執着、収束

第1話

 バフォットが隠遁し、幾数日が経った。


 キティーナは村の雑貨屋で薬を卸した後、食料を買い込んで帰宅しようとした。


 珍しく、彼女に声を掛ける者がいた。黒いローブに身を包む、目付きの鋭い男だった。


 男は「バフォットの友人である」と言い、彼を捜していると告げた。


「私も分からないんです、貴方こそ知りませんか」そう答えようとした彼女だが――。


 ある直感により、彼女は「バフォットなど知らない」と急場の嘘を吐いた。


 礼儀正しく男は一礼し、立ち去って行った後……。


 キティーナは一目散に走り出した。


 山の何処かにいるバフォットを捜し出し、「訪問者」が来ても対応しないように警告する為だった。


 最初に――彼が暮らしていた小屋を訪ね、近くの洞穴や岩山にも向かった。


 しかしながらバフォットの姿は無く、次第に彼女の歯が小刻みにカタカタと鳴った。


 勾配を昇り、降り、また昇りを繰り返し、彼女の呼吸が途切れ途切れになる頃であった。


 ふと……微かに獣のような声が、山の何処かで響いた。


 駆け出した彼女がやがて見付けたのは、崖際に落ちている黒い毛と――夥しい血痕だった。


 不思議と悲しみは無かった。自らにも迫り来る危険を前にした瞬間、感情は酷く冷めたものとなった。


 あぁ、私は一人になったのね。分かったわ……それなら――。


 


 二度と会えないであろう男が、最後まで抱いていた願いを……キティーナが受け継ごうと決心したのは、その時だった。


 翌日。崖に逆らうようにして生える木に、村で出会った怪しげな男がもたれ掛かっているのを認め、キティーナは丁寧に救助する。


 苦悶の表情を浮かべる男を――転生者キティーナは冷めた表情で見下ろしていた。


 放って置く事も出来たが……狡く、賢く生きよというバフォットの教えが、果たして「懐柔」という道を照らし出す。


 キティーナは男を背負い、小屋を目指した。

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Kitina 文子夕夏 @yu_ka

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