第11話 決意
「私のせいだわ……」
藤堂家からの帰り道、蝶子は深刻な表情で呟いた。
「なんでそう思うんだ」
時雨は蝶子の横顔を見下ろしながら冷静に質問した。
「あの日、光の君を一条殿が送っていれば、きっとこんなことにはならなかった……。私が強く断らなかったから、光の君は一人で帰ったのよ」
「それは結果論だろう。あのときこうなるとは誰も思っていなかった」
少女はその言葉を受け、青年にくってかかった。
「吸血鬼の話は皆知っていたのよ。彼女は吸血鬼に襲われたから、吸血鬼になってしまった。一条殿、あなたは特にわかっていたはずだわ」
理不尽だとは思いつつ、蝶子の怒りの矛先は時雨にも向いていた。
「あなたなら、光の君を守れたかもしれないのに……」
時雨は何も答えなかった。
何を言っても無駄だと思ったのかもしれない。
光の君がどれほど恐ろしい目にあったか。
栄や家族がどれだけ深く悲しんでいるか。
それを思うと蝶子は胸が押し潰されそうだった。
「一条殿は何とも思わない?あなたはそれでも人間なの?」
蝶子は目に涙を浮かべて時雨を睨みつけた。
少女はその言葉が完全に八つ当たりだとわかっていた。
だが気持ちが高ぶって自分を抑えることができなかった。
時雨は蝶子の言葉にぴくりと眉を動かした。
「俺は同情で彼らを救えるとは思えないが」
と冷たく言い放った。
「じゃあ、じゃあ他に何ができるっていうの。あるなら教えて」
どうせないでしょう、とでも言うように蝶子は語気を強めて言った。
しかし時雨から返ってきたのは意外な言葉だった。
「……可能性があるとすれば、君だ」
「え?」
なんのことか分からずに蝶子は聞き返した。
「君を助けた男がいたそうだな。黒髪に、金色の瞳をした人物だったと」
時雨は淡々と言葉を紡いだ。
「そうよ。長い外套をまとった不思議な姿だったけど……彼がなんだっていうの」
「そいつは、鬼だ」
時雨はさらりととんでもないことを言ってのけた。
「おに……?」
蝶子は混乱して時雨の言葉を繰り返した。
「奴なら、光子君をもとに戻す方法を知っているかもしれない」
蝶子は丸い目をさらに大きく見開いた。
「それ、本当なの……?彼の居場所は知っているの?」
「大体の根城はつかんでいる。君が望むなら、連れて行く」
蝶子はもちろん、とうなづいた。
蝶々結び〜嗤う鬼追い恋せよ大正乙女!!〜 七瀬 @ken_choco
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