第7話
「……アイツ、置いて行きやがったな」
舌打ちをしながらバフォットは酒瓶を掴み、一気にそれを飲み干した。
喉が一気に熱くなり、彼の視界は歪んでいくが……。
その歪みは酒によるものではなく、不意に溢れた涙の為であった。
「畜生が」
空になった瓶を壁に叩き付け、バフォットは少しの着替えと食料を袋に詰め込んでから、小屋の外へと出て行く。
キティーナを邪険に扱い、追い払った理由――彼の頭に幾度も浮かんでは……。
「あぁ、クソ。弱くなっちまったんだ、アイツのせいで」
ポロポロと落ちる涙もそのままに、当ても無く彼は歩き続けた。
この道を行った先に、彼女は暮らしているはず――。
一度足が向かい、しかしバフォットは引き返した。
アイツは俺といちゃいけない。もっと良い男がいるはずだ。親を殺すような男じゃなく、もっと真っ当で誠実な――。
「……クソ、クソ! 何処まで俺は弱ぇ男なんだ!」
乱暴に袖で顔を拭い、バフォットは近くに生えていたキノコを蹴り飛ばした。
「……このキノコ……確かアイツが…………あぁ、畜生!」
バフォットさん、このキノコ……知っています? 食べると疲れが取れて、とっても良いものなんですよ! 今度、一杯採って来てあげます!
次々とキティーナの顔が、言葉が、優しさが……バフォットの脳裏を過ぎって行く。忘れたくとも忘れられない、悲しき男の性に彼は思わず笑った。
「垂れ耳のキティーナ、か――」
大きく溜息を吐いてから、山の何処かで今も暮らす彼女に……彼は届かない言葉を掛けた。
キティーナ、今までありがとう。借りはいつかきっと返す。……良い人、見付けろよ。もし……もしだぞ。もし誰とも出会えなかったら、その時は――。
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