「田中バハムートと不屈の花姫」★★★★

 お久しぶりです、緒賀です。

 今回はマーズ文庫にて新人賞佳作を受賞した丸角まるすみ砂糖さとう先生のデビュー作、「田中バハムートと不屈の花姫」を読みました。

 名前に人生を揺さぶられる主人公と、その主人公に憧れの眼差しを向けるヒロインのドタバタラブコメディ、新人賞らしい勢いが感じられる作品でした。

 以下あらすじ。


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 田中バハムート(本名)は、高校入学と同時に改名しようと考えていた。これまでの自分と決別するため、バハムートは放課後の教室で家庭裁判所への申込書を書く。しかし、その書類を奪い取り引き裂く少女がバハムートの前に現れる。「そんなカッコいい名前、捨てるなんてもったいないでしょう!」彼女の名は佐藤花子。バハムートとは対極に存在する、”キラキラネーム”に憧れる少女だった――。


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 というわけで、あらすじにもある通り主人公は田中バハムート君です。ええ、本名です。命名の理由こそ「強く逞しい男に育ってほしい」というまっとうな理由ですが、強さの方向性が召喚獣では本人も納得しないでしょう。


 本作の出だしは、入学式の新入生代表挨拶から。

 名前でからかわれるぶん、勉強ではなめられてはいけないと猛勉強を重ねた結果県内有数の進学校にトップの成績で合格してしまったバハムート。新入生代表挨拶というその名を知らしめる絶好の機会を与えられ、そのキラキラネームは全校生徒が知るものとなります。


 入学式を終え、嘆き悲しむバハムート。文面だけだとファイナルなファンタジーみたいなやつに出てくるやつを想像してしまいますが、実際は高校一年生の青年です。


 しかし、そんな彼にもついに人生を変えられるタイミングが訪れていました。15歳になったことで、家庭裁判所に自ら名前の変更許可を申請することが可能になったのです。第一印象こそ最悪だがまだやり直せる、俺は普通の名前になってやり直すんだ……。

 そう考えながら書き込んでいく書類は、一人の少女によって取り上げられ、引き裂かれてしまいました。


 良くも悪くも平均的な容姿のその少女の名は、佐藤花子。

 キラキラネームによる苦しみを味わうバハムートとは対極なる存在、市役所の記入例みたいな名前であることにコンプレックスを持つ同級生でした。


 普通であることを求めるバハムート。

 普通じゃないものになりたい花子。


 となりの芝生は青いというように、彼らはお互いの状況をうらやましく思う間柄に

 なりました。そして互いに、普通であることがどれだけ素晴らしいのか、普通である者がどのような苦しみを持っているのか……それぞれの視点から良いところと悪いところをぶつけ合い、その距離を縮めていくのが本作の流れになります。


 ロジカルな口論では、知力の上回るバハムートが花子を圧倒。しかし名前の持つ意味とその素晴らしさを語るときの熱量では、花子が上回ります。

 バハムートは、花子のような普通の名前が欲しい。花子は花子で、バハムートのようなオンリーワンな名前が欲しい。互いが互いの望む姿であるからこそ、思想こそ平行線であれ、二人は少しずつ口論を繰り返しながら距離を詰めていきます。


 互いの信条は平行線のまま、それでも互いに少し認め合うところで1巻は終了しましたけど、粗削りながらコメディも大量に挟み込んできて面白かったです。特に水泳部への体験入部の時だけバハムート君がリヴァイアサンと呼ばれ、陸上部の体験入部でベヒーモスと呼ばれているところがツボでした。

 あとは、バハムートの望む改名候補に「霊亜れいあ」があるのが、家庭環境による影響から抜け出せていないのを感じられて妙な解像度を感じました。


 次巻以降、二人の距離はどこまで縮まるのか。はたしてバハムートは改名することになるのか。僕の予想だと売り上げに関わらず三巻で完結するような運び方なので、最後まで追ってみようかなと思える作品でした。どんな人に読んでほしいかと聞かれると悩ましいところですが、高校生活の描写なんかには力が入っていたので、そこらへん参考にしたい作家さんなんかは読んでみる価値があるんじゃないかなと思います。では今回はここらへんで。さようなら。



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架空ラノベをレビューする。 緒賀けゐす @oga-keisu

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