かぎりなく意識高い桃太郎

ちびまるフォイ

桃太郎「この世界に感謝」

「さぁ、おいで。絵本を読んであげよう。

 きっと君の勉強になるよ」


「わーー、なんていう絵本?」


「意識高い桃太郎だよ」


※ ※ ※


むかーしむかしのこと。


おじいさんは山でクロスバイク通勤して語学研修をし、

おばあさんはスタバでフラペチーノ広げてマックを吸っていました。


すると、カウンターの向こうから桃がおばあさんとの距離をシュリンクしてきました。


「フラッシュアイデアがひらめいた!

 この桃をSNSでシェアしよう!」


このコンティンジェンシーをものにしようと、

おばあさんは桃をアサップで家に持って帰りました。


おばあさんが英字で桃の情報を投稿したのを見たおじいさんは、

フットサル同好会を中断して家に戻ってきました。


「というわけで、桃を拾ったのでペンディングしてました」


「ゼロベースで考えてみようか、ばあさんや」


「それじゃブレストしましょうか」


「レジュメも忘れなくね」


こじゃれたバーで洋楽を聞きながらオーガニック食品を食べていると、

待ちくたびれた桃太郎が内側から食い破って出てきました。

開口一番、


「で、俺のアジェンダは?」


と言ったのでただものじゃないことはすぐにわかりました。


おじいさんとおばあさんと学生団体を立ち上げて、

金太郎の服装についてのデモ活動をしていくうちに自我が芽生え

体が出来上がったころには桃太郎は自分のアジェンダを理解しました。


「おじいさん、おばあさん。僕は鬼退治にいくことが

 もっともプライオリティ高いタスクだとコミットしました」


「どうやらバイアスかかっているわけではないようだな」

「それは桃太郎マターなものね。PDCAサイクルは高速で回すのよ」


「わかっています」


桃太郎は家から持ってきた自己啓発本を犬・猿・キジに読ませて

一緒に鬼ヶ島で起業しようと声をかけてアサインしました。


さまざまな困難が立ちふさがって何度もリスケしながらも

フレキシブルなスキームで対応し、バッファ残しつつ鬼ヶ島へ到着。


「よく来たな桃太郎! だが、海外での生活を経て得た人脈で培った

 ビジネスモデルを手に入れた我々に勝てるかリマインドしたらどうだ」


「いいや、そうはいかない。

 このためにリソースを集めてきたんだ!

 ここで俺のすべてをアウトプットする!! うおぉぉぉ!!」


桃太郎は鬼ヶ島の状況をツイートしたことで、

たちまちSNSが大炎上した鬼は去っていった。


「レギュレーションをちゃんと決めないからこうなるんだ」


鬼ヶ島のイニシアチブをとった桃太郎は、

コンプライアンス的に問題のない範囲で財宝を持って帰りました。


そして、社長などが集まるパーティに出席しては

自分への投資とか人脈とか言いながら連絡先を増やす活動をして過ごしました。


めでたしめでたし。



※ ※ ※


鬼を退治する勧善懲悪な物語を読み終わると、子供たちを見回した。


「どうかな? ためになったかな?」


「うん! すっごくためになった!!」




「相手に伝わらない言葉を使っても意味ないってことだね!!」

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