第10話 少し成長した僕の日常 - Ⅶ -


-市場区 表通り-


 魔力を回復した僕は市場区エリアの表通りにきている。

ここはその名の通り大きな市場広場を中心に広がるエリアで、僕も買出し当番や休日の買物に使っている。


 また、食事時には広場の一角に出店が広がり食事をする事が出来る。

比較的安価で手軽な食事が多く、毎日たくさんの人で賑わっている。

店舗型の飲食店は市場エリアの隣にある"商業エリア"に並んでおり、食事時は市場同様に賑わいを見せている。

酒の販売を屋台では禁止されているため、ベルガ師匠の様に酒を呑む人たちは商業エリアに繰り出しているはずだ。


『店舗型のお店は品数も豊富だし、美味しいお店も多いんだけど少し高いんだよね。』


 先輩に連れて行って貰った時に食べた料理を思い出すしながら、目的の場所を目指して歩く。

周りからは美味しそうな匂いが漂っており、食べた事無い料理は覚えておいて次回の楽しみにしておく。



"ぐぅ~"



…僕は自分自身に急かされた様に歩む速度を速めた。



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 朝から昼に掛けて食料品を売っているエリアでは、地面に座り思い思い買ってきた料理を食べているグループがあちこちに広がっている。

ベンチやテーブルがある区間も準備されているが数が全然足りていないため、地面でも気にしない人の多くは夜限定でここ食料品売場を使う事が多い。

野営をする機会が多い兵士や冒険者が地面に座って騒ぐ姿が多く、僕の様に薄いクッションやタオルを持ってきている人も居る。


 僕がキョロキョロと周りを見回していると声が掛かる。

「トキト、こっちだこっち。」孤児院からの友人である"リッド"が手を振りながら呼んでる姿を見つけて速足で向かう。

リッドの近くでは"アルト"が、戦利品美味しそうな料理を持っているのが見える。



空きスペースを確保して待っている二人の元へ辿り着く。

「ごめん、遅くなっちゃった。」



手をひらひらさせながら兵士見習いの"リッド"が言う。

「気にすんな、俺等も今ここに着いた所だ。」



両手でいっぱいに料理を持ちながら冒険の教会冒険の神:ガーベラで下働きをしている"アルト"が戦果を告げる。

「今日はラトリで串焼きが買えたんだ!暖かい内に食べよう!」



僕はスペースに生活魔法・土を使いテーブルを作りながら、アルトの手にある串焼きに目を奪われる。

「ラトリってミニマモウの肉の?凄いね!いつも売り切れてる人気店じゃないか!」


「今日は時間があったから並んでみたんだ。

 先に場所取りして待ってるつもりが凄い行列で予定通りの時間になっちゃたよ。」


「俺も来る途中に何品か買ってきたから、もう食べちまおうぜ。

 足らなかったら追加で買えに行けばいいだろ。」

リッドはそう言いながら地面に置いてあった料理を出来立てのテーブルに並べる。



 2人が準備してくれた料理のほとんどが肉で占められている事に苦笑しながら、僕はバックから調理済の野菜や調味料と鍋を取り出し即席でスープを作る。

調味料はウカ様から手に入れた料理本にあった"自家製コンソメスープの素"のレシピを参考に作ってみた物でだ。



冒険者のポーターとして活動もしているアルトが真剣な顔で訪ねてくる。

「相変わらず生活魔法は何でもありだね。

 今度長期クエストとかあったら料理人として呼んでもいいかな?」


会えば一度は言われるセリフに毎回変わること無く返答する。

「断固拒否する。」


スープから立ち上る良い匂いに"尻尾"をぶんぶん降りつつ、頭にある犬耳をしょげらせる。

「せめてその粉末を売りだしたりしなの?

 結構売れるとおもうんだけどな。」


僕は完成したスープを二人に配りクッションに座る。

「商売をやる余裕と納得のいく味に仕上がったら考えようかな。

 獣人は野菜嫌いの人が多いけど、アルトは野菜スープ好きだよね。」


「昔からトキトは料理が好きだったけど最近特に凄くないか?

 俺も野菜好きじゃないけどこのスープの匂いはやばいな。

 って、アルト!食う前に祈りが先だろ!」



 昔から変わらない雰囲気が嬉しくて笑い出す。

そんな僕に気付いた二人も笑い出し、久しぶりの再会を祝って料理を食べ始めた。



 孤児院の同い年同士で兄弟の様に育った。

スキルの儀以降別々の道に進んでいるが、各色月に一度は会って食事をしている。



 ガキ大将で負けん気が強かった"リッド"は騎士を目指して兵士見習いとして街の守りについている。


 好奇心旺盛だけど引っ込み思案だった"アルト"は冒険者を夢見て冒険の教会で下働きをしつつ、ポーターとして冒険者の支援をしている。


 痛いのが嫌で本を読んでばかりいたトキトは魔法教会で吸魔対策に奔走する。




『あらためて考えると僕って残念じゃないか…』


目標のために働いている二人が少し眩しく映ってしまう。


色々な事に挑戦をしているけれど、どれも中途半端になってしまっている現状に悩む時もあった。



『まぁ、いつか僕にも夢が出来る時がくるだろう。

 その時のために日々努力と適度な休憩が大事ってウカ様が言ってたし。

 とりあえず今は料理スキルを上げるチャンス!

 今日はせっかく滅多に食べられない串焼きがあるんだから、秘密秘伝のレシピを暴いてみせるんだ!』



僕は串焼きの肉を頬張りながら、ソースのレシピを探ろうと舌に神経を集中する。



「トキト、この串焼きのソースを超えられたら俺に売ってくれ。」

「リッド抜け駆けは無しだ!トキト君、僕にも頼むね。」


「そんな簡単に出来るもんじゃないだけどね。

 でも、そんなに期待してくれるなら、残りの串焼きを全部食べて少しでも味を覚えさせてくれるよね?」


僕のセリフが終わらない間に二人は素早く両手に串焼きを確保する。

「今の話は無かったことにしてくれ。」

「スープの方を優先してもらいたいし、串焼きはそのあとで良いと思うんだ。」


「掌返しが早すぎる!って、二人とも食べるの早すぎ!」


料理を食べるスピードが上がってしまった二人に負けじと僕も急いで食べる。



久しぶりの友人たちと過ごす時間は特別な何かが起きる事もなく、穏やかに過ぎていった。




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- ある日の亜空での会話 -



僕の悩みを聞いた"ウカ様"は言う。



"あなたの人生はまだまだ長い"


"いつの日か命を賭して成し遂げたい物に出会えるかもしれません"


"いや、もしかしたら既に出会っているかもしれません"


"今は思うがままに生きなさい、トキト"


"いつかあなたが過ごしてきた時間が力になりましょう"


"進んで悩んで考えて休んでまた歩んだ道程こそがあなたを成長させるのですから"


"あなたはあなたのペースで進めば良いのですよ"




"ですが、そうですね"


"私はいつかあなたが作る稲荷寿司を食べてみたいです"


"その土地には無い作物農作業調味料調合と素材集め調理技術料理スキルが必要ですからね"


"あなたの生涯の目標が決まるまでの目標にどうですか?"



そう締めくくった"ウカ様"は少し恥ずかしそうな声音だった。


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