第11話 少し成長した僕の日常 - Ⅷ -

-スターチス子爵 屋敷-


コンコン


「失礼します、トキトです。

 レイアズメイド長はいらっしゃいますか?」


「あら、入ってきなさい。」


 了承の声が聞こえたのを合図に扉の中へと入る。

背筋を伸ばした一人の老婆が柔らかい笑顔で迎えてくれる。


「良く来ましたね、トキト。

 昨日は寒い中裏庭の掃除ご苦労様でしたね。

 ルーカスも褒めていましたよ。」


「ルーカスさんが!良かった。

 リージアさん達も助けてくれたんだ!

 料理長にはスープを貰えたからポカポカで帰れたよ。」


「あらあら。

 料理長のスープは美味しいですからね。」


 しばらく僕が近況報告を一方的に話てレイアズさんが聞き手になってくれる。

ついつい話に夢中になっていると、鐘の音が響き渡る。


「そろそろ仕事が始まりの時間ですね。

 さぁ、ルーカスの所へ行ってきなさい。」


「支度の時間に邪魔しちゃってごめんさなさい。」


ついつい予定より長居をしてしまった僕は慌てて立ち上がる。


「ふふふ、大丈夫ですよ。

 ルーカスが『きっとトキトは朝からあなたレイアズの元を訪れるでしょう』なんて自信たっぷりに言われたらから準備は万端よ。」

レイアズさんは楽しそうにルーカスさんの物まねをしながら、そう教えてくれた。


僕は行動が読まれていた事に恥ずかしい様な単純な自分にがっかりな様な微妙な気分になるしかない。


「ルーカスさん、、」


「ふふふふ、あの時のルーカスったら」


 その時の事を思い出したのかレイアズさんは笑っている。

僕はジト目でレイアズさんを見て、仕事の開始の時間は迫っている事には変わり無いため退室をする。


「朝からお騒がせしました。

仕事に向かいます。」


「あら、怒らせてしまったかしたら。

 怪我には気を付けて作業をするんでよ。

 それから魔力量には気を配る事。

 いってらっしゃい。」


「…いってきます。」


 レイアズさんは僕の頭を撫でながら、注意をしつつ優しく送り出してくれる。


 僕は背を向け歩き出す。


 見えなくなるまで見守ってくれている様な気がした。




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-スターチス子爵 裏庭-


 あの後、僕は執事を筆頭とした使用人のメンバーに混ざり朝のミーティングに参加した。

普段は振り分けられた仕事のメンバーでさらに小規模のミーティングを実施後に各作業を開始していく。


『…はずなんだけど、なぜ今僕は執事長に着いてくる様に言われ裏庭にきているんだろうか。』


「執事長、本日も裏庭の掃除でしょうか?」


「いえ、掃除は一旦良いでしょう。

 土壁の残骸処理の痕跡が後一歩ですが、他は問題ありません。」


「ありがとうございます。」


昨日さくじつ話ましたが、あなたには複合魔法を覚えて貰おうと思います。

 旦那様スターチス子爵からも、時間を割いてでも覚えさせる様にと言付かっていますので覚悟してください。」


「し、子爵様からですか?

 今までそんな事はなかったのに…」


「言葉遣いが戻っていますよ、トキト。

あなたはあまり知らないかもしれませんが、旦那様は毎年白の月に貴族の集まりで王都に向かいます。

 白の月は寒いですからね、"暖風"が使える魔術師を連れているのは一種のステータスにもなります。

  あなたには"暖風"を覚えて、成人13歳になったビオラお嬢様と第二夫人のスレーミ様に付いてもらいます。

 心配しなくても、専属で執事もメイドもいますので、あなたは暖風で過ごしやすい環境を整える事に専念してもらう予定です。

 そうですね、目標としては白の月までに【"暖風"を半日程度継続して使用出来るレベル】にしましょうか。」


「半日も継続使用ですか!」


「魔力消費を常に必要とするあなたにはぴったりな魔法だと思いますよ。

 まずは生活魔法の特徴とは?」


「得手不得手はあるが全ての属性を使用出来る凡庸性です。」


「その通りです。

 その分いくら魔力を注ぎ込んでも一定以上の威力は出せないデメリットもあります。

 そして単調で弱い出力しか無い弱点を補う為に複合魔法が多く使用されています。

 あなたの場合特に"風"が得意な様ですから、風と火の複合魔法:暖風は覚えやすいと思います。」


「はい。」


「まずは自分の周りに風の渦を薄く作ってください。

 私がその風に乗せる様に火を付加していきますので、まずは2つの魔力色が混ざり合う感覚を覚えましょう。」


『まずはイメージ。

自分の周りを風が回っている。

自分を中心にそよ風が吹いている。』


「*纏え:風*」


「普段から身に纏うには威力が強いですが、練習としては問題無いでしょう。

 そのまま風の維持に集中してください。

 *混ざり合え:火*」


『って、ルーカスさんの魔力僕の魔力が負けてる!』


僕は風に魔力を注ぐ事で火に対抗する。


「それでは風と火が反発するだけですよ。

 火を燃え上がらせるのではない。

 風圧で火を消し飛ばすのではない。

 暖かい風を生み出すんです。」


「はい!」

『ルーカスさんちんぷんかんぷんです!』



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「逆に風が得意だから火を弾いてしまっている可能性もありますね。

 私が風を出しますから、あなたは火を混じり合わせなさい。」


「はい」

『ルーカスさん、そろそろ魔力がピンチです』




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「魔力が少なくなっていますね。

 吸魔のスキルに残りの魔力を注ぎ込んで一時的に活性化させなさい。

 私の魔力を少し放出しましょう。」


「…はい」

『ルーカスさん、そんな事しちゃって大丈夫なんですか?』



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「やはり他色の魔力が混じる感覚を掴む事は難しい様ですね。

 それに風の纏方も粗い。

 常日頃から風を纏う癖をつけなさい。

 ほんの少しで良いのです。

 周りに影響無い程度の風を覚えなさい。」


「…は…ぃ。」

『ルーカスさん、魔力を回復しても消費量の多さでくらくらします。魔力欠乏っぽいです



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「今日はここまでですね。

 自分の周りの温度を調節出来れば、環境変化がある場所他国やダンジョン等でも普段と変わらない状態を維持できます。

 将来あなたがどんな職に就こうとも役に立つはずです。

 まずは日常で周りに迷惑が掛からない様に風を纏う練習をしておく事。

 特に屋敷内では注意するように。」


「…ぐわんぐわんする。」

『倒れてるのにぐわんぐわんするー。吸魔頑張れ!超頑張って早く魔力を回復してくれー』


「今日は歩ける様になったら帰宅で問題ありません。

 ベルガ神父に封印の状態を見てもらうと良いでしょう。

 それでは先に戻ります。

 お疲れ様です。」



「ありがとうございました。」



『お、終わった』





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- ある日の亜空での会話 -



僕が複合魔法の特訓しているのを見ていたウカ様が言う



”水で野菜を煮込んでいくと溶けてなくなります”


”それは消えたのではなく水に溶け込んだからです”


”あなたは野菜をじっくり煮込んでスープを作れば良いのです”


”スープはあなたの得意料理でしょ?”




次の日短時間ながら複合魔法に成功した事は言うまでもない

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神が見守る世界で僕は 夜狸 @yotanu

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