メタニンチ・ティターニア

~ピンクフェアリー誘惑中~



「ねえ、さっきから私しか話してないんだけれど。ひと回りも下のガキにここまでされて何もないわけ?」



 何って……。


 この子は賢い子だ。俺が退けられないのを分かってるし、キッパリとした結論を出せないまま終われば今後杏子ちゃんと関わるのが気まずくなる。


 情けない話、俺もどうすれば良いか決めきれてない。でも、絶対にこのままじゃダメだとは思うんだ。



~おっさん、悩んだ結果~



「俺さあ」


「あら、何かしら」


「自分で思ってたよりも偽善者らしいんだ。杏子ちゃんと会った雨の日もそうだけどさ、困っている人がいると助けたくなる」


「自分語りご苦労様。良い人アピールでお涙頂戴とでも?」


「今もそう。不破さんを助けたいなって」


「……」


「杏子ちゃんのことが好きで好きで堪らない。彼女を傷つけたくはないし、この邪魔者も排除したい。でもなかなかできなくて、自分でも予期していなかった強硬手段にまで出ようとしてる。本当はこんなことしたくないのに――」


「性善説だなんてくだらないわね」


「さっきから何度もSOSを出してるでしょ。嫌なら退けろとか、何か言い返せとか。自分の中で二つの本心がぶつかって、どっちも退けなくて悲鳴をあげてるんだ」


「やめなさいよ。説教なんてオジサンらしいけれどウザいだけなんだから」


「大丈夫だよ。大丈夫だから」


「何よ……頭撫でるのやめなさいよ……」


「俺も杏子ちゃんも、不破さんを嫌いになんてならないよ」


「やめなさいったら……っ。やめてよッ!」



 声を荒げる不破さん。


 でも絶対に手は離さない。ここで離すのは、きっと何もしないよりも酷いことだと思うから。



「怖かったね。感情はとめどなく溢れてくるのに全然言うことを聞かなくて……」


「違う」


「嫌なのに止められない。こんなの私じゃない」


「違う! 私は……」


「私は?」


「私は――」



 たかが中学二年生に難しい話だとも思う。


 独占や依存っていうのは、そこに自分を見出して安心感が生まれる。親に甘える子、子を躾ける親、アイドルのファン、誰々さんの親友……。付けられた代名詞を演じていれば『自分』でいられるし、それを非難する人なんて居ない。


 でもそこに長く浸かっていると、だんだん抜け出せなくなってしまう。『自分』であろうとすることがエスカレートしていくんだ。

 親離れできない子供、過干渉な親……どれだけ苦しくて外の世界に逃げようとしても、そこには何もない。何もないっていうのは怖くて、不安で、結局元の場所に戻ってしまう。


 不破さんにとって俺は、彼女と杏子ちゃんの関係を壊しかねない存在だった。自意識過剰かもしれないけれど、杏子ちゃんの気が俺にばかり向けば不破さんの安全地帯は壊れてしまうからね。



~妖精王女、沈黙す~



「私……」



 不破さんが考え始めたので、一旦手を止めてそっとしておくことにした。


膀胱「今がチャンスですか?」


――!!! これは、尿意……っ!



「ねえ、眷属さん。私って何かしらね」



 何というタイミング! さっき飲んだコーヒーのせいか?



「ちょっと?」


「そ、それは俺にも分からないよ。俺は不破さんじゃないからね」


「何それ無責任……なのは私か。そうね……」



膀胱「ケイデンス上げろー!」


 いかん、かなり! 不破さん、巻きで! 巻きでお願いします!



「ん、あまり動かないでもらえるかしら。少し考え事をしたいんだけど」



膀胱「程よい重みと振動、助かりますぜお嬢さん」


 動いたのは謝るから座りなおさないで! 刺激が! 刺激が!



「中学生? 違う。そういうことじゃないわね」



膀胱「ひっひっふー、ひっひっふー」


 ただの尿に対してラマーズ法はやめろぉ。


膀胱「さっさと解放して楽になろうぜ」


 俺もそうしたいのはやまやま……って



「何で自分の膀胱と会話しなきゃなんないんだよ!」


「えっ、何!? ボウコウ?」


「あああ! もう、不破さんゴメン!」


「きゃっ」



 不破さんの脇に手を回して持ち上げる。


 もう無理。限界。ゴートゥートイレ!



足「痺れてました」


「ぐぎゃあああ!」


「大丈夫!? 何なのよもう!」

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となりの暗黒神 にとろげん @nitrogen1105

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