第45話 オーガさんとお仕事。


カオウさんが店で働くことになり仕事の指導が必要になったので、あずさちゃんがいるときはできるだけ彼女にお願いすることにした。

あずさちゃんも先輩として張り切ってくれている。


「いいですか、カオウさん。お店の仕事は大きく分けて四つ、接客と店内の清掃、商品の品出しに陳列です。そして、どの作業でも大事なのはお客さんに自分からコミュニケーションを取る事です!!」


「自分からコミュニケーションを? 接客は何となく分かるけど、掃除とか陳列の最中にどうやって話しかけるの?」


「そうですねぇ、掃除のときなら『足元失礼しまーす』とか、『お顔が汚れていますね、よかったらお拭きしましょうか』で、陳列のときなら『どうぞご自由にお取りくださーい』とか、『お目が高い、そちらは当店一番の商品です!』などですね。ポイントは、相手のことを気遣ったり立たせてあげることです!!」


「お、奥が深いわねっ、参考になるわ!」


……できれば参考にしないで欲しいな。


その声掛けでは、相手を気遣うどころかバカにしてるように捉えられる可能性が高いし、立たせるどころかコケにされてるように感じる。それと、言葉を伸ばすのはどこぞのスイーツ店の店員を思い出すからやめてほしい。


「それでは、まずはお客さんが来るまで商品の陳列をしましょう!!」


「分かったわ!」


「まずはお菓子コーナーからです。お客さんが取りやすいように場所を整えてあげるんです!! 特にこのチョコ菓子のような人気商品は、お客さんの目につきやすいところに並べてあげると手に取ってくれやすくなります!!」


「うんうん、なるほど……」


……とは言っても、教えているあずさちゃんは生き生きしているし、カオウさんも必


死に仕事を覚えようと頑張ってくれて、良い関係を築いているようで見ているほうとしても安心だ。


やっぱり彼女を雇ったのは正解だったかな。あとはお客さんが来てくれたら、ウチの店も磐石になるだろう。


チャリンチャリン


「「いらっしゃいませー!」」


「……っ、きゃ!!」


「あぁ、お菓子が! カオウさんビックリしたからって、握りつぶしちゃダメです!!」


「ご、ごめん!!」


考えていれば何とやら、常連のお客さんが来店してくれた。

しかし、陳列中だったカオウさんがそれに驚いて商品をおしゃかにしてしまったらしい。


……仕事の内容よりも、まずはお客さんに慣れてもらうことが先かもしれない。


「カオウさん、会計お願いしてもいいですか?」


「え、ええ。やってみせるわ!!」


彼女に会計台に立ってもらうことにする。

とりあえず商品に触れるよりも、お客さんに触れてもらった方がいいだろう。数をこなせば自然と慣れていくはずだ。


「よいしょ、店員さんや。これだけ買いたいんじゃが」


「え、えーと、……これが二百ゴールドで、こっちが…………」


「……カオウさん、そっちは三百ゴールドです」


「わ、分かってるわ!! あ、合わせて五百ゴールドよ!!」


「それじゃあこれで頼むよ」


「せ、千ゴールドね。お釣りの五百ゴールドよ!!」


ガチガチだな。

値段に関してはまだ覚えれないのは仕方ないけど、少し気を張りすぎだ。見ているこっちが緊張してしまうぞ。


「新しい店員さんみたいだねぇ。最近働き始めたのかい?」


「そ、そうよ!! ……わ、悪かったわね。下手な対応で……」


「何も悪いことはないじゃないかい。碌に働きもしないウチの倅よりよっぽど立派じゃよ」


「……これから、もっと立派になっていくわ」


「くっくっくっ、それは楽しみじゃな。ありがとうよ、新米さんや。頑張んなさいな」


「……うん。……ありがとう、おばあちゃん」


「自然にお客さんにお礼が言えるんじゃ。きっと、あんたも良い店員さんになるよ。くっくっくっ」


そう言い残すと、常連さんは店から去っていった。

隣を見ると、カオウさんのションボリしている姿がある。


「……はぁー、上手くできなかったわ……」


「上出来じゃないですか。お客さんにあれだけ言ってもらえるなんて、なかなかないことですよ」


「新人だから、っておまけしてもらっただけじゃない……」


「これからですから。分からないことは俺やあずさちゃんに聞けばいいですし、さっきのようにお客さんから学ぶこともたくさんありますよ」


「……うん」


良いお客さんがいることは店の成長にもつながるな。あの常連さんには感謝しないといけない。


カオウさんならすぐに仕事も覚えてくれることだろう。


「カオウさん、全然良かったですよ!! 私が初めて会計したときなんか、お客さんにお金投げつけちゃいましたからね!!」


「……どうしたらそうなるのよ」


「緊張してましたからねー。お釣りを渡そうとしたら、上手く出せずに、こうお金が宙に浮いてしまって、慌てて取ろうとしたら弾いちゃって、そのままお客さんの額にズドンです!!」


「怒られたんじゃないの?」


「あはは、笑って許してくれましたよ。強面の人だったんですけど『元気が良い嬢ちゃんだな!』って。優しいですよね!!」


「……そうならないように気をつけるわ」


そんなあずさちゃんも、今となっては立派な店員として働いている。


本当にお客さんには恵まれているな、ウチの店は。


そのうち、俺がいなくても二人で店を回してもらうこともできるかもしれないな。


「……やほ」


「……ダッカさん、いつの間に店内にいたんですか?」


ふと声が聞こえ店の扉の方を見ると、寡黙な大剣使いさんがいた。

扉についているチャイムも鳴らなかったよな……。


「……用だけ。……出歩きOK」


彼女はカオウさんを見てそれだけ伝えた。

どうやら、カオウさんのことをギルドに話してくれたようだ。ギルドに認められたなら、街を一人で歩いていても冒険者に襲われることもないだろう。


「……本当にいいの?」


「……誰も文句なし」


「……ありがとう、ダッカ。今日はカカは一緒じゃないの?」


「……依頼」


「そう、カカにもありがとうって伝えてくれる?」


「……おけ」


「ダッカさん、感謝の気持ちとして、好きなお菓子を持っていってください」


ダッカさんが伝えることを伝えて帰ろうとしていたので、お礼ということで手土産を受け取ってもらうことにする。


きっと、その態度ほど簡単なことでもなかったはずだ。オーガを平気で歩かせてくれる街なんか、そんなにないだろう。


ギルドマスターにも迷惑をかけてしまったかもしれない。また採取依頼をするときにでも何か包みを持っていこうかな。


「……遠慮なく。これとこれとこれと……」


「カオウさん今です!」


「えっ? ……あぁ!! さすが、見る目があるわね! それは当店一番の商品達よ!!」


「……お気に入り」


「私も昨日食べたわ! こんなに美味しいものがあるのね、って感激したのよ!!」


「……こっちも美味しい」


「ふーん、まだ食べたことないわね。今度食べてみるわ!!」


「……こっちも」


「どれどれ? ……へぇー、ダッカは詳しいのね!!」


「……ん」


早速あずさちゃんに促されて、ついさっき受け渡された直伝の技を実践している。ダッカさんも満更でもなさそうだ。


彼女は意外と聞き上手なのかもな。


「ふふふ、どうですか先輩。私の教えが役に立っていますよね。褒めてもいいんですよ? 頼りになる後輩がいて俺は嬉しいよ、と褒め称えてくれていいんですよ?」


……いつもであれば適当に流すんだけど。


「……ありがとね。あずさちゃん」


褒めるついでにあずさちゃんの頭を撫でる。

人に物事を教えるのは時間も取るし、一人で教えるには限界がある。彼女がカオウさんに仕事を教えてくれるのは、俺にとってもカオウさんにとってもありがたい。


素直に感謝するのは気恥ずかしいけど。


「…………ど、どうしたんですか先輩!? いつもだったらツンツンデレデレ寄りの反応をするのに、感謝の言葉だけじゃなく頭まで撫でてくれるとはっ!! どこか打ちましたか、あ、頭は大丈夫ですか!?」

「………………」


普段の行いが悪いんだろうか。ここまで狼狽されると、怒る気にすらならない。

でも、俺はツンデレじゃないからな。


……違うよな?


「はぁー、とにかくカオウさんのこと、これからも頼むよ」


「……もちろんです。私は先輩の後輩ですけど、後輩の先輩でもありますからねっ!!これから忙しくなりますよ、先輩!!」


「忙しくなるのは、もっとお客さんが増えてからだね」


流石に今のお客さんの数では、それほど忙しくもならないな。カオウさんが仕事を覚えれば、もっと暇になるかもしれない。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……これも」

「でもこっちも美味しいわ『チャリンチャリン』……よっ!?」

グシャッ

「……お菓子が……」

「うぅ……、またやっちゃった……」


お客さんが来る度に握りつぶされるのは困るな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピーな世界は優しいエンドで。 ありがとう。 @tensyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ