第11話

「きゃああっ!

このコがイナリちゃんっ?!

すっごく可愛いわっ!

ねえサンジョウ、こんど私も会わせてね!」

「も、もちろんです!」


初めてのクエストを完了しまして…その内容につきましては、かなりツッコミを入れたいのですが、それはまあ置いておきましょう。


とにかくヘンクス村に帰って来てから、私の愛すべき使い魔イナリちゃんと、モフラブタイムをログインできる限界時間まで思う存分堪能致しました。

イナリちゃんが私と遊び疲れたところでログアウトした次第でございます。


それでその際スクリーンショット、略してスクショなるものを撮りました。

これはゲーム中の画像や動画を、リアル世界で出力出来る機能です。


やり方は簡単、両手の指で四角の窓を作り、『スクリーンショット、撮影』とか『動画スタート』と言えば、運営さんの方で記録してくれるのです。

ただ、この記録した情報をリアル世界で何らかの出力─つまり写真やスマホデータといったものですね─にするのは有料なんですよ。


…まあ、超可愛いイナリちゃんの『今』を記録するのに、お金の事など些細な事です!

むちゃくちゃ記録させて頂きましたよ!


それにイナリちゃんは超賢いんです。

しばらくすると、まるで一流アイドルペットみたいなアングルやナイスポーズを、自分で解るようになってきたのです!

はい、もう鼻血モンの可愛さでした。


……うん、本当言うとやり過ぎたと思ってます。

今の所持金を見て、ちょっと青くなってしまいました…。

まあリアルファンタージェンワールドへのログイン費用は、年間パスを購入済みなので大丈夫なんですが…。


おっと!ずいぶんと話が逸れてしまいましたね。

今はそのイナリちゃんを撮ったスクリーンショットをプリントして、ケイトさんにお見せしているところです。


場所はファストニア国の首都、リンデンバウトのメインストリートから少し外れた所にある、小洒落た喫茶店のテラス。

周囲も全て、ゲームの世界と違和感の無い中世感に、これまたファンタジー感全開の超絶美女のエルフケイトさんが目の前にいます。


そんな状況なのに、私が飲んでいるのがコーラとは…うん、オーダーを間違えましたね。


「にしても、手続きが終わったとたん、ダイブボックスへ飛んでっちゃったのはどうかしら?

…私にひと言、連絡くらいしてくれてもよかったんじゃない?」

「ははは…いやあ、一刻も早くゲームにダイブしたかっんで─あ、いや、すいませんでしたっ!」


私の就職先であり、またケイトさんの勤務先である『外務局渉外室』の内定を頂いたあと、本当ならケイトさんともう一度会う約束をしていたんですよねー。

それをすっかり忘れて、ゲームにダイブしちゃってたんですよ。


ゲーム中はリアル世界と連絡がとれなくなるので、ケイトさんは私がログアウトするまで待ちぼうけを食らわされた訳です。


「それに一晩中、むこうにいってるってのはあまりお勧めしないわよ?」

「えっ?そうなんですか?」


リアルファンタージェンワールドは、脳内に直接データを投影する、世界で唯一この国で出来るバーチャルゲームです。

よってログイン中は身体は休眠状態になるので、昼はリアル世界で活動し、夜の眠る時間帯にダイブすることも可能なのです。


実際、先ほどまで、そうやってイナリちゃんとモフラブしていた訳です。


「短期間の転移なら問題は無いわ。

でもあなたの様に年パスを使って、昼はこちら夜はむこうと、長期にわたって転移するのはね。

むこうとこっちの境界が、掴めなくなってきたって話を聞くことがあるの。」


ダイブボックス中は完全に体調を監視されているため、少しでも異常があれば緊急ログアウトされ、しかも緊急を要するに場合には直接、病院に連絡が行くシステムになっています。


なので、急に体調不良になっても心配することは無いのですが、なにしろこのダイブ機能は完全に秘匿となっています。

それはこの国の人間でも、ほんの一部の人間しか知り得ない情報として徹底されております。


それが他国でこのゲームが認可されない理由のひとつなんですけどね。


そんな訳で大丈夫と言われても、いまいち信用が無いんですねー。

まあ試験運用時代、"あんな"事故があった以降、一度も重大な事故は起きていないのですが。


とはいえ、私の計画では夜中の時間を使ってのダイブが第一前提なのです。

ケイトさんが心配してくれるのは嬉しいですが、何かしら身体に不調が見当たらない限りは予定通りにするつもりです。


それにしてもケイトさん、さすがのエルフクルーです。

これから同僚となる、ある意味身内みたいな私にさえ、『ダイブ』と言わず『転移』や『むこう』、『こっち』とかという設定で会話をしてくるとは。

いや、徹底していますねー!


─あ、そうか。

周りにいる人達の耳に入ると不味いですもんね!

なるほどー!

私もこれからは同じクルーの一員になるのですから、気を付けてねば!

ありがとうございます、センパイ!


「え?

…あ、ああそうね!うん、そうよ!

ちゃ、ちゃんと気を付けなさい!」


なぜか少し慌てた風にたしなめてくるケイトさん。

たぶん先輩と言われて照れたんだろう。


ケイトさんは凄い美人さんだけど、慌てた表情はとても可愛いです!

まあそんな事、口に出して言えるような度胸はありませんけどね。


「─で、サンジョウ?

あなた、どの辺りに住む事になったの?

あと日用品とか、まだそろって無いでしょ?

よかったらいいお店紹介してあげるわよ。」


おおー、そんな私の事を気にかけて、会う約束をしてくれてたんだ!

なんて優しいんでしょう、ケイトさん、マジ天使です!


それとも、も、もしかして、ケイトさん、私に興味を持ってくれてるとかっ?!


「まあ移住コーディネーターとして、アフターサービスみたいなものよ。

…それにあなたの…その…顔だと、初めて行った店だと色々とトラブルが起きそうな気しかしなかったものだから…ねえ?」


ああ、やはりそんなトコだったと思ってましたよ!


しかし気をつかってもらっているのも確かです。

しかも彼女の言うトラブルには、かくいうオノレが納得してしまっています。

この店でも、注文をお願いするとき店員のお姉さん、涙目でしたからねー…。




さて、ケイトさんに紹介してもらった雑貨屋さんで、洗剤や歯ブラシといった日用品を購入。

最初にケイトさんから紹介という名の事前告知をしてもらっていたので、それ程ビビられる事もなく、買う事ができました。

うん、これからもこの店を使う事にしましょう。


「…え?

サンジョウ、買う物ってこれだけでいいの?」

「ええ、これだけですけど?」


私の買い物カゴを見て、ケイトさんが不思議な顔をしています。

何かおかしいのでしょうか?

必要な物はちゃんと買い揃えてるはずですが。


「でも、貴方の荷物って、大きなリュックひとつだったよね?

まだジャパンから追加に送られてくるのかしら?」

「いえ、あのリュックだけですよ?」


リュックには主に1週間分ほどの衣服が入っています。

それだけあれば、充分着回せていけますしね。


「…じゃあ、食器とかは?」

「基本、外食で済ますつもりです。」

「家電品とかは?」

「食べ物は外で済ますから冷蔵庫とかは要らないでしょ?

洗濯はコインランドリーを使うつもりだし。

テレビとかはほとんど見ませんし。

見たい情報はスマホとタブレットで充分です!」

「…………。」


あれ?

何故かケイトさん、頭を抱えています。


「それじゃあ、ベッドはっ?!

まさか寝袋でずっと過ごす気なのかしらっ?」


食って掛かるように聞いてくるケイトさん。

どうしてだろう、ちょっと怒ってらっしゃる?


「ああ、睡眠はダイブボックスで摂るつもりなんですよねー。

ケイトさんは心配されてるようですが、ダイブボックス自体は高級ベッド並の寝心地ですからね!

問題が無ければ夜はログイン…いや違う、転移して過ごし、昼は仕事をこなしていこうという計画なんですよ!」

「…なにから問い詰めたらいいのか迷うけど…。

それなら、住む所なんか要らないみたいじゃない?」

「はい、もとより住む所なんか探していません!

私の真に住む場所は、イナリちゃんを筆頭にまだ見ぬモフモフ達がいる、あちら側の世界ですからねっ!」


そうドヤってみたんですが…。


─あ、これヤバいです。

ケイトさんの背後に、『ゴゴゴゴッ!』って、劇画調の擬音が見える気がします。


「サンジョウッ!

アナタ、何考えでるのっ?!」

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VRRPG世界でモフモフ王国を目指す俺は ドズル川上 @kawakami0915

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