第10話
「……むう。
スタップディアー、ほんっとおに、ここにいやがったのか?
実はもっと森の奥にいたんだろ?」
ギルドマスターのロッソさんが、疑りの目で私を見ております。
「いやいや、本当にここにいましたって!」
私の必死の反論に、地面を丹念に調べていたおじいさんが顔をあげて助け舟をいれてくれました。
「…ロッソ、そいつの言ってるのは間違いねえ。
ほれ、ここを見ろ。
スタップディアーの蹄の跡じゃ。
あと向こうの木に、角を擦った跡もあったわい。」
おじいさんの説明に、サラっと疑いを撤回するロッソさん。
「そうか…。
じいさんがそう言うなら、違いねえか。」
ええと、はい、現状の報告です…。
ロッソさんに『調べてくるからついてこい』と言われて、引きずられるようにまた北の斜面にやって来ました私です。
もう今日は、イナリちゃんとモフラブ時間を過ごそうと思ってたのにいっ!
「しかしのう、跡はそいつが倒した1匹だけのようじゃ。
他に痕跡は古いのも含めて全く見当たらん。
おそらくじゃが、"はぐれ"だったんじゃろうて。」
「…うーん、そうか。
なら村のもんにも、一応、注意だけするように言っておくだけでいいか。」
そしてロッソさんといま会話しているのが、ケントさんという村でただひとりの狩人さんのおじいさんです。
かなりご高齢らしいそうなんですが、背すじもピンとして、カクシャクとしているおじいさんです。
それに、なんというか凄腕狩人さんの雰囲気を持ってます。
いえね、日本にいた時の知り合いにひとりそんな感じのじいさんがいるんですが、その人にオーラがそっくりです。
ロッソさんも、このおじいさんには全幅の信頼をよせているようです。
「いやはや、それにしても来たばかりのズブの初心者がスタップディアーをのう…
妖精族ちゅーのは、皆、そんな馬鹿げたもんばかりなんかのう?」
「そんな訳ねーよ、じいさん!
いくら星3つ職つったって、ど素人が倒せるもんかよ。
俺が知ってる平均的な初心者妖精族なら、ゴブリン程度がせいぜいだっつーの。
こいつがおかしいんだよ!」
えらい言われようです。
「まあここに来るまでに、少し槍とかの扱いを教え込まれたんですよ。
武器屋さんでも言ってたでしょ?」
「いや、ちょっと修練を積んだだけで、いきなり実戦、しかもスタップディアーなんぞを倒せんぞ?」
ロッソさん曰く、スタップディアーって中級の冒険者でも、1人で倒すにはかなり危険なモンスターらしいそうです。
うーん…。
でも動きは直線的で、その速さに対応できたら難しい敵じゃあないと思うんだがなあ。
「…まあ森での足運びからして、お前さんが全くの素人じゃねえのは判ったけどよう…。」
あ、見る所は見てるようですねロッソさん。
さすが元ブイブイいわせてた冒険者です。
伊達にハゲているわけではないようです。
「ブイブイ言ってねーわ!
あとハゲは関係ねーだろうが!」
はああ…、それにしても単に薬草取りに来ただけの初めてのクエストが、こんな大ごとになるとは。
ねー、イナリちゃん?
「コンッ!コンコンッ!」
え?【薬草】まだ取ってないよって?
…
……ああっ?!そうでしたっ!
最初の予定では、薬草とかハーブ集めだったじゃないですか。
それがいきなり現地人も驚くような強さのモンスターと戦うって、ゲームバランスおかしくないですかね、RFW運営さんっ?!
普通ならこんなハプニング無しの【薬草】採取が、冒険者ギルドの初心者クエストじゃないですかねえっ?
…
………って、あれ?
そういや初めて冒険者ギルドに行ったら、RFW世界に馴れるために『チュートリアルクエスト』を受けさせてくれるんじゃなかったっけ?
そんでギルドから一番最初に、【薬草】採取のクエスト依頼をもらえるんはずなんじゃ…?
公式サイトで書いてあったのを覚えてます。間違いないないはずですよ。
……ロッソさん?
「ん?………………お…おおっ!
そういや妖精族にはそんな初心者用のクエスト用意しとけって、ギルド本部から指示があったよな!
いやー!すっかり忘れ…ゲフンゲフン!」
うわー…このギルドマスター…。
というか、このロッソさんもAIなんですよね?
運営さんの誰かが動かしたりしてませんよね?
だとしたら、うーん…こんなポンコツっぷりまで表現できるとは、ある意味、凄いよねー。
いや、恐れ入りました。
とにもかくにも、ギルドマスターのロッソさんにジト目を送っております。
「い、いやいやすまんすまん!
なんせ妖精族の初心者なんぞが来たのが、めちゃくちゃ久しぶりなんだったんでよ。
…まあぶっちゃけ冒険者自体、うちの村に来たのが数年ぶりなんだけどよー。」
ロッソさん、ぶっちゃけました。
…にしても、1日のダイブ数が数十万人もいるこのゲームでぜんぜん人が来ないって、ヘンクス村、どんだけ過疎ってるんですか。
「―よし!
お詫びといっちゃあナンだが…。
じゃあギルドマスターとして、冒険者サンタにクエストを依頼するぜ!
【薬草】を10本集めて来てくれ!」
─パパ~ン!
何がお詫びなのかよく解りませんが。
ロッソさんがそう私に言うと、頭の中でファンファーレみたいな音が鳴り目の前に透明なウィンドウ画面が現れました。
[チュートリアルクエスト①:【薬草】採取]
【薬草】×10の採取
ギルドに渡すと依頼完了
報酬/100G・10tp
クエストを受けますか?
[YES]・[NO]
おおー。
これが噂のウィンドウ画面ですか!
ちょっと感動しました。
最近、日本でも出回りはじめてきたAR(拡張現実)とも違う、直接視界に映るこの感覚は、実に面白いですね!
お、[YES]の所に触れると、脳内に『クエストを受注しました!』ってアナウンスされましたよ。
「うむ、クエストを受けれたな?
じゃあ、ついでにまとめて他のクエストも受けちまえ!
という訳で、冒険者サンタに追加の依頼だ!
ハーブの【クレセン】を10本採取
【マルク砥石】を10個採掘してくれ!」
─パパパパ~ン!
チュートリアルクエスト②:ハーブ【クレセン】採取]
【クレセン】×10の採取
ギルドに渡すと依頼完了
報酬/100G・10tp
クエストを受けますか?
[YES]・[NO]
チュートリアルクエスト③:【マルク砥石】採掘]
【マルク砥石】×10の採掘
ギルドに渡すと依頼完了
報酬/100G・10tp
クエストを受けますか?
[YES]・[NO]
ちょっ?!
そんなにいっぱい一度にクエスト出来ませんてばっ!
「なーに、大丈夫だって!
ほら!さっさとクエスト受けろって!
……クエスト受けたな?
よし!
まず【薬草】だ!
ほれ、そことそこ、それにあそこにもあるだろう。
【クレセン】はあそこにかたまって有るだろう?
そう、それだ!さっさと採っちまいな!」
ロッソさんが指差す所に、確かに【薬草】や【クレセン】の表示が見えます。
ええー…それって、クエスト依頼の意味無いじゃないですか。
「いいんだよ!
どうせこんな素人仕事、ギルドからのサービスみてーなもんなんだ。
お前もさっさと終わらせて、報酬もらった方がいいだろう?」
そうかもしれませんが…いや、情緒が無いというか何というか。
「つべこべ言ってねーで、最後に【マルク砥石】だ。
これはここの特産品なんだぜ!
あ、そういやお前、[採取(鉱物)] のタレント持ってなかったな?
なら採掘の仕方から教えてやる!
ほれ、場所はこの岩場だ!
ここをこうしてだな……」
…てな感じでロッソさんに手取り足取りとりがっつり採掘について教えてもらい、【マルク砥石】も回収できました。
おかげでタレント[採取(鉱物)]が、習得できるようになっちゃったオマケ付きです。
「よおし、全て集めたな!」
「ていうか、全部ロッソさんが揃えたようなもんじゃないですか。」
「だからいいんだって!
じゃ、全て俺によこしな。
…よし!確かに受け取ったぜ!
それじゃあ、冒険者サンタに報酬を…って、しまった!
今、金を持ってなかった…。
……うーん、じゃあ大サービスでウチの宿泊代、ひと月分と相殺だ!
これをもって報酬とする!」
─パパパパパ~ン!
[チュートリアルクエスト①:【薬草】採取、②:ハーブ【クレセン】採取、③:【マルク砥石】採掘を完了しました!
報酬300G―宿泊代1ヶ月にて代替と、タレントポイント30pを得ました!
…ええー…。
サンタ(土属性・ヒト族)
ジョブ:
[ビーストマスター] ★★★ Lv 3/10
[アルケミスト] ★ Lv 1/10
タレント:
[発見] Lv 2/10
[採取(植物)] Lv 2/10
[魔法(土)] Lv 1/10
[魔力感知] Lv 1/10
[魔力操作] Lv 1/10
控えジョブ:
なし
控えタレント:
なし
未収得タレント:
[槍技能] Lv 1/20
[採取(鉱物)] Lv 1/10
残りタレントpt : 80
ヨウコ(妖狐)/土属性/魔獣族
Lv 2 ★★★
タレント:
[狐火] Lv1/10
[惑わし] Lv1/10
[危険察知] Lv1/10
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