『剣客商売』の再来とも言うべき珠玉の短編

まず一目でわかるのは、戦闘の描写のテンポと濃密さ。
すぐ耳元で剣風と剣戟の音が聞こえてきそうな迫力感は、たしかな知識とこだわりなくして作れないリアリティを生み出しています。
それも、ただのチャンバラに終始するなく、その身体の動きや足さばきからは剣士たちの思考や意図といったものが感じられます。
他の追随を許さない、一足踏み込んだ描写の数々は、読んでいるだけでさながら時代劇の殺陣のような情景がすっと頭の中に流れ込んでくるかのようです。

そうしたリアリティの土壌あればこそ、フィクションも輝きます。

飄々とした剣術指南、無雲斎とその彼を狙ってやってきた兎角のメインふたりはユーモアを持ちながらも妖しげで暗い影を持ち、その弟子たちも独特の個性や魅力の持ち主であり、この作品の物悲しさをやわらげつつも魅力的に引き立てています。

五話完結という短いストーリーながらも、いやだからこそ、その中に広大な世界観の広がりを感じさせる、剣の道の悲哀を描いた名短編であると断言できます。