第2話 丸亀製麺の釜揚げうどんと親子丼

※本場香川県は嘘みたいに安い値段で恐ろしく美味しいうどんが食べられますが、そこを引き合いに出すと戦争が起こるのでこのお話ではノータッチでお願い致します。




「くそー!負けてしまった!!何故だ!!」



 時刻はお昼にさしかかろうかと言う頃、ユニフォームが入った大きなかばんを持った6人組が歩いていた。


 ヘラジカ、ハシビロコウ、シロサイ、パンサーカメレオン、アフリカタテガミヤマアラシ、オオアルマジロ。彼らは同じフットサルチームのメンバーである。



「やっぱりボールを確保したときの勢いが足りないのか?」


 彼女達のチームは隣町のライオンが率いるチームに、50連敗してきた。そして、今日で51連敗目である。


 しかしヘラジカのチームも個々の能力では決して負けていない。要は、チームワークの問題なのだ。



 後に彼女達のチームに名監督が入る。そしてライオンたちのチームと合わさり、サッカーのチームとなって全国優勝するのだが、またそれは別のお話。




 そんなことより彼女達は育ち盛り。スポーツで激しく運動した後はやはり─────



 ぐぎゅるるるるる〜



「…なんだ、シロサイ! お腹がへったのか! 私もだ!」


「うう ヘラジカ様大きな声で言わないでくだサイ、恥ずかしいですわ///」



「よーし、負けたことをくよくよしても仕方ない!皆で美味しいものでも食べに行こう!」



 ヘラジカは後ろについて来る皆を振り返り大きな声で呼びかける。



「うう〜ん」


「えーと」



 返ってきた反応はあまり芳しくないものであった。



「どうしたお前達!? お腹が減っていないのか!」



「いや、違うでござる……」


「実はちょっと欲しいものを買ってしまったせいでお小遣いがほとんど無いですよー……」



 うつむくカメレオンとアルマジロ。彼女達のポケットから出てきたお金は、158円と194円であった。



「な、なるほど。確かにこの金額では行ける所なんてハンバーガーぐらいしかない、な。しかしハンバーガー1つではさすがに……」



 勿論各々家に帰れば昼食はあるであろう。しかし、せっかく一緒に食べるのだからもっとしっかりしたものが食べたいと思ってしまうのはしかたのないことである。


 そして、お嬢様であるシロサイ以外皆、懐事情が芳しくなく、軽々しく奢ることも出来なかった。



「うーむ せっかくだから皆でご飯を食べた後に少し遊びにも行きたかったが、止むなしか。各自お昼を家で食べてから遊べるやつだけまた集合…」



 そこまで言って、ハシビロコウが立ち止まって何かを見ているのに気がつく。



「どーした? 何か気になることでもあったか?」



 傍らに立ったヘラジカに対して、ハシビロコウは自分が見ていたものを指で指し示す。


 それは、電光看板であった。天気や気温を教えてくれる、アレだ。

 そこにはこう書かれていた。



「5月1日 晴れ 降水確率10% 気温 22℃」



 それを見ながらハシビロコウは呟く。


「今日は、1日……」



 「んん? おお! そーか! 今日はアレの日か!!」



 眉間にしわを寄せた様子から一気に明るい顔を取り戻したヘラジカは、自分達のせいで食べにいけないと落ち込む二人の下へ駆け寄り、両腕をまわしてがしっと肩を組む。


「わっ!」

「へ、ヘラジカ様!?」



「大丈夫だ!! 行くぞ、お前達! 今日の昼は……うどんで決定だあ!!」





外食フレンズ! 二店目 丸亀製麺の釜揚げうどんと親子丼






「ほ、本当にこの手持ちで大丈夫でござるか?」



「安心しろ、私は嘘は言わん! 皆着いたぞ、ここが目的地、丸亀製麺だ!」



 不安がる二人をなだめながら、店の入り口へと向かう。



 丸亀製麺は讃岐うどんを提供している全国チェーン店だ。釜揚げうどんが名物で、47都道府県に必ず一店舗は存在するらしいので貴方の住む所にもきっとあるであろう。

 なお、“まるかめ“ではなく“まるがめ“なので読むときは注意してほしい。

 


 店舗の中で、何よりも目を引くのが、目の前にあるゆで釜と大きな製麺マシーンである。丸亀製麺は、この製麺マシーンを使って店内で粉からできたての生うどんを作り、大きな釜を含め調理場が全て見えるため茹であげの臨場感が味わえるのだ。



「へ、ヘラジカ様!!」



 後ろから慌てた様子でヘラジカの袖を引くアルマジロ。



「ない、ないですよ! 158円で食べられるメニューなんて、どこにも無いですよ!」



 丸亀製麺のうどんメニューの中で最も安いのは釜揚げうどんの290円(税込)。勿論単品ご飯やいなり寿司、おにぎりなんかはもう少し安いが、あくまでうどんを食べに来たのであれば所持金が足りない。


 そしてその会話の横では、ヤマアラシが行列に舌を巻いていた。



「それにしても混んでるですぅ。すごい人気店ですぅ?」


 ヤマアラシがそういうのも納得の混み具合。店の外にまで出そうなほどの行列。しかし、回転は速いのか列はどんどん進み、店から食べ終わった人がどんどん出て行く。



「人気店なのは確かだが、この行列は今日だけだ、普段はここまでではない。なにせ今日は月に一度の釜揚げうどんの日だからな! 今日は、釜揚げうどんがなんと通常の半額で食べられるのだぁ!!」



「は……半額!? 290円÷2ってことは、145円!?」


「そしてそこから端数切り捨てて140円だぁっ!!」


 そう。毎月1日は丸亀全店釜揚げうどんの日、並一人前140円(税込)で食べられるのだ!(釜揚げうどんのみ。並、大、得、全サイズ半額対応! この日は釜揚げに限り天ぷら50円引き等、クーポン等の併用は出来ないので注意!!)



「安価だが侮るなかれ、丸亀製麺のうどんは旨いぞ!」



 半額をさしおいても、290円で食べれる至福の外食であることは間違いない。



「よし、突撃だぁ!」



 ヘラジカを先頭に列に並ぶ一行。丸亀が初めての人間は、前に立つ人物の行動から、注文までの一連の流れを学んでいく。


 もし大切なあの子と一緒に行くなら先に立って守ってあげよう。ただし始めてのデートで連れて行ってはいけない。



 さて、列が進み、ヘラジカが釜揚げうどんの並盛を注文、店員さんがそれを聞いて、うどんを茹でる。大きな釜をうどんが踊る。打ちたて、茹でたて、美味しくない訳がない。

 桶に入れて渡された釜揚げをお盆にのせる。その重みに、心がはずんでしまう。 


「よし、行くか……」


 ここまでは店員さん任せ。しかし、ここから、己との闘いが始まる。


 まず待ち受けるは最初にして最大の壁、天ぷら軍団。かしわ、ちくわ、玉子、カボチャ……様々な具材が「俺は旨いぞ!ほら、うどんのお供に取っていけよ!」と叫ぶ。


 そしてそんな天ぷら達の中でも敢えて、心を鬼にして敢えて首領(ドン)を決めるとすれば、それはこれ。野菜かき揚げ(税込130円)、こいつだ。スーパーで売ってるフリスビーにして投げられそうな薄いやつ何かとは格が違う。体積、ひたすらに体積だ。

 美味しさの円柱体、それが野菜かき揚げなのだ。がぶりと豪快にかぶりつけば、サクサク食感と、細切りの玉ねぎやニンジン達、野菜の旨みがじゅわりと溢れ出してくる。


「普段なら必ず取る一品……だが、今は───」


 ヘラジカ、釜揚げしか食べられない二人の事を考え、涙を飲みかき揚げをスルー。ちなみに売り切れてる天ぷらも言えば揚げてもらえます。


 そんな心の激闘を制した者に、次なる刺客が待ち受ける。おにぎり、いなり寿司だ。だがかき揚げの誘惑が強すぎるのでそれを退けた者なら多分ここはスルーできるだろう。

 ここでおにぎりを取るよりもうどんのサイズアップをはかるべし。贅沢は小出しにしては駄目なのだ。


※筆者の勝手な言い分です。おにぎりも美味しいです。



 そんなこんなで全てのコーナーを終え、お会計に移る。



本日のお会計



釜揚げうどん 並 140円(税込)




 勝った、勝ったのだ。あらゆる誘惑を立ちきり、毎月1日にのみ許される究極のコスパ飯へ、ヘラジカは至ったのだ!!


※コスパが正義ではありません。自分の好きな物を好きなように食べてください。筆者は冷やしぶっかけうどんが大好きです。



 後ろに続くフレンズ達も、釜揚げのみを注文し、会計を済ませヘラジカの元へ集まる。


「さて、しょうがとネギ、天かすは取ったか?」


 ネギと天かすは取り放題、しょうがも入れ放題。釜揚げなら、入れすぎる人はいないと思うが、かけやぶっかけは入れすぎ注意。


 運良く皆で座れる所を確保し、席に着く。釜揚げが6人前も並ぶのは、壮観だ。


「いざ、実食! いただきます!」


 ヘラジカは、先陣を切って食べ始める。別に貰ったつけつゆの器に、ネギと天かすとしょうがを加え、軽くかき混ぜる。


「はっ!」


 湯の中に泳ぐうどんを掴み、箸で持ち上げる。つゆにつける為、うどんを最後まで持ち上げなければいけない。だがうどんの長さは想像以上に長い。その為……


「あっ! ヘラジカ、そんなに持ち上げると……」


 ハシビロコウの制止は少し遅かった。


 つるっ!


 びちちっ!


「おわっ!」


 たくさん掴みすぎたりしっかり掴めていないと、うどんが落下してしまうのだ。掴みすぎには注意、適度な長さに箸で切ってから食べるのも良いだろう。


「す、少し驚いたが改めて……」


 つゆにつけ、ネギや天かすとからめ一気にすする。


「ん~、旨い、旨いぞぉ!!」


 適度にコシのある麺が、つゆと絡み口の中に幸せが広がる。うどんのどっしりとした味が、力強さを感じさせてくれる。


 その様子を見て、皆一同に食べ始める。


「美味しいですぅ! 学食のへろへろうどんとはコシが全然違うですぅ!」

「ネギ沢山いれちゃうですよー!」

「ゴマが香ばしいでござる!」

「ほっとする、いつもの味……」


 今回は釜揚げだけだが、それでも薬味や食べ方によって千差万別の美味しさが生まれる。冷やしも美味しいし、明太釜玉なんかははまったら抜け出せないかもしれない……



「ん? どうしたシロサイ? 口に合わなかったか?」


 シロサイは一口食べて、そこで止まっていた。


「わたくし、今まで冷やしぶっかけばかり食べていましたわ。うどんはコシが命だと、温めてコシが無くなる釜揚げは邪道だと……」


 そこまで言って、再び箸が進み始める。


「でも、それは勘違いでしたわ! 釜揚げでもしっかりコシがあり、こちらの方がうどんそのものの味をしっかり味わうことができます。食べもせずに敬遠していたのは間違いだったと気が付きましたの!」


 箸が止まらないシロサイ。うどんが跳ねることも気にせず食べ進め、一番に食べ終わってしまった。


「ああ……もう終わってしまいました」


 さすがに並だけでは食べ盛りのフレンズ達にはもの足りなかった様だ。


「今度はもう少し余裕があるときに来よう! かき揚げをつければかなりボリュームが増えるぞ!」


「じゃあ、そろそろ……行く?」


 かき揚げが食べられなかった未練を少し口にしながら、お盆を返却口に持っていこうと立ち上がりかけたその時、後ろから声がかかった。


「おぅやぁ~? ヘラジカァ、奇遇だなぁ……」


 そこには、お盆を両手に一つずつ持ち、片方に釜揚げうどん、もう片方に何やら丼を乗せた、食べ盛りライオンの姿が合った(プライドモード)!


「ライオン! お前も昼飯か……!?」


 声をかけられた彼女はヘラジカの肩越しに皆が食べていた物を見て、ほーう、と声をあげる。


「確かに釜揚げは旨いよなぁ…… でも、丸亀で真に一番旨いのはこれだぞ……?」


 ヘラジカの隣に滑り込み、テーブルの上の空いていたスペースにお盆をどん!と置く。


「ふわとろ玉子の親子丼……できたてだぁ……!」


 6人全員がその親子丼を覗き込む。半熟玉子でプリップリの鶏肉とシャキシャキの玉ねぎがとじられ、上にひとつまみ乗せられたミツバが視覚を彩る。

 そして何よりもどんぶりから漂うだしの香り。嗅いでいるだけで、よだれが垂れてくる。まだ食べたりない一同の前に出すには、犯罪的な一品であった。


「注文した後、目の前で柄つき鍋で丁寧に作ってくれるんだぜ? 素早い手さばきで、最も美味しい半熟のタイミングで仕上げてくれるんだ…… 絶品だよ、こいつは……」


 見ている者の喉がごくりとなる。


「食べたいかぁ? ヘラジカァ……?」


「な!?」


 ライオンは箸で親子丼を一口つまみ上げ、ヘラジカの口の前に持っていく。黄金の玉子がご飯に染み込み、鶏肉がプルプルと震えジューシーさを訴える。


「ほら、一口やるよ……!」


「う……ぐ……」


 ヘラジカは歯をくいしばって耐える。


「ほら、ほらぁ……」


「ぐぐぐぐぐぐ……!!」


 その時、シロサイがテーブルを叩き声をあげる。


「お止めなサイ!!」


「どうした? 私はヘラジカに親子丼を分けてあげてるだけだぞ……?」


「ライオンさんがヘラジカ様の事が好きで、そのようなちょっかいを書けていることは分かっています! それでもイタズラが過ぎますわ!」


「へ? ……………………いやいやいや何いってんの!?///」


「ライオン私の事が(選手として)好きなのか!?」


「そ、そんな訳ないじゃんかー/// シロサイいい加減に……っていないじゃん!」


 ライオンが慌てている間にシロサイの姿が消えていた。


 店内を見渡すと、調理場の方からシロサイと店員さんがお盆を抱えてこちらに来ていた。


「今日だけ特別ですわ! 親子丼6人分です!」


 慌てて釜揚げの器を皆で片付ける。新しく親子丼が皆の前に置かれる。


「シ、シロサイさん、いいんですぅ!?」


「構いませんわ、私に釜揚げの美味しさを教えてくれた、そのお礼ですわ!」


 シロサイは自分も急いで座り、親子丼をかきこむように食べ始める。


「いただきます! はぐ……! こ、これは絶品ですわ!」


 その反応に皆顔を見合わせ、一斉に丼を手に取り食べ始める。


「鶏肉が肉厚なのにまったくパサつかなくてジューシーですぅ!」

「ん~! つゆだくでご飯が止まらないですよー!」

「七味をかけるとまた絶品でござる!」

「これは新境地……!」


 うどんが力強さであれば親子丼は包み込む優しさ。舌の上でとろけるその味は自分の舌がとろけているんではないかと錯覚するほどだ。


「ふぅ…… ライオンさん、美味しい物は皆で食べてこそですわ」


 親子丼を完食したシロサイに面と向かってそう言われ、ライオンは恥ずかしさで真っ赤になってしまった。


「め、めんごめんご~……本当にちょっとしたイタズラ心だったんだよぅ……」


「まあまあ、良いじゃないか! ほら、一緒に食べよう!」


「うん…………///」

 


追加のお会計


ライオン


釜揚げ 並 140円

親子丼 小 390円


計     530円(税込)


シロサイ


親子丼 小 390円×6=2340円(税込)




 二人仲良く食べれば至福の親子丼。皆のうち誰かひとりだけ注文していると戦争になる恐れがあるので、くれぐれも注意してほしい。



※親子丼は特定店舗限定メニューです。取り扱いの無い店舗がありますのでお気をつけ下さい。

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