死神の事件簿
神宮幸太
序
『3月20日の切断死体遺棄事件の続報です。今日未明女性が最後に目撃された近所付近に住む19歳の少年が逮捕されました。
少年の自宅から殺害された女性のものと思われる持ち物が見つかっており…』
――プツンッ
真剣な表情で事件の続報を読んでいた女性が突然消え、変わりに最近引っ張りだこの芸人が食レポをしている番組に切り替わる。
「もー、なんでかえるんだよ俊樹」
「すまんすまん、今日ゲストでユッキーでるからみなくちゃいけなくて」
前のめりになりながら目を逸らさずテレビに齧り付く俊樹、そんな彼を呆れながらみつつ先ほどコンビニで買った弁当に箸をつける。
「みてみろって拓真!今日も可愛いなぁユッキーは……」
そう言われテレビに視線を移すと、芸能人に疎い拓真でも顔と名前だけは知っている栗色の髪を巻いた可愛らしい女性が映っていた。
「そういえばこの子って同じ大学だったよな」
「そうなんだよ!仕事が忙しいのかあまり見かけないけど、あのユッキーと同じ大学ってだけでもう……まあ、あの死神さえいなければ最高の大学ライフ過ごしてたんだけどな」
「死神?」
ぶつぶつと悪態をつきながら俊樹は残っているおかずを口に放り込む。
「ん、なんだ知らないのか?本名は俺もわかんねぇけど死神って呼ばれてる2つ上の先輩がいてその先輩……」
「彼女いるところに死人現る、大学内では有名な話ね」
拓真の後ろから声が聞こえ振り返るとショートカットが似合う女性がトレーを持ちながら近づいてきた。
「成美さん!!」
「よっ、入学式以来かな?久しぶり」
2人に成美と呼ばれた女性は笑顔を向け拓真の隣の席に座る。
「久しぶりって……まだ数週間前ですよ」
「細かいことは気にしない、気にしない……で?死神のこと調べてんの?」
不敵な笑みを浮かべ拓真と俊樹を交互にみたあと持っていた鞄の中から手帳を取り出しペラペラとめくる。
「い、いえそういうわけでは……ちょっと気にはなりますけど」
「成美さんは死神について何か知ってるんっすか?」
俊樹は期待の眼差しを成美に向け身を乗り出す。
チラッと俊樹をみたあと成美は頬杖をつき視線を手帳に戻し問いに答える。
「私も詳しいことは知らないけど、数々の事件を解決してる凄い人よ。 ほら、朝から話題になってるバラバラ事件も死神が解決したって噂」
「えぇ!?そんな凄い人だったのか……」
「まあ、あくまで噂よ、噂」
そう言いながら手帳に何か書いたあとそれを破り、俊樹に見られないよう隣の拓真に渡す。
「はい、ここに死神はいるはずだから行ってみるといいわよ」
「な、なんで俺に……」
「知りたそうだったから、かな?」
一瞬悲しそうな顔をみせたがすぐににこり、と笑い渡したメモを強く握らせる。
「ん?なんだぁ?コソコソと耳打ちして ハハーン、もしかしてこのあと2人で出掛ける気じゃ……」
手を顎につけニヤニヤと笑いながら茶化す俊樹をすかさず机の下から拓真は蹴りを入れた。
「痛っ!冗談だって、すまんすまん」
「あー……、イチャイチャしてるとこ悪いけどアンタら次授業じゃなかった?」
ほら、と食堂にある時計を指す。
時計の針は次の授業が始まる時間の5分前を指していた。
「げっ、もうそんな時間かよ!早く行くぞ拓真! じゃあ成美さんまた今度!」
「ちょっ、俊樹!待っ……成美さんメモありがとうございます」
「いいってことよ。何か収穫あったらまた教えてちょうだい」
こくりと笑顔で頷き先に出て行った俊樹の後を追うように走っていく。
そんな彼をお茶をすすりながら見守るように見つめる成美。
「……彼女ならあの子を……」
コップに目を落とし誰にも聞こえないぐらいの声でポツリと呟いた。
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