息子さんはT子さんに対して、


  あの子がいないよ


と不思議そうに集合写真を見せてきました。

T子さんは訳がわからず、息子さんに話を聞いてみると、自分の両隣には男の子が居たと言うのです。しかし、その集合写真に写っている息子さんの左隣に男の子は立っていましたが、右隣には誰もいませんでした。

それは当たり前のことだったのです。

息子さんはその横一列の最後尾、あるいは先頭になる最も端の方に立っていたからです。


その隣にいた子は■■■という名前で、一番最初に仲良くなった子だと言うのです。

T子さんは少し不気味に思いながらも、子どもの言うことだからと、その時はあまり気にせずにいました。しかし、その日以降から息子さんは■■■と一緒に鬼ごっこをしたり、一緒に下校したことを楽しそうに話すようになりました。


 流石に心配になったT子さんは、息子さんを病院に連れていき精神や脳に異常がないか検査をしました。しかし、どこにも異常は見当たらず、なにも問題はないという結果になり、ついにT子さんは霊の存在を疑いはじめました。T子さん自身はオカルトのような存在を信じていませんでしたが、他に思いつく理由もありませんでした。


 後日、そういった類のお祓いができる神社へ向かうと、出迎えてくれた神主が少し怪訝な表情を浮かべたそうです。

そして、お祓いが一通り終わると神主はT子さんへお札を渡し、こう伝えたそうです。


 このお札を子どもの手の届かない高さで玄関の扉へ貼りなさい。

 決して子どもの手の届く場所へ貼ったらいけません。

 その後は3日間、息子さんを外へ出してはいけません。

 もし、なにかあった場合は息子さんの背中を思いっきり叩いてあげなさい。


 息子さんには、おかっぱ頭に女の子のお洋服を着た男の子の幽霊が憑いていたらしく、その子の手の届く高さにお札を貼ってはいけない。もし、手の届く高さに貼っておけば、剥がされてしまう可能性があるということ。

そして、息子さんから霊を引き剥がすためには3日間はそのお札で守られている家にいなければいけないということらしい。


 さっそく家に帰ったT子さんはお札を玄関の扉の高い位置に貼り、息子さんを家の中にひきこもらせたそうです。そして、その翌日から怪奇現象が起こるようになりました。

その日の夕方。

T子さんは家の中でいつものように家事をしていると


コン コン


コン コン


と、玄関の扉をノックする音が聴こえてきました。

 T子さんは家事の手を止め、扉を開けるため玄関へ向かいました。しかし、玄関に近づくにつれ普段の訪問ではありはない違和感に気づきます。

 まず、普通はノックではなくインターホンのチャイムを鳴らしますが、それは全く聞こえず最初から扉をノックする音だけが聞こえました、そして、もしそのノックしている人間が大人であれば、高い位置からノックの音が聞こえてくるはずです。

 しかし、このノックは











コン コン


コン コン


と普通の大人で考えられない低い位置から聞こえてくるのです。

  まるで、チャイムに手が届かないから仕方なく扉をノックしているかのように。

T子さんは恐る恐る覗き穴から来訪者を確認しようとすると


 〇〇くんがお休みしたので、学校のプリントを届けに来ましたー!


とドア越しから聞こえてきました。

 ホッと胸を撫で下ろしたT子さんは、ドア越しでその子とお話をしてプリントを玄関のポストに入れてもらい、帰ってもらいました。

 T子さんは気を取り直し、家事へ戻ろうとすると再び


コン コン


コン コン


と、ノックする音が聞こえました。

 さっきと同じ子だと思い、T子さんはドア越しに話しかけました。すると


〇〇くん。遊ぼうよ。家に入れてよ。


と、先程の子とは違う、中性的な子どもの声がしたのです。

 T子さんはその声の主が、息子さんに取り憑いていた子どもの幽霊だと一瞬で理解しました。T子さんは一気に息子さんのいる部屋まで駆け込み、そのノックの音が聞こえなくなるまでT子さんは息子さんを抱きしめていました。

 

  息子さんを引きこもらせてから2日目。

T子さんは前日に初めて幽霊を体験したため、よく眠れておらず、すこし意識が朦朧としていました。

 そして、再びその日の夕方。


 バァン! バァン!


 バァン! バァン!


と、家中に音が響くような力で思い切り扉が叩かれた。

 その轟音にハッとしたT子さんは息子さんの元へ駆け寄りました。しかし、なんと息子さんはフラフラとした足取りで玄関の方へと歩いていました。それに驚いたT子さんはなんとか息子を止めようとするも、物凄い力に引かれているようで息子さんの前進を止めることは出来ず、T子さんはズルズルと引っ張られてしまいます。

そして、玄関の方からは


 〇〇くん!一緒に遊ぼうよ!

  ずっと一緒に遊ぼうよ!ねぇ!〇〇くん!


という子どもが愚図った時のような怒鳴り声と共に、さらに玄関を叩く音も大きくなっていきます。

 ついにT子さんの制止も虚しく、息子さんが玄関まで辿り着いてしまい、息子さんが玄関のカギに手を掛けようとしたその時―――


   バンッ!


T子さんは息子の背中を思いっきり叩きました。すると、息子さんの意識はフッとなくなり、まるで最初から寝ていたかのようにグッタリと横たわったそうです。

  気がつくと、玄関を叩く音も消え、怒鳴り声も聞こえなくなっていました。

 どうやら今回は諦めたようで、その日はそれっきりなにもなかったそうです。


 そして、最終日。

 昨日の激しさから、最終日はかなり暴れる可能性があるとT子さんは身構えていましたが、その日の夕方はなにも起こらなかったそうです。

 さすがにもう諦めたかと思い、安心しきって息子と同じ布団で眠りにつきました。

 この二日間で起きた怪奇現象のせいでかなり疲弊していたからか、ぐっすり寝ていました。


 しかし、真夜中になってフッと目を覚ましました。

 なにか嫌な予感がする―――

 そう思い、周りを確認するが息子は隣で穏やかな寝息を立てており、取り憑かれたようにフラフラと歩く心配はなさそうでした。息子が平気なら他に心配はないはずなのだが、なにか妙な胸騒ぎが収まらずT子さんはあまり寝付けないでいました。

 すると、どこからともなく


 コン コン


  コン コン


という音が聞こえてきた。

 T子さんは戦慄し、慌てて玄関の方へと神経を集中させる。

しかし、その音は


 コン コン

  コン コン

  コン コン

  コン コン

 コン コン

  コン コン

  コン コン 

 コン コン

  コン コン

 コン コン

 コン コン

 コン コン

  コン コン


と、部屋中を埋め尽くしました。

 T子さんは隣で寝ている息子を力強く抱きしめながら、その音が鳴り終わるを祈りながら耐えていました。そして、ついにそれは鳴り止み、幽霊の気配は消えました。

 あまりの出来事に放心状態のT子さんは、張り詰めた神経が一気に緩み、眠りにつこうとしたその瞬間―――


  また遊ぼうね。


という声が聞こえ、そのままT子さんは意識を失ったそうです。


 後日、T子さん達は今回の事件があまりにも不気味だったため、遠くへ引っ越すことにしました。新しい環境でやり直しにはなってしまうが、幽霊がいる場所よりは余程マシということだろう。

 そして、今日は息子さんの転校先での初登校日。

 T子さんは帰ってきた息子さんに新しい学校は大丈夫だったかと聞くと、息子さんは元気よくこう答えたそうだ。


 大丈夫だよ!みんな遊んでくれるから楽しいよ!

それにね!すごいんだよ!

 


 




 教室にね!■■■くんがいたんだよ!






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