file1 対面

 先日成美から渡されたメモを開く。


死神がよくいる場所

部室棟5階 501号室

オカルト研究会


「オカルト研究会……ここ、だよな」


 メモとドアに掛けてある看板を間違っていないか数回確認する。

5階はほとんど空き部屋のため外からの声が聞こえるほど静かだった。


――コンコン


「…………いない?」


 ノックをしたものの返事はなくドアに耳を近づけるが中から物音一つしない。

さすがに開かないだろうと考えつつも拓真はドアノブに手をかけゆっくりと回すとガチャリ、と音を立ててドアがゆっくりと開く。


「開いた……」


 鍵がかかっているものだと思っていた拓真は少し動揺するが意を決し中に入る。


「し、失礼しますー……」


 恐る恐る中に入り室内をグルっと見回す。

中はしっかりと掃除されており埃っぽさはなく誰かが出入りしているのは間違いなかった。


「んんっ……」


 奥にあるソファから女性らしき呻き声が微かに聞こえ思わず後ずさりをする。

誰かいる。大きく深呼吸をし汗ばむ手を握りしめながらゆっくりとソファに近づく。


一歩、また一歩と近づくにつれ動悸が速くなり、ごくりと唾を飲み込む。


「1ホールケーキが4つ分っ!!」


「うわぁっ!」


 大きな声と共にソファで寝ていたであろう女性が起き上がり拓真は突然のことに驚きその場で尻餅をつく。


「……夢……ん?君は……」


「あ、あの勝手に入ってすみません!俺……!」


「あー……、私が鍵をかけ忘れてたみたいだし謝る必要はないよ、少年」


 まだ眠たそうな目をしながら頭をかき大きなあくびを一つする女性。


「で、でも」


「こんなことで怒る私ではないから安心してくれ。……それとも少年は怒られたいタイプかな?」


「なっ……!違います!」


 拓真をからかうようにニヤニヤと笑みを浮かべながらテキパキと2人分のお茶の用意を始めた。

迷わず棚から湯呑など出しているところをみると多分この女性が噂の死神なのだろうと考える。

 死神をまじまじと見つめる。

腰まである綺麗な黒髪に女性にしては高めの身長、美人という言葉があてはまる女性だな、と拓真は考える。


「まあ折角来たんだし少しお茶でも飲んでいってくれ」


「あ、ありがとうございます」


 慌てて死神から視線を逸らし机に置かれた湯呑の前に足早に歩きソファに座る。


「で?大方新聞会エース赤井成美から場所を聞いたのだろう。……1年の林田拓真くん?」


「ぶっ!?」


 突然名前を呼ばれ思わず飲んでいたお茶を思わず吹き出す。


「興味本位、というわけではなさそうだし、差し詰め林田亮関係かな」


 全身から血の気が引くのを感じる。

自分の名前は勿論、兄のことや成美から場所を聞いたなど一度も話してはいない。


「ど、どうして俺の名前……」


「林田亮とはちょっとした仲でね、あるとき君が映っている写真をみせてもらっていて覚えていたんだ」


 熱いお茶を冷ますように息を吹きかけ拓真の問いにそう答えた。

拓真の兄、亮と目の前に座っている死神になんらかの関わりがあることに驚きもしたがなぜか納得してしまう。


「訪ねてきてもらって申し訳ないんだが私は林田亮の失踪に関して詳しくはないんだ」


「そう、ですか……」


 そう簡単に情報は集まらない。予想はしていたががっくりと肩をおとす。

そんな拓真をみて少し考える素振りをする死神。


「じゃあこういうのはどうだろうか」


 まるで悪戯を思いついたような顔で拓真を指さす。


「少年には私の助手になってもらおう」


「助手!?」


 突然の申し出に目を丸くし思わず大きい声がでた。

申し出をした当の本人は満足気な顔をしお茶を啜る。


「じょ、助手ですか」


「そうだ」


「なんで」


「面白そうだからだ」


 そんな理由で、と呆れるが今の拓真にとって兄の行方を探せれる可能性が高い死神の近くで行動が共にできることは、とても助かる申し出だった。

汗ばむ手を強く握り意を決し死神の目を真っすぐ見つめる。


「ざ、雑用ぐらいならできるので……よ、よろしくお願いします」


「契約成立、だな」


 不敵な笑みを浮かべながら拓真をじっと見つめ一気に残りのお茶を飲み干す。


「神楽坂燈子」


「え?」


「死神――私の名前だ」

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死神の事件簿 神宮幸太 @zinyuki7

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