VRRPG世界でモフモフ王国を目指す俺は

ドズル川上

第1話

「うあー…、やっとや…やっと来れた…。」


おもわず目尻から涙がこぼれます。

無理もありません。

ここ、『リアルファンタージェンワールド』、約してRFWの大地に立つまでおおよそ5年掛かりましたからねー。


「でも本当にこれがバーチャルの世界なのかー…。

どうみたってリアルだよ、これ。」


今は一番最初に冒険者が降り立つ地、スタートポータルの魔法陣の上にいます。

周りは石壁、床も石、天井だけ板張りの、窓も何も無い10畳ほどの部屋で薄暗いですが、正面に扉があってその左右に松明が燃えています。


その松明からでしょうか、木材が燃える匂いと、埃っぽさが鼻をつきます。

足元はサンダル?履きなんですが、そのサンダルの皮や着ている麻らしいゴワっとした感触、さらに地面の石の固さまで伝わってきます。


あと肌に感じる、うっすらとした寒さまで超リアル。

擬似感覚とは判ってますが、どーみたってリアル。


まあでも、つい一瞬前までダイブギアボックスの中に居たのは覚えてますからね、ここがVRMMORPG、『リアルファンタージェンワールド』の電脳世界なのは間違い無いでしょう。


―パパ~ン!

「ほわあっ?」

《リアルファンタージェン世界にようこそ!

サンタさんのダイブは無事成功いたしました!

ご気分はいかがですか?

もし、何か不調を感じるようでしたら、すぐダイブアウトして下さいね?

何も問題ないようでしたらこの前の扉を開けて、"リアル"世界を心ゆくまでご堪能下さい、では!》


いきなり頭の中にファンファーレが鳴り響きまして、女性の声が聞こえてきました。

ちょっとビビって、変な声を出してしまいました。


「はああー、びっくりした!

ああ、これアナウンスでしたか。

はい、体調は何も問題ないようですね。

…あっと、返事は要らないのですか。」


どうやら返事は要らないようです。

問題なければ、さっさと前の扉を開けて外に行けばいいみたいですね。

でも今のアナウンスで、ここがリアルじゃないのがやっと納得できましたよ。


感慨に浸るのもこれくらいにしましょう。

では、感動のファンタージー世界を堪能致しましょう!

前にある扉を押し開きます。


「うおっ?!ま、まぶしい!」


扉を開けたらいきなり外でした。

薄暗い部屋に居ましたので、太陽の光がまぶしい…。

と同時に、清々しい緑の香りがします。


「…おおー…。」


いやあ、また感慨にひたっちゃいました。

扉から出ますと、そこは広々とした畑の縁だったみたいです。

振り返ってみると、小屋…というよりこれは『お堂』ですかね、石造りの小さな建物がありました。

これがスタートポータルの施設のようです。


私の前には、真っ直ぐ続くあぜ道とその左右に広がる青々とした麦畑?がありました。

さんさんと注ぐ太陽の光と風を受け、麦?がサアァーと揺れています。


なんだか田舎の田んぼ道を思い出してしまいました。


本物にこれがバーチャ…いやもう、これはいいですね。

とにかく進みましょう。


私には大いなる野望があるのです。

その為に全てを投げ売って、『ここ』にやって来たのですから。


歩いていますと、あぜ道のはるか向こうの方、1Kmくらい先に建物らしき物がちっちゃく見えます。

たぶんあれが、最初のホームタウンになるはずのヘンクス村なんでしょう。


私はこの、のーんびりとした風景を眺めつつ、さらにそちらに歩いて行きます。


―あっ!畑に人がいます!

麦わら帽子を被った人がひとり、どうやら農作業をしているみたいです。


これはNPCとのファーストコンタクトですね!

リアルファンタージェンワールドのNPCは、本当に生きているみたいなAIと言われてますから、しっかりと挨拶しなければ。


「こ、ここんにちはっ!」

…おもわず緊張して噛んでしまいました。


「ん?んおー?

あんれ?誰だ…、ひいっ?!」

声をかけた人はお爺さんでした。

お爺さんは、私の呼掛けに農作業をしている手を止め、こっちを向いてくれました。

…が、私を見るなり顔をひきつらせました。


「ひ、ひひいぃー!」

「あ、あのちょっ…。」

お爺さん、そのまま村の方へダッシュで逃げて行きました。

見た目よりかなり健脚のようで、呼び止める間もありませんでしたよ。


…ああ、そうでした。

ここに来た感動で、少し忘れていましたよ。

そうでした、ここは見知った人は一人も居ない所だった。


…ちょっとお爺さんの対応に凹んでいたら、村の方が騒がしくなってきました。

あ、これ、やばいかもしれません。


―しかも躊躇している間もありませんでしたよ。

村の方から弓やこん棒、何人かは剣を持った人達が、ワラワラと走って来て私を取り囲んでしまいました……。





「いやあ、スマンかったな、ボウズ!」

ハゲ頭のいかついおっさんが、ガハハと言いながら私にそのハゲ頭を下げました。


ここは村の中心、村で唯一の酒場兼、宿屋兼、冒険者ギルド兼、集会所であります。

唯一なので、宿屋に名前もありません。


「にしても、まあ慌てちまったよ!

ドレン爺さんが『野盗が襲ってきた!』なんて騒ぎながら駆け込んで来るからなー。」

「あーえっと、なんだかすいませんでした。」

「いやいや!

あんたが謝るこたぁねえよ!

こっちが勝手に勘違いしちまったんだからよ!」


このツルッパゲマッチョなおっさんが、この村の村長さん兼、ギルド長兼、ギルド職員兼、宿屋の主人であるロッソさんです。

…色々兼務なさってますけど、なんせ辺鄙な村をスタートに指定しましたんでね、この村は非常に小規模なんですよ。


さて私が、武装した村人さん達にホールドアップされながら連れて来たのがここなんです。

そこで武器を向けられつつ小一時間、コンコンと説明してやっと納得して頂けました。


いやー、ゲームの中のAI、ノンプレイヤーとはいえ、殺気バンバンの人達に囲まれるなんて、ゲームのスタートとしては斬新過ぎませんかね?


それで、どーしてこーなったのかは私の容姿にあります。


ぶっちゃけ、私はかなりコワい顔をしているらしいんです。

自分ではそんな風には思わないんですけどね。

まあ生まれた時から鏡で見てきたんですから、慣れてんでしょう。


特に目つき。

昔、人から『何人も殺した奴の目だ』なんで言われた事があります。


はっきり言って、他人、特に初見の人はまずドン引きます。

赤ン坊なら、100%泣き出します。


欧米人からしたらアジア人の顔の区別なんかつかない、とか言われますからね。

こんな反応されるのは日本人だけかなーと、一縷の希望を持っていましたが、RFWをしにこの欧州にあるファストニア国に来ても同じでした。


なんど税関やなんやらで、テロリストと疑られたか(泣)。


…で、現実世界でもそのレベルなんですから、盗賊やらモンスターが跋扈している物騒なこの世界です。

いきなり殺され、ゲームオーバーにならなかっただけでも僥倖としておきましょう。


にしてもこのノンプレイヤーキャラ(NPC)のAIって噂どおりですね!

全く普通に人と会話しているとしか思えません!


『NPCの半分は、実際の運営の人間がうごかしてる』なんてヨタ話もあるくらいですからね。

でも少なくとも、今時点で不自然なしゃべり方をする人なんか、ひとりもいませんでした。

恐るべしRFW。


「―で、その額にある宝石からして、お前さん、妖精族で間違い無いんだな?」

「はい、そうです。

あ、申し遅れました。

私、サンタと申します。」


私の名前は三条三太。だからアバター名はサンタにしました。

なんか『サンタさんっ』て可愛いでしょ?…せめて名前くらいは、親しみのあるモノにしたかったんですよ…。


あとロッソさんが言っている『妖精族』。

これが私達、現実世界から来た人間を、RFW側の人達が呼ぶ時の種族名です。


見た目の種族はエルフやドワーフなんかと、自由にキャラメイク出来るのですが、この世界の人達からすると私達は『妖精族』というカテゴリーで括られます。

そしてその証として、共通して額に直径3cmほどの宝玉が埋まっています。


これは自分の属性に応じて色が違います。


ちなみに私は、見た目が普通のヒト族、属性が『土』なので宝玉は緑色をしています。


え?キャラメイク出来るなら、そのコワ容姿もイジれば良かったんじゃないかって?

……ははは…、もちろん最初はそのつもりだったんですけどねー、諸事情がありまして(号泣)。


「そうかー。

いやあ、その事も驚いたよ。

なんせ、妖精族のモンがこの村にやって来たのなんて、20年ぶりくらいだからな!

大して面白味のねえ村だ、アンタら妖精族からしたらつまらんトコのはずだぜ?」

「ええ、それも知っています。」

「…ほう、じゃあ、あえてそれも判ってて来たってのかい?」


ロッソさん、何か怪しい理由があるんじゃないかと疑ってるみたいですね。

探るように私を見てます。


「ああいえ、ほら、私ってこんな顔でしょ?

だからたくさんの人がいる所だと、ちょくちょくトラブルに巻き込まれるんですよ。」

「…はあ。」

「なもんで、とにかく人が少ない所を、と思いました次第でして…。」

「……え?それだけ?」

「はい、それだけです。」

「……。」


な、なんか変な沈黙が流れてしまいました。

え?やはりそんなに理由として変ですかね?

あっ!でも、このRFWに来た理由ってのは、しっかりあるんです。

それはちゃんと伝えておきましょう!


「―でも目的はちゃんとあるんですよ!」

「お?おお、そうか!

その目的ってのは、聞いてもいいのかい?」

ロッソさん、気をとり直したように聞いてくれます。


あ、そうか。

やはり見ず知らずの人間がやってくれば、何か悪い事をしないか見極めないといけませんでしょうしね。

ロッソさんみたいな立場の人からなら、当然のことでしたね。


これはしっかりと、誠意をもってお伝えしないと。


「私はここに、モフモフを求めてやって来たのです!」



サンタ(土属性・ヒト族)

ジョブ:

[ビーストマスター] ★★★ Lv 1/10

[アルケミスト] ★ Lv 1/10

タレント:

[発見] Lv 1/10

[採取(植物)] Lv 1/10

[魔法(土)] Lv 1/10

[魔力感知] Lv 1/10

[魔力操作] Lv 1/10


控えジョブ:

なし

控えタレント:

なし


未収得タレント:

なし


残りタレントpt : 50

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る