蒼白なるファセラ・4

 

 ファセラ

 あなたの欲したものを 

 私は知らない

 私はすべてを 

 あなたに捧げてもかまわなかったのに

 私は何も 

 あなたには与えられなかったのか

 ファセラ 

 私は知らない

 死とひきかえに 

 あなたは何を欲したのか




 セリスは古い日記を閉じた。

 父の美しい文字が、ここだけやや震えている。

 イズーの街を整備するにあたり、セルディン家の屋敷跡から古い箱が掘り起こされた。

 セリスは、父の遺品としてすべて引き取り、小さな日記を見つけたのだ。

 執務室の窓から美しい中庭を望む。平和な昼下がり、今日は執務の予定も少なく、午後から家族でお茶会を開く予定だった。

 妻と三人の子供たちが、楽しそうに準備している。

 妻・エレナの焼く菓子は香ばしく、中庭に咲き乱れる花々はかぐわしい。小さな娘のシリアが、手を伸ばしてたしなめられている。息子のリーズは母を手伝い、お気に入りの茶器を運び出している。

 妻が子供たちに、父親を呼んでくるように言っている。やがて息子のラベルが、執務室のドアをノックするだろう。


 この平和を維持する力は、はたして自分にあるものなのか……。


 大いなる古代の力は、失われつつある。

 セリスは、父の日記を引き出しの中にしまった。

「あなたは何を欲したのか? ……か……」

 セリスは呟いた。

 エーデムリングに属する者であっても、父ほどの力を持っているわけではない。

 自分はいつも、父親よりも劣っていると、セリスは感じている。しかし、父がわからないといって嘆いたものが何なのか、セリスには痛いほどわかっている。

 ファセラが欲していたものを、セリスもまた求めてやまない。




=蒼白なるファセラ・終わり=

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エーデムリング物語 =番外編= わたなべ りえ @riehime

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