第2話
「もふも…?
…ってなんだ、そりゃ?」
ロッソさんのツルッパな頭の上に、ハテナマークが飛び回ってるようです(イメージ的に)。
ああ、でも『モフモフ』がなんたるか、これでは説明不足ですね。
「はい、モフモフとは、至高の快楽、究極の悦楽を与えてくれるモノです!」
「はあ、そ、そうなのかい…。」
「はい、そうなんです!」
ロッソさん、私のモフモフに対する憧れに、少し引き気味になってしまいました。
いけません、おもわず熱くなって身を乗り出していたようです。
ですが、これではいけません。
ちゃんとモフモフ愛について、判ってもらわないと!
「……じゃ、なにかい?
結局、一時間近く説明してくれたが。
ボウズ、お前さんが言いたいのは、獣のモンスターと仲良くしたくってここに来たって事かい?」
「ぶっちゃけて言えばそうです!」
「ぶっちゃけって…。
はあ…まあそれだけの事を、よくも長々と説明できるもんだぜ。」
「あはは、いやーつい熱が入ってしまいました。」
でもロッソさん、私のモフモフ愛について、ちゃんと聞いてくれました。
この人、見た目はどこのマフィアかって位、いかついですが、中身はとってもいい人みたいですね。
「まあ解ったよ。
…しかし話を聞くに、お前さん、そんなに動物に嫌われてんのかい?」
「はい…それはもう…。」
どこか遠い目になってしまします。
―そうなんです!
私は、とおーっても動物が大好き!
でもリアルの動物達は、私に決してなつかない!
私と向き合ったモフモフ達の対応は二つ。
①親の仇かってばかりに敵意をむき出しにする。
②もう完全に諦めてきってガクブル震えながらなすがままになる。
まあだいたい、このどちらかの反応になります。
昔、初めて近くの動物園に行った時は大変でした。
動物園中の獣達がねー…、それはもう大パニックになりましたよ。
あとペットショップの近くを通るだけで、お店の子達がエライ事になります…。
だから動物園やペットショップなんかには、近寄らないようにしてます。
そんな訳でして、今までケモ達が私に気付かない距離から、双眼鏡で眺めるだけでガマンしていました。
……たまーに、それでお巡りさんから職務質問されたり、通報されたりした事もありましたが…。
どうして私に動物達が怯えるのか、全く謎です。
私の容姿が原因かと考えた事もありましたが、どうもそうでもない様なんなんですよ。
私の顔を見る前から怯えられますからね。
なんでしょう、変なオーラでも出してるとしか思えません。
こんなに好きなのに!
めっちゃモフモフしたいのにっ!
『もー好きにして下さい』って死んだ目で、震えながらお腹を差し出すチワワなんて、可哀想過ぎてモフモフ出来ません!
だからここにやって来たのです。
この仮想実現の世界なら…。
そしてケモ達を召喚し、自分の使い魔(ファミリアー)とする事ができる職業、『獣使い』なら!
「…そ、そーかー…。
うん、苦労したんだなー、お前も。」
ロッソさん、ダバダバと涙を流して力説する私を見て同情してくれています。
なんだか彼のセリフが棒読みな感じがしますが、私の崇高な目的に感動し過ぎて感情が抜け落ちてしまったのでしょう。
「まあいい。
久しぶりの妖精族さんだ、歓迎するぜ!
ようこそ、ヘンクスへ!
あとウチで冒険者登録するんでいいな?」
「はい、よろしくお願いいたします!」
―冒険者登録
冒険者ギルドで任意のギルドを『ホーム』として登録しておくと、様々な恩恵を受ける事が出来ます。
基本、私達、妖精族は、根なし草な冒険者稼業でいる事が多いですからね。
冒険者ギルドは、そういった冒険者の身元の証明や各種の税金関係を担ってくれるんです。
ゲーム的には死亡した時に、再スタートする場所を特定しておく手続きです。
いわばセーブポイントですね。
私の場合、初めて来たのですから、手続きをしておかないとキャラメイクの所からやり直しなってしまいます。
でも死亡なんて、バーチャルでも怖いですからね。
そんなリスクはなるべく負わず、ノンビリとファンタジー世界でモフモフを楽しむつもりです。
…で、その『冒険者登録』ですが、紙に名前と種族、年齢と現在の職種(ジョブ)を書いて血判をするだけで終りました。
なんというか、もうちょっと大層なのを想像してたんですが。
これで本当に、死亡時にここに復活できるのでしょうか?
田舎の村なんで、省略してません?
まあいいです、要は死ななければ良いのです。
それにもう、ガマンが出来ません!
私の心は、既に最初のモフモフを召喚する事で頭が一杯になっているのです!
ロッソさんにモフモフ愛を話していたら我慢出来なくなりました!
「じゃあさっそく、ケモちゃんを召喚してきますね!」
「お、お?そうか。
そういやお前さん、ビーストマスターなんだよな。
いやあ、その歳で三つ星職なんざ、やはり妖精族だよなあ。」
ロッソさんの言う三つ星とは、ステータスの職種(ジョブ)名の後ろにある★マークの事です。
私のメインジョブは『ビーストマスター』で★が三つ。
フフフ…これ、けっこう上級職なんですよ。
私はちょっと特例で、いきなり上級職になれたのです。
こっちの世界の人達が★三つまで成ろうと思えば、かなりの修行と才能が必用なのです。
それを簡単に収得出来るんですから、妖精族ってチートもいいところですよね。
「な、なあよう。
召喚するとこ見せてくれねえか?
なんせマスター職のもんが、この村に来た事なんて今まで無かったからよ。
そのかわりに、どこでも召喚したい場所に連れてってやるぜ!」
ロッソさんが、厳つくてデカい身体をモジモジさせながら聞いてきました。
はっきり言って、こんなおっさんがモジられても気持ち悪いですが、あえて口にはだしません。
それが大人と言うものです。
―『召喚』は職種によって方法が異なったりしますが、基本、出現するモンスターはある程度ランダムなのです。
そして私の獣使い系は、魔獣タイプしか召喚出来ません。
というか、だからこそビーストマスターにしたんですけどね。
そして召喚時に、『前衛タイプ』『後衛タイプ』『万能タイプ』を選ぶ事ができます。
そしてさらに使用する魔石の種類、そしてここが重要なのですが、―召喚する場所でモンスターの種類を絞りこむ事が出来るのです。
例えば、森の中で土魔石を使って召喚するとフォレストウルフなんかが現れる、といった具合ですね。
ロッソさんが『どこでも連れてってやる』って言ってくれたのは、この地形による出現条件のことを知っているからなんでしょう。
―とは言え、別に案内は必用無いんですけどね。
「…え?ここで召喚すんのか?」
「はい、まずは扱い易い子を、と思いまして。」
街中…、あ、ここなら村中ですね。
こういった所で召喚すると、ワイルドドッグやキャスターキャットといったワンコやニャンコ系が出現しやすいのです。
あ、あとはバトルホースなんかの家畜由来なんかもあります。
でもやはり最初は、ペットらしい子と考えていたのです。
それにこういったのは、地形による弱点なんかも少ないですからね。
あと私のビーストマスターという職業は上級職ですので、通常、最下位のモンスターからなのが、最低でも1ランク上、運が良ければ2ランク上の上位種を召喚できるのです。
ロッソさんが私の召喚を見たがるのは、そんな高位のモンスター召喚は、今までこの村では行われなかったからなのでしょう。
…なんせ種族が限定されてしまう『獣使い系』や『蟲使い系』なんかは不遇職ですからねー。
別に魔獣や魔蟲系は、オールマイティーなサマナー職でも召喚できるのです。
そういう訳で、妖精族でこれやってるプレイヤーは比較的少ないはずなんですよ。
―ですので、こんな片田舎のうま味もあまり無いこのギルドに、その上級職が来る事が無かったのは容易に想像できます。
「そ、そうかー…。
じゃあ俺の案内も必用ねえかあ…。」
「あ、えーと、別に召喚を見てもらってても構わないですよ?」
「おお!?そうかっ!」
ロッソさん、そんなに残念そうな顔しなくても。
別に、召喚に立ち会っても構いませんよ。
「おっ、そうだっ!
村の中で召喚するなら、いい場所があるぜ!
そこに案内してやろう!」
ロッソさんが何かを思いついた様です。
なんでしょう?
何か特別な場所があるのでしょうか?
―ですが、それをロッソさんに訊ねる前に、急に頭の中に警報音が鳴り響きだしました!
《―attention!attention!
外部からの強制ダイブアウトのコマンドがなされました!
プレイヤーはすぐさまダイブアウトの体制に入って下さい!
繰り返します―》
うええっ?!
いったい何なんですかっ?
ちょ…あ…、意識が薄れて…。
―こうして私の、第一回目のリアルファンタージェンワールド体験は強制的に終わり、現実の地球世界に戻って来ました。
そんでもって、混乱したまま棺桶みたいなダイブボックスから出でた私の前に、紺のスーツをピシッと着込んだ、ナイスバデーなエルフさんが居られました。
エルフさんはその美しいお顔を、私に向けて見下ろしています。
氷点下レベルの冷ややかな目で。
「……で、あなたは何をしているの?」
あ、これ、ヤバいです。
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