第5話 2人飯



ふれあい研修では、集団行動、声出し、校歌斉唱の練習を主に行い、最終日にはクラス毎に集団行動と校歌斉唱を教師陣の前で発表する、という催しがあった。


そんなふれあい研修も無事終わり、各クラスバスに乗り帰宅となった。


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帰り道、妹の陽(はる)と一緒に春香の家で夜ご飯をご馳走になる予定だったので、流れというか、いつも通り春香と一緒に家に帰っていた。


「どうだった?お目当ての子でも見つかった?」


「まあ、一応な」


「それって莉奈ちゃんでしょ?」


春香はどこか小悪魔的な笑みを浮かべて言った


「どうして春香は分かっちゃうかな~。ばれないように尽くしてたはずなんだがな」


「春香がいったい何年、優(すぐる)といると思ってんの?バレバレだし」


「さすがだぜ、春香さんよ。俺も春香のことは分かってるつもりなんだが、今回は何もなかったっぽいな」


春香はむっとして、少し怒り口調で言った


「何言ってんの?優が莉奈ばっか見てたからわかんないだけでしょ!」


まてまて、どういうことだ?

確かに、確かにだ。俺はこのふれあい研修の期間は橘に目やるをことは多かった。

春香が怒っているということは、春香も春香で色々大変だったということか。

あとで愚痴を聞いてあげねばな…


春香は優が聞こえない程の小声で言った、


「てか、優は春香のこと全然分かってないし。この、ばか…」


「ん?今なんか言ったか?」


「なーんも。ばか優」


こんな感じで春香と話しているうちに春香の家に着いた。


「ただいま~。お母さん、優も来たよ~、ご飯出来てる?」


「あら、おかえり。優君も久しぶりね!」


と、春香のお母さんは首をかしげて続けた、


「あら、春香、帰ってくるの明日って言ってなかった?今日は陽(はる)ちゃんの分しか作ってないよ」


「あれ?伝達、ミスっちゃったかな?」


春香にしては珍しい。ていうか、どうやったら1日早く帰ってくるって間違えるんだよ!


「あ、お兄ちゃんおかえり~。ごめ~ん、春香ママに言い出せなかった~。」


そういって舌をチラッと出す妹の陽(はる)。

それにしても、我が妹ながらあざとかわいい!


「春香のお母さんも仕事で疲れてるだろうし大丈夫だよ。しかしどうすっかな、晩飯は」


「もう、優君たら~。口上手なんだから!どう、おばさんと結婚して春香のお父さんになってみない?」


ふざけたように言う春香のお母さん。


おい、なんてこと言い出すんだあんた。

老害とか入っていないだろうな!?


俺は真剣な顔をしたまま、ブンブン首を横に振る。


「ちょっと、お母さん!ふざけたこと言わないでよ!」


春香は……結構怒ってらっしゃる。


「うそうそ、優君は春香のものだものね~。ごめんね春香ちゃん!」


春香は今にでも怒り出しそうなご様子だった。

こわいこわい!春香が怒ったらこわいぞ!

春香のお母さんやりすぎ!!!


「なら優君と春香は、どっか外で食べてきたら?」


「俺は別にいいけど…。春香はいいのか?」


「なに?キモいから一緒に食べに行くなんて嫌とか言われたいわけ?このどM」


いや、口悪っ!

ちょっと、春香のお母さんのせいでめっちゃ不機嫌なんですけど!?


「あらあら~、春香ったら素直じゃないんだから~」


やばい、やばい、これ以上春香を怒らせたらまずい!


「あぁ~、もう!行ってきますから!陽(はる)のこと頼みますよ!」


俺は春香の手を引き、足早に家を出た


「お兄ちゃん、いってらー」

「あらあら、お熱いこと~」


後ろの方で陽と春香のお母さんの声が聞こえた。



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俺と春香は無言のまま駅前のサイゼへと向かった。

春香と2人の時や、倉敷家と食べに行く時にはよく行く店だ。

何よりも歩いて10分もかからないところにある上に、コスパがいい!



時刻は6時をまわっており、まだ春先だが、空はだんだんと暗くなっていた。夕暮れ時にほんのりと赤みがかかった空は、ふれあい研修で色々あった出来事を走馬灯のように思い出させた。



「ちょっと、いつまで手、握ってんの。もういいから」


春香のこの言葉が来るまで、掴んだ当事者である俺からは、手を放しずらかった。


「なんかこんな時間にここ歩いていると、昔を思い出すな」


2人が小学生低学年の頃、このくらいの時間に公園から帰ることが多かった。


「そうね、なんだかすごく昔のことのような気がする」


と、不意に春香の顔に笑みが浮かぶ


夕暮れ時は人に懐かしい過去を思い出させる。

その過去は、誰もが持っていて、万人にとってかけがいのない時間、キラキラした日々。


ある人は母を思い出し、ある人はなんとなく生きていた幸せな日常を思い出す。


夕暮れ時を前にした人は、どれだけ心がすさんでいても、どれだけ疲れていても、どれだけ荒ぶっていても、癒やしと負の感情の失脚を促されるのだった。



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サイゼについた2人は適当な席に腰掛け、注文をとった。


「優はさ、莉奈のどこが気に入ったわけ?」


頬杖をつきながらメニューを見ていた春香に聞かれる


「笑顔…は言うまでもないが、話の波長が合うし、裏のなさそうな純粋な感じとかかな」


「そっか。てっきり『かわいいから』とか単純な理由かと思ってた。ま、頑張りな協力はしてあげるから」


「俺はそんなにちゃらちゃらしてないぞ!それより春香のこと聞かせろよ」


さっきの帰り道で、含みのある言い方をしていたからだ


「私ってやっぱり、軽い女って見られがちなのかなぁ~」


「どうしたんだよ、急に。見られがちかもしれないのは中学のこと知ってるやつが多いからじゃないのか?」


だがそれは違うだろう。北学園は一番下のクラスでも偏差値はそこそこ高く、そのうえ、俺と春香が通っていた中学からは距離もあるので、同じ中学のやつはほとんどいないのだ。


「ま、自業自得ってやつよね。実は春香さ、ふれあい研修の期間だけで、他クラスの男子から5人も告られちゃったんだよね…」


「…な!?」


5人だと!?なんかすごいを通り越して怖すぎるな


でもやっぱりおかしい…。中学の頃の春香を知ってるやつはほとんどいないはずなのに…

こんなことってあるのか…?


なにか引っかかるな…

現に、春香の中学時代の事を知ってるやつが同じクラスに居なかったのだ。

なのに、ピンポイントで春香にたらし体質がある事を知らなければ、こんなに大勢の人間が告白するわけがない。


それに、5人全員他クラスというのも引っかかる


「当然、全部断ったけどね。高校は恋愛に妥協しないって決めてるから」


「そっか、それがいいと思うぞ。でも5人にも告白されたらクラスの女子からもいい目では見られないんじゃないか?」


モテるやつを妬む、これは男女共通の、いわば生理現象みたいなものだからだ。


「まぁ、ね。恭賀崎さん辺りの女子の中心メンバーからは、少し白い目で見られてる気がするかも」


だろうな。


もともと、たらし体質のあった春香は、中学の時も男がらみの問題で色々あったが、クラスの中心メンバーから外れた事はなかった。


なぜなら、春香こそが今の恭賀崎のポシションであったからだ。いわばクラスの女子のリーダー的存在である。


「なんかあったらすぐに言えよ、俺がなんとかしてやるから」


「そんなの悪いよ、優にたくさん迷惑かけちゃう。それに、これは春香がまいた種だから…」



それは違うと思うぞ、こういってあげたかったが、さっきの仮説は仮説でしかないので、春香に告げるのは無責任だと思った。


「迷惑なんてかけていい、春香を守れなかったらそっちの方が後悔するに決まってるからな。今は不安かもしれないが、辛かったらすぐに言うんだぞ」


「うん…、ごめんね、優」



こんな俺の無責任な言葉が、無自覚の言葉が、かえって春香を精神的に追いやる事になるとは、この時の俺には分からなかった…。


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そのあと、2人は気を紛らわすために明るい話をした。

俺は春香の困った顔や今にも泣き出しそうな顔を見る事が

たまらなく辛かったからだ。


そうして2人は現実から目を背けたのだった。



店の外に出たときはもう空は暗くなっていた。



夕暮れ時と違い、暗さというものは2人を不安にさせた。

それを誤魔化すように、2人は明るい話をしながら夜道を進んでいくのだった。

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あなたは運命の人ですか?彼女になってくれませんか? 白虎 @byakko0707

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