知恵の神様たちは苦労人
「ギリシャミソロジーなんてやめてやる!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ボロボロになった一柱の伝令神はそう知恵の神集会の中心で憎しみを叫んだ。
どうも、いつもヘロヘロ僕に仕事ばかり押し付ける主神と副王にいつか牙を剥きたい這い寄る混沌・ニャルラトホテプです。
知恵の神集会の主宰オーディンさんのお膝下、ヘルメスさんの愚痴り大会になっていた。
「まあ、落ち着いて落ち着いて」
「ええい、触るんじゃねえ
ヘルメスさんは
「ええ、僕も日本神話の中じゃ忙しい方なんだけどなあ……」
「仕事量の問題じゃねえ……というかこの知恵の神組で暇な奴なんかいねえだろ。そうじゃなくて俺達がもれなく補佐してる主神たちに格差がありすぎるんだよ!!」
「その心は?」
「俺も天照様によしよしされたい!!」
ヘルメスさんは若干涙目になりながらばんっと机をたたいた。「別に絶対よしよしされるわけじゃないんだけどなあ」と零す少名毘古那さんだが、その言い方だと、たまによしよししてもらっている様に聞こえるんだけど?
「ヘルメスくん、愚痴りたいのはわかるけどものに当たってはダメよ?」
サラスヴァティーさんが少しばかり呆れたように溜め息をついて咎めるとヘルメスさんは罰が悪そうにそっぽを向くも、怒りの炎を再点火させて、
「ヴィシュヌ様やシヴァ様やブラフマー様も天照様も怒らせると大変だったり変わったところあったりするけど基本いい神じゃないですか!! みなさん主の部屋の掃除したことあります!? 粘液でデロンデロンの明らかに事後のやつ!!」
あちゃー、と一斉に頭を押さえて溜め息を吐いた。
「皆さん今ドン引きしてるけどマジだからな!? そういうことを平気でやらせるんですよ、あのゼウスとかいう神は!!」
「僕はちょっとわかります」
そう言って想起するのはうちのミソロジーの主神、アザトース。仕事もせずに夢の中で常に宴会。さりとて起こすと世界が滅びるから怒るに怒れない。
普通そういう時は代わりに副王が指揮を取るんだけど、副王は副王で基本ヒモニート気質の神様だから期待はできない。というかいつかあいつも僕に部屋の掃除やらせそうですごい嫌だ。
「殺意湧きますよほんと……」
おっと、いけない。怒りの余りグラスを握り潰してしまった。
「大丈夫かい、ニャルくん?」
「お手を煩わせてすみません。ありがとうございます」
血まみれになった手のひらをトトさんがサッと治療してくれた。トトさんは包帯を結び終えると、
「私も天照さんやオーディンさんのところに行きたいと何度も考えたよ。うちの主神も気まぐれに人類を滅ぼそうとするからね。だけど我々がそう鞍替えしては残ったミソロジーに甚大な被害がでかねない。天が乱れれば人の世も乱れる。耐え忍ぶのもまた仕事であり役割なんだよヘルメス君」
ポンポンとトトさんが肩を叩くとヘルメスさんがその場で泣き崩れた。
「とはいえ、いい加減お灸をすえてやりたいところでもある。手を打つとしよう。何、伊達に歳を重ねてはいない。腹の黒さなら負けはしないさ」
カタカタと笑うトトさんの様子にその場にいる全員の顔がひきつる。
「でも相手は他のミソロジーの主神相手に何かできることってあるんですかね?」
「トト殿はシャマシュ殿やテミス殿などの法の神と共にミソロジー法務局を運営している。ミソロジー法務局は合法的に他の神話に介入することができ、罰することができるのだ」
僕の疑問に答えてくれたオーディン様は厳しい顔つきだ。
「良いか新参の神格よ。武神や軍神はいいが法の神は敵に回すなよ? 彼らは恐ろしいからな――とは言ったもののお前は聡い。心配なのはお前のところのミソロジーの他の神格か。信仰の集め方は自由だが、やり過ぎないようにな」
「忠言痛み入ります」
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出演神
ニャルラトホテプ【クトゥルー神話】
主人公にして語りべ。最近有名になってきたトリックスター。一応知恵の神グループに入れてもらっている。
ヘルメス【ギリシャ神話】
ゼウスのパシり。プロメテウスと共にギリシャ神話におけるトリックスター的な役割を持つ。ヨシヨシされたい。
少名毘古那【日本神話】
日本神話における知恵と技術と文明の神。学問の神であり、同じ知恵の神である菅原道真とは仲がいい。天照にヨシヨシされている。
トト【エジプト神話】
法の神でもありミソロジー法務局の筆頭。最古の神話メソポタミアにも名前が登場するのでとてもお年寄り。
サラスヴァティー【インド神話】
ブラフマーの妻(ヴィシュヌの妻とも)。病んでいるものが多い知恵の神グループの中でも比較的まとも。
オーディン【北欧神話】
北欧神話の主神。その万能性はトト、ヘルメスに負けず劣らず。軍神でもあるので怒ると用意にグングニルをぶん投げる。
ニャルラトホテプさんの受難 蜂蜜 最中 @houzukisaku0216
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