第9話 少し成長した僕の日常 - Ⅵ -
僕は肌寒さを感じて目を覚ます。
「…寒い。
今年こそは布団を買おう。」
布団から出た僕は、まだ眠い目を擦りながら、外へ行き桶に生活魔法で"水"を溜めて"火"で温める。
顔を洗い眠気を飛ばした後で、昨夜仕掛けた罠の確認をおこなう。
案の定と言うべきか罠に掛かった形跡があり、酔い覚ましの残量が減っている物を見つける。
『はぁ、今日も自宅に帰らないで宿舎のどこかで寝てるな師匠は…。
最近呑んだ日は酔い覚ましを求めて、罠に掛かりにきてるんじゃないかって思っちゃうな。』
魔法教会に参拝に来た人が誤って罠に掛からない様、一つ一つ撤収又は機能を停止させていく。
特に"付与"を使って作動させている罠は、魔力の流れをしっかり確認して停止させないといけない分神経を使うし魔力も消費する。
魔力罠の方が見付かり難く便利だが、知識だけでなく設置と撤去にも魔力が必要なため、普通は複数箇所設置する事はあまりしない代物だ。
僕にとっては、寝る前と朝の両方で魔力消費出来て師匠の酔いも醒ませるという、まさに一石二鳥な技術だったりする。
『それでも最近罠解除だけじゃ朝の魔力消費が出来なくなってきたな。
これ以上罠は増やしたくないし、魔力の使い道のある寒い時期が終わる前に何か考えないと行けないかな。』
全ての片付けが終わると、再度生活魔法で湯を準備し身支度を整える。
この時間になると宿舎で生活している人達も起きだしてくるので、"魔力欠乏"にならない程度に頼まれれば湯を提供する。
"魔力欠乏"とは魔力量が一定以上減った際に発生する症状だ。
個人差があるため一概には言えないけれど、平均して総魔力量の20%を下回ると眩暈や頭痛が起き、10%を下回る事には動けなくなる事もある。
また、人は誰しも血に宿る魔力が全身を巡っている状態で自然と生活している。
魔力欠乏発症時は、血に宿る魔力の量が落ちる傾向にあり、一時的に身体能力が落ちてしまう。
僕は魔力量が半分を切った段階で、断りを入れつつ部屋へ戻る。
魔法教会だけあって、全員が魔法使いだからこそ魔力量の管理は理解しているため引き止められる事も無い。
魔法教会の正装に着替えた後は、聖堂にて朝の祈りを捧げた後に食堂で朝食を食べる。
その後は教会の奉仕作業として、掃除をしたり・参拝に来た方の相手をしたり・神父様や司祭様の付き人として他教会やギルドに出向いたりする事となる。
僕は基本的に街の中で過ごす事を希望しているため、付き人としてあちこち出向く事が多い。
魔法協会を主軸に活動する人の多くは"戦闘系魔法職"が多く、"支援系魔法職"はベルガ師匠も兼務している"癒しの神:ダリア"の教会に所属する人が多い。
他にも研究メインであれば"学問の神:ブルベリー"の教会も魔法職が多く所属している。
ベルガ師匠が変わり者なだけで、大半の人は主神を決めて1つの教会に所属する事が多い。
所属していない教会に参拝に行くのは自由だし、多く所属する事で縛りが多くなる事も無いからだ。
僕は調合しながら亜空で野菜を作って暮らすのが目標だから、成人後どこの教会にも所属するつもりは無い。
『するつもりが無いと言うよりは、["豊穣の女神:ウカノミタマ"を主神に決めている]が正しいのかな』
将来所属しないからと言って、今の僕を育ててくれている魔法協会のために働く事に疑問は無く、手を抜く事もない。
今日も、
もう一度同じセリフになるが、魔法教会の主軸は
そのため、現魔法教会所属の下働きの中で"唯一"街で働く事を希望する僕は、協会の数少ない運営メンバーから
『午後から司祭様と会合に行く予定だから、午前中に掃除を終わらせてもう一度魔力を消費しちゃおう。
その前に、ベルガ師匠を捕まえて夕方からの授業の調整をしないと!』
頭の中で予定を立てつつ、僕は手を止める事無く作業を進めていく。
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-魔法の教会 [一室]-
日が傾き街に灯が必要になるかどうかの時間
会合から戻った僕は正装から着替え、動きやすい格好でベルガ師匠が待つ部屋へ急いだ。
扉をノックした後に、返事を待たず部屋に入った。
「トキトです、遅くなりました。
遅れたからって、お酒飲んでないですよね?」
ベルガ師匠が苦笑と共に返事をくれる。
「随分な挨拶じゃな、トキト。
心配せんでも呑んでおらんよ。」
「それなら良かったです。
今日は会合が長引いて遅くなりました。
時間が少ないのでさっそく始めましょう。」
師匠もやる気に溢れた声量で宣言する。
「うむ、やる気は十分の様じゃな。
儂も今日はいつもの店に良い酒が入ったと情報を得たからの、遅くならないようにせねばな!」
僕は師匠の言葉に苦笑して、次の言葉を待つ。
「今日は"封印"と"阻害"の魔法につていの授業じゃ。
と言っても、既に概念等の座学は終わっている内容じゃ。
何か質問はあるかの?」
『"封印"はスキルの儀以降"吸魔"を抑えてくれている、僕にとって馴染み深いスキルだ。』
僕は頭の中で情報を整理しながら、自身の魔力を活性化させていく。
『"阻害"は対象の体に自身の魔力を纏わせ、魔法やスキルの発動する兆候である魔力の渦の発生を乱す事で妨害している。
最近やっと"阻害"スキルで纏わりついている魔力の動きを感じとれる所まできてる。
体を巡っている魔力を媒介に、常時発動を繰り返している"吸魔"を阻害している事も、ぼんやりと掴めてきてると思う。
今までは"吸魔"が作る魔力の渦が小さ過ぎてなかなか阻害されている感覚が掴めなかったんだよね。』
僕は少し得意げに、少し悔しそうに伝える。
「特に質問はありません。
最近やっと"魔力を乱されている"感覚がわかってきたと思います。
"封印"については、まだ感じとれていません。」
師匠は嬉しそうに、目元も緩めながら自分の考察を述べる。
「うむうむ、そこまでわかれば"阻害"は直に感覚が掴めるかもしれんな。
やはり生活魔法持ちは様々な適正が幅広くありそうじゃな。」
その後は、ひたすら師匠の魔法を"阻害"する実習の時間となった。
『僕の肉体強化や生活魔法の発動する時は、"封印"も"阻害"も発動していない。
どうやって"吸魔"と"それ以外"を識別しているかがわからない。』
この日僕は"阻害★"スキルの発現に成功する。
師匠の様に"阻害状態"にするのではなく、まだ相手の魔法を感知して発動を"阻害"する事しか出来ないけれど。
師匠はスキル発現に上機嫌になりながら、僕を見下ろし話掛けてきた。
「その年で"阻害"を
後天的に"阻害"を取得出来たケースは少なくての、後で確認するから忘れないうちに感覚をまとめておくようにな。」
僕は嬉しくて叫びたい衝動に掛かりながらも、"魔力欠乏症"で床に倒れている事しかできない。
「…ぐわんぐわんする。」
『倒れてるのにぐわんぐわんするー。吸魔頑張れ!超頑張って早く魔力を回復してくれー』
結局その後僕は魔法を使える程回復する事が出来ず、倒れながら注意事項を聞いて終了となる。
言いたい事を言い終わった師匠は、颯爽と僕を置いて部屋から出て行った。
放置された僕は新たな目標を立てて、己を奮い立たせるのであった。
「…いつか酒耐性アップの魔法を覚えて付与してみせる。
絶対に酔えない様にしてみせる。」
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