まず一目でわかるのは、戦闘の描写のテンポと濃密さ。
すぐ耳元で剣風と剣戟の音が聞こえてきそうな迫力感は、たしかな知識とこだわりなくして作れないリアリティを生み出しています。
それも、ただのチャンバラに終始するなく、その身体の動きや足さばきからは剣士たちの思考や意図といったものが感じられます。
他の追随を許さない、一足踏み込んだ描写の数々は、読んでいるだけでさながら時代劇の殺陣のような情景がすっと頭の中に流れ込んでくるかのようです。
そうしたリアリティの土壌あればこそ、フィクションも輝きます。
飄々とした剣術指南、無雲斎とその彼を狙ってやってきた兎角のメインふたりはユーモアを持ちながらも妖しげで暗い影を持ち、その弟子たちも独特の個性や魅力の持ち主であり、この作品の物悲しさをやわらげつつも魅力的に引き立てています。
五話完結という短いストーリーながらも、いやだからこそ、その中に広大な世界観の広がりを感じさせる、剣の道の悲哀を描いた名短編であると断言できます。
口惜しい――私は実に口惜しい。
なにが口惜しいか。それはこの小説の面白さがである。
小説を書く人間の端くれとして、私はこの小説に激しく嫉妬させられた。
「柳生十兵衛――心眼の太刀」において剣豪・柳生十兵衛の痛快なる活躍を活写した超獣大陸先生は、間を置かずに公開したこの小説で、またもや剣豪小説の魅力に溢れた快作をものしてみせた。
文量は「柳生十兵衛」よりもいや増して、面白さの密度はけして前作に引けを取らない。否、長ければ長いほど抜群に面白くなるのがこの作者の特徴なのである。
本作に登場する剣豪は松林蝙也斎。徳川家光の御前試合において「蝙蝠」と称された剣豪だが、この物語の主人公は蝙也斎自身ではなく、この老剣士に師事する若き剣士である。
前作で見せた戦闘描写のクオリティはそのままに、本作ではこの二人の剣の道に対する思想もまた魅力のひとつとして加わっているのだ。
剣の道――それは得てして血塗られた道だ。その道の過程で、若き主人公は何を見、そして何を悟ったのであろうか。
読者よ刮目せよ――ここにエンタメ小説の真髄がある。