芋くふ人
安良巻祐介
芋を食いながら畦道を歩いていたら、道の内側から変なおっさんが上がってきて芋を分けてくれと言った。どのくらい変かというと全身が真っ白くて柔らかくて、そのくせ目の玉は普通の三倍くらい大きくて真っ黒だ。「芋」古いお琴を鳴らすようなぴんぴんした声でおっさんは繰り返す。北の配給所で大立回りの果てにぶんどってきた食料だったから、本当は分けたりなんかしたくなかったけれど、おっさんの顔があまりに怖いので気迫負けして手元の芋を半分ほど折り取り、放ってやった。「芋、芋」嬉しそうに呟きながら白いおっさんは芋にかじりついた。そして満足そうに笑うと芋を咀嚼しながらうっすらと薄れて消えてしまった。しまった。幽霊だったのか。俺は畦道の端で地団駄を踏みながら悔しがった。てっきり無茶な人体改造をやって恐喝をする当世強盗の類いだと思って怖気づいてしまった。ああバカらしい。バカらしい。最近の幽霊はあんなけったいな形をして出るのか。一杯食わされた。いや食わせてしまった。たかだかその辺をふらついているガスみたいなもののために、大事な芋が道連れにされたではないか。ああ、芋。俺の芋。何処へ行ってしまったのか。天の彼方か、海の向こうか、十万億土の涯の涯か。俺は虚空に消えた芋を想って、たださめざめと泣き続けた。
芋くふ人 安良巻祐介 @aramaki88
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