十三歳のかわいい新人魔女*が頑張るお話。脇役のお婆さん*も格好いい。

 レビュー表題、なにひとつ嘘はついていないのですが、感覚的にはもう完全な嘘です。
 といっても、別に捻ったお話ではありません。お話の筋はものすごく真っ直ぐで、しかも丁寧に描かれていて、そのうえ盛り上げどころを外しません。読んでいて気持ちがいいです。読後感もとてもよくて、なので読み終えてもずっと気づきませんでした。
 ――このお話、お婆さんが主人公なのでは、と。

 いやこの「主人公」という言葉がある意味嘘なのですが、でも詳しくは最後の方で触れます。ネタバレというか、物語の核となる部分に大きく触れてしまいますので。

 主人公は十三歳の女の子、ユア(ユアリアス)さんです。どこかから大きな街へとやってきて、宿を取ろうとしている場面から始まります。街はなにやらお祭りの直前で、そしてユアさんは何者なのか、過不足なく丁寧に語られていきます。
 どうやらユアさんは魔女でした。いままで森の奥でずっと魔法の修行をしてきて、初めて大きな街にやってきた女の子。お祭りは箒での飛行大会で、彼女の目的はそれに参加することです。

 魔女というもの。魔法とはなにか。大会の意義とは。それらの詳細はしかし丁寧かつ細やかに、そして個性ある人々との掛け合いによって詳らかにされて、その自然さが読んでいて実に心地いいです。物語世界そのもののありよう(要は設定)も、その世界に暮らす人々も、つっかえることなく自然と脳内に想起され、そして膨らんでいく。物語の語られ方、組み立て方が実に丁寧で、勢いの早すぎるところや間延びすることもなく、それが本当に面白いのです。

 出来がいい、なんて言い方だと、どうしても偉そうに見えてしまいますが、本当に丁寧に組み立てられた物語。ストーリーの進み方が気持ちよくて、こればかりはもう「読んでみて」としか言えません。
 ひとつのお話としての、とてつもない完成度の高さ。見習いたい、という気持ちもありますけれど、でも単純に面白いです。読後、読めてよかったー、となったお話。おすすめです。

[以下ネタバレ、あるいは物語の核心みたいなところに触れる部分]

 以下はもうレビューというかただの感想文です。
 最初の方、「お婆さんが主人公なのでは」と書きました。実はこれ、若干嘘というか語弊があって、主人公は間違いなくユアさんです。ただその主人公ユアリアスのあり方と、このお話でお婆さん(マゴーラスカ)が担っているものが面白いのです。
 あえて語弊しかない言い方をするのであれば、このお話はある種の「最強主人公もの」として読めるのではないかと思います。
 たぶんお話としては違うと思うのですが(特にこの続きを想像するなら)、少なくともこの一話に限っては、そう読むことも可能な気がします。

 このお話の軸、テーマやドラマ性のようなものは、たぶん全部マゴーラスカお婆さんが担っています。多くの話ではおそらく主人公が担っているであろう部分で、かつ結びの部分は完全に彼女の視点です。ユアリアスの役割は、主人公として物語の真ん中にいながらも、でも語り部かラスボス的な立場のようにも読めます。
 もちろんユアリアス自身も十三歳の女の子、初めて街に出てきたばかりの、まだなにも知らない少女です。出会いや経験の中で何かを学び、成長する姿も書かれています。彼女の成長物語、その要素は確かにあるのですけれど、ただ少なくともこのひとつのお話の中では、『魔法の実力』という点において彼女に並ぶものはありません。ひとりだけぶっちぎりです。

 最初から、最強の障壁として存在するユアリアス。彼女と関わり、そして立ち向かう人々の物語。もしこのお話に続刊があったとするならば、それは彼女に挑む人々のお話かもしれない。なんとなく、そんなことを考えました。
 ユアリアスに思い入れて読むもし、マゴーラスカの視点に共感するもよし。とても強いキャラクターがいながら、でもドラマやロマンがたくさん語られている。とても好きなお話でした。面白いのでぜひ。