砂漠の国

@nano_pink

第1話

プロローグ


熱い。暑い。熱い。暑い。

見渡す限り砂の山また山。果てしない砂の中、頭上で刺すように燃えている太陽が降り注ぐ。一歩踏み出すたびに、靴の中に太陽に熱された砂が入り込む。体中から水分が搾り取られていく。それでも…

「っ…」

前を向く。足を止めない。ただ、進むだけだ。だって、この先に、緑に囲まれた、魔女の館が、あるはずなのだから。

「っ…」

絶対、絶対に諦めない。

ぶわり、と吹きつけられた風に、目を細める。砂が混じっていて、痛い。唯一素肌が見えている目元から砂が入り込んで来る。

「あっ…」

突風にスカーフをむしりとられた。咄嗟に手を伸ばして掴む。

母譲りの金髪の巻き毛がふわふわと、今度は砂を巻き上げない優しいそよ風に揺れた。

つかの間の涼しさを感じつつ、丁寧にスカーフを巻き直す。母の髪は好きだが、自分の髪は嫌いだ。まるで女みたいだと、昔からからかわれ続ける原因だ。もう16になるのに、一向についてくれない筋肉と、身長の低さにも問題がある。それに、認めたくはないけれど、長い睫毛、華奢な鼻と薄い唇、尖った頰。どこをどう見ても、女顔、なのだ。

父親はがっしりとした体つきで、筋骨隆々、髭もたっぷりたくわえ、鋭い眼光と四角い面で、漢の中の漢、という風情が黙っていても漂っているのに。似たのは、身長、くらいだ。母は逆に長い睫毛、高い鼻にふっくらとした唇、卵型の顔と、我が母親ながら美人に分類されると思う。身長は、父親より拳2つ分くらい高い。親父と母親の悪いとこどりが俺だ。逆ならよかったのに、と思っても、そう生まれてしまったのだから仕方がない。

スカーフを巻き直し、気合いを入れ直してまた足を持ち上げ、前に出し、おろす。そう、それだけでいい。

肩からかけた、父お手製の鞄の紐を両手で掴みながら、一歩ずつ進んでいく。今日中に辿り着けなかったら、俺はそういう運命だと、神様がそうお決めになったのだろう。そう思いながら歩みを進めていると、次第に目がチカチカとして、砂に反射した光なのか、自分にしか見えていない煌めきなのか判別がつかなくなってきた。鉛のように重い足を、持ち上げるたびに自分を励まさなくてはならなくなってきた。それでも、と上げようとした足が、砂にとられて、どう、と地面に倒れ伏した。砂の熱さを感じる間も無く、目の前が真っ暗になった。

ーごめん、みんな。

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