第2話
「ようこそ、本日の幇助さん」
幇助塔地下3階。
エレベーターが開くと、別の職員さんが待っていた。
職員さんは中に入ると、物色するように、私たち1人ひとりの顔を確認した。
「はい、これ」
手にしていた書類を、エレベーター内の職員に渡す。
黙って受け取ったエレベーターの人は、それにサインし、彼に返した。
「大人なんだから泣かないでくださいよ」
ずっと泣き続けてきたスーツ姿の男性の肩に、ぽんと手を置く。
それでもエレベーターから出ようとしない。強引に脇を抱えて運び出そうとする。
「おっさん行こうぜ。俺たちは選ばれし人間なんだからよ」
今度は、若い男性が、もう片方の脇を抱えた。
なんだっけこれ。あ、そうそう。宇宙人を運ぶときのお約束だよね。
残り1人の中年女性は、ゾンビのように立ち上がって歩き始めたので、私も彼らについていくことにした。
・・・にしてもノリが軽いなあ、この職員さん。
■
「戸来さんに好きな人っていた?」
「中学の頃に、ちょっとですけど」
ノリの軽いお兄さんが、私の恥ずかしい過去を暴こうとしてくる。
はにかみ屋の孝則くんのことは、何人たりとも触れてはならないから。
「その後は?」
「いえ、特には」
面倒くさかった。
親と実家暮らしだったこともあり、気を遣うのも嫌だった。
「ふむ」
かりかりかり。
別の書類に、軽いお兄さんは何やら書き込んでいる。
私の過去を記録してどうするんだろう。もう死んじゃうんだけど。
それはそれで恥ずかしい。
――どこなんだろ、ここ。
私は周囲を見回した。
全面ガラス張り。ピラミッド型。お日様が照っているみたいに明るい。
他の3人は、私とは別の部屋に案内されていった。
「戸来さんは変だね」
「そうですか?」
「戸来さんくらいの年齢の人は、恋愛志向教育プログラムを施されるはずなんだけど」
おっかしいなぁ、とお兄さん。
死のうとする時点で普通じゃない。社の送別会で言われたセリフを思いだす。
「文部科学省と厚生労働省とがタッグを組んで通した、自由恋愛促進法ってのがあってね? 学校のカリキュラムが変わったの」
ボールペンを手元で遊ばせながら会話を続けるお兄さん。
口も軽いのだろうか。早く手続きを終わらせて欲しい。
「恋愛して結婚して出産するようにって道徳で習って、高校や大学でも恋愛が必修化した――はずなんだけど、それでも人を好きにならなかったの?」
「すみません、あまり記憶がなくて」
「あ、そ」
お兄さんの期待には応えられなかったようだ。
言われてみれば。
結婚できずに生きる人生は大変だって、先生が教科書片手にしゃべってたような。
「じゃ、脱プロは不要ってことで」
「あのー」
別の何かを書き込むお兄さんに、私は勇気を振り絞って、質問をした。
「はいはい?」
「私って、すぐに死ぬんじゃなかったんですか?」
お兄さんはとびっきりの笑顔を浮べた。
「死にたいって言う人が、すぐ死なせてもらえるわけないでしょ」
持続可能社会実現法 じんたね @jintane
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