特別製エレベーターマンションにお住いのみなさまにお知らせ

ちびまるフォイ

そのままいってらっしゃーーーい!!

「ついにやってきたぞ! エレベーターマンション!!」


閉所好意症を持つ俺にとってあこがれの場所。

長らく入居者で埋まっていたがついに俺の番が回ってきた。


管理人からは1つの鍵をもらった。


「はい、これがあなたのエレベーターの鍵です」

「おお……これが……!」


自分だけのエレベーターを手に入れた感動が胸に広がる。

壁にはほかのエレベーター入居者用の鍵がいろいろかかっている。


「いっぱいあるんですね。あの金色のは?」


「最近使ったんですが、まぁしばらく使わんでしょうな。

 まぁ、気にしなくていいですよ」


「はぁ」


とにかく自分のエレベーターに入居することにした。

エレベーターホールで鍵を入れ、自分用のエレベーターを呼ぶ。


両開きのドアが開くと、四畳半にも満たない狭いスペースに

すでに運び込まれていた俺の生活器具一式が詰め込まれている。


「ああ、ここで生活するのか。楽しみだなぁ!」


昔から狭い所が好きだった俺にとって、

押入れよりも狭い場所に入って生活できる幸せが嬉しかった。


エレベーターに入居すると、これが快適そのもの。


外の景色がわかるように窓もついているし、

トイレは3F、風呂は5Fのボタンを押せばドアの先に広がっている。


部屋同士が隣接しているわけではないので、

どんなに騒音を出しても迷惑に思われることもない。


30Fのボタンを押せば町の全貌を見渡せる絶景を見ながら、

エレベーターの中で食事をとれる最高のシチュエーション。


「エレベーター生活、最高だ!!」


エレベーターマンションに引っ越してきて本当に良かった。



エレベーターマンションの生活にも慣れてきたころ、

突然に急な揺れがエレベーターシャフトを襲った。


「うわわっ、な、なんだぁ!?」


テレビをつけてみても地震の報道はされていない。

勘違いかと思ったが、階ボタンを押しても反応がないことで

エレベーターの故障だとわかった。


すぐに緊急ボタンを押す。


「すみません、エレベーターが止まってしまいました」


『ええ、こちらでも確認しました。

 現在復旧作業を行っていますので、しばらくお待ちください』


「しばらくって……どれくらいですか?」


『3時間もすれば』


「3時間!?」


『なにか問題が?』

「い、いえ……」


まずい。非常にまずい。こんな状況になってトイレに行きたい。

エレベーターの中は狭く、ここで漏らしたら今後生活したいと思えない。


家具から布団までしっとりといきわたってしまう。

かといって、トイレの3Fを押してもエレベーターはうんともすんとも言わない。


エレベーターの中のもので代用できるものはない。

生活スペース確保のために極限まで物を少なくしたのがあだとなった。


「ああ、やばい! なんとかしなくちゃ!」


そうだ、と天井に手を伸ばすと天井のパネルが外れた。

下腹部に負担をかけないようによじのぼり、エレベーターの上に立った。


ヒュオオ、と風が通る音。


暗い鉄色の風景といくつものワイヤーが周囲にぶらさがっている。


「これがエレベーターマンションの内側か……」


あたりを見回しても何もない。

誰かのエレベータに飛び移って3Fに行けるかと思ったがそうはいかなかった。


「……あれ?」


けれど、近くに金色の扉を見つけた。


「あんなところに扉が……。いったい何なんだ?」


下を見ないようにして壁に飛び移る。

鉄骨を捕まりながら扉へと近づいてこじ開けた。


扉を開けた瞬間にふわりと花の香りが広がる。


「す、すごい! なんてきれいな場所なんだ!」


扉の中は同じくエレベーターではあったが、誰もいなかった。

花畑が広がっていて、扉の入り口には花のアーチまである。


「よし、誰のエレベーターかはわからないけど

 こっちは故障してないだろうから、きっと移動できるぞ」


操作パネルへと近づくと、ボタンが『H』のひとつしかない。

HALL(ホール)のHだろうか。俺はボタンを押した。


エレベーターはガコンと動き出す。

上へ、上へ。どこまでも昇って行った。



 ・

 ・

 ・


管理人室にエレベーター業者がやってきた。


「修理終わりましたよ。これで動きます」

「ありがとうございました」


エレベーターマンションの管理人は、壊れていたエレベーターの入居者にマイク越しで声をかける。


『もしもし? エレベーターの修理が終わりました。もう大丈夫です』


「管理人さん。このエレベーター、誰もいないよ」

「あれ? 本当だ。どうしたんでしょう」


二人は首をかしがせて入居者の行方を捜したが見つからない。

その代わり、別のことを見つけた。



「管理人さん。天国(Heaven)行きのエレベーターが動いてるけど

 今日は誰か死んだ人がいるんだっけね?」

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