第二章 真実を探求する者 5

『UNITE OFF』


 俺達が屋上にたどり着くとお互い融合を解除する。

 幸い屋上には誰も居なかったので、融合を解除しても誰にも見られなかった。


「神崎、どういう事だ?」

 俺はグレンとの融合を解除した後、神崎に話を聞くために近づく。

「話せば長くなるけどいい?」

「あぁ、いい」


 俺がすんなり承諾すると神崎は語りだした。


「陽太君が行った後、助けを呼ぶ声が聞こえてきたの。私は声の持ち主を探すために校内を歩き回ったんだ。そして、視聴覚室に私が入るとテレビ画面が光りだしてそこから声が聞こえたの」

「声……」


 俺がグレンと会った時と同じだ。

 俺も声が聞こえてきてそこまで行ったらパソコンがあって画面から声が聞こえてきた。

 何かその事にも関係はあるのだろうか……。

 そして、神崎の話は続く。


「私はグレンの仲間か聞いたんだ。そしたら仲間だって言うから私のスマホに入ってくればグレンの所に連れていってあげるって言ったの」

『何? 俺の仲間?』

「そう。それでその子が私のスマホに入った後に知らないアドレスからメールが届いて開いたら陽太君が言っていたアプリが付いていたの」

「知らないアドレス……」


 多分、神崎にこのアプリを送った奴は俺に電話した奴と同一人物だと思う。


「これで私も力になれると思って色んな人の噂を盗み聞きしながら体育館の裏まで行ったんだ」

『そして、後は俺達が知っての通りか』

「そうだよ。ちなみにこのアプリをダウンロードした時にまたメールを見ようとしたらメール自体が無くなっていたの」


 恐らく俺の時と同じでハッキングしてメールや履歴とか消し去ったんだと思う。

 俺や神崎にこのアプリを渡した奴は自分の痕跡を残さないようにしている。

 何故なんだ……?

 確かにハッキング自体は犯罪だがこのアプリのお陰で助けられている。

 俺と神崎の事をあまり信用してないという事の現れなのか……?

 謎は深まるばかりだ。


『それでミスズ。俺の仲間っていうのは?』

『私です。グレン』


 神崎はスマホ画面をこっちに向けると翡翠の色をした綺麗な鳥が居た。


『私の名前はウィンド・フェニックスのエメラです。陽太様、これからよろしくお願いしますね』


 とても礼儀正しいが物腰柔らかそうな鳥だった。

 人で例えるなら何処かの令嬢かな。


『エメラ、お前だったのか』


 俺も神崎の方にスマホ画面を向けるとグレンはとても嬉しそうだった。


『グレン、お久しぶりです』

『まさかこんな近くにお前が居るとは思わなかった。しかし、日本語が使えるんだ?』

『私がデータになった後、すぐにデータを解読する力があると分かったんです。私が居た機器にこの星の言葉が書いてあったので解読して覚えました』


 なるほど。

 書かれていた言語データを解読したから暴走してなかったのか。


『じゃあ、お前はずっとここに居たのか?』

『いえ、ここに来たのはつい先ほどです』

「えっ? どういう事だ?」


 俺はエメラの言葉に疑問を持ちグレンたちの話に割り込む。

 エメラはずっと俺たちの学校に居たんじゃないのか?


『私はここに来る前、スネークに会ったんです。ですがその時には暴走していて電気を纏いながら私を襲ってきたのです』

「あの大蛇が襲ってきた?」

『はい。恐らく私の事を食べるつもりだったんでしょう。私はなりふり構わずに逃げました。しかし、あの子は諦めずに私を追いかけてきたのです。逃げている間にもあの子はデータを食べてエネルギーを蓄えていました』

『なるほどな。朝の停電は電気を纏ったあいつが通ったせいだったんだな。一部の電子機器類が壊れていたのもあいつがその電子機器類のデータを食べたから壊れたんだな。実体化(リアライズ)したのもこれで頷ける』


 グレンはエメラの話を俺たちの周りで起きた事と照らし合わせながら聞いていき、停電の原因やあの大蛇の実体化(リアライズ)の事を話していった。

 そして、エメラの話はまだ続く。


『それを振り切るために私はここにある機器に隠れて諦めるのを待っていたのです。けれど、隠れている事に疲れた私はいつの間にか助けを呼んでいたのです』


 俺はエメラの話を聞いた時に空中で大蛇の様子を見ていた時の事を思い出す。

 あの時、あいつは何かを探していた。

 その探していたものはエメラだったのか……。


「それで見つけたのが私だったの」

『なるほどな……』

「各々の事情は理解した。だがな……」


 俺は鞄を持っていた手をさらに強く握る。


「神崎。お前はもうそのアプリを消せ」

「えっ……?」


 俺は神崎を睨みながらそう言った。

 神崎は俺が言った事が理解できずに居た。


『ヨウタ、なんで……』

「情報提供ならまだしも一緒に戦うって言うんだったら俺はお前の協力は必要ない。エメラはこっちで預かる。だから、これ以上神崎は戦いに関わるな」

「……」


 慌てているグレンに対して黙り込んでしまう神崎。

 そんな神崎を俺は睨みつけながら答えを待っていた。

 これ以上神崎に危険が迫るって言うなら俺は止める。

 例えそれで嫌われても俺は構わない。

 それで神崎に危険が無いならお安い御用だ。


「陽太君ってさ……」


 何も喋らなかった神崎が喋りだす。


「いつもそうやって自分より他人の幸せを優先にするよね」

「えっ?」

「ほら覚えてる? 私と陽太君が初めて声を掛けた日の事……」


 神崎は突然、俺とのなり染について聞いてくる。

 俺と神崎が声を掛けた日の事……。

 確か俺の悪い噂を聞きつけた神崎が声を掛けてきたんだっけ……。


「あの時、悪い噂の人ってどんな人なんだろうと思って声を掛けたの。だけど、陽太君と話してみると全然噂と違っていたから私驚いちゃった。その事に疑問を持った私はもう一度陽太君の噂が本当なのか確かめるために色んな人に聞いたの。そしたら三年生事件は誤解だっていうのが分かったの」

「……!」


 神崎の話を聞いて俺は驚きを隠せなかった。

 あの三年生事件の真実を知っている奴があの時の当事者と先生たち以外に居たなんて思ってもいなかった。

 そして、神崎の話は続く。


「その後も色んな人に噂を聞いたの。不良と言われる裏側で先生たちが困っている事を影でこっそり手伝ったり、不良に絡まれていた生徒を助けるために自分自ら出て行って不良を追い払ったりしてたって」


 俺の噂は悪い噂ばかりだけと思っていたがまさかそんな噂も流れていたとはな……。

 ちょっと恥ずかしい……。


「様々な噂を聞いていく内に私は陽太君に対して更に興味を持ち始めたの。そして、友達として付き合っていく内に気付いたの。この人は自分が犠牲になってもそれで他人が幸せになれるなら自分が悪者になってもいい。そういう考えの持ち主だって」

「……」

「だけど、見てる方は心配なんだよ。このままだと陽太君は自分より他人の幸せを優先しすぎていつか壊れてしまうんじゃないかって……。だから、お願い。今回の件、私にも手伝わせて! 役に立つかは分からないけど私は友達を……自分の事より他人の幸せを優先する友達を助けたいの!」


 神崎は真剣な表情で俺にそう訴えてきた。

 その心に偽りはないと俺には感じられた。

 ……やっぱり神崎には敵わないな。


「……分かったよ。そこまで言うなら俺は何も言わない」

「陽太君……!」

「但し少しでも危険を感じたらもう戦うのは止せよ。分かったか?」

「うん。けど、私だって陽太君がやめないかぎり戦うのはやめないよ」

「言ってくれるな」

「そうでしょ?」


 お互いに言い合った後、見つめていた。

 お互いに見つめていると何だか可笑しくなり笑い始める。

 グレンやエメラも俺と神崎の様子を見て笑い始める。

 こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。

 でも悪くない。そう思う俺がここに居るのであった。


※※※


 学校の廊下で一人屋上に続く階段を見つめていた。


『今回の一件で仲間が増えたな』

「まだ足りない。それにアプリをもう少し改善しないといけない事が分かった」

『今回の後処理もある。また色々と忙しくなるな』

「後処理の方はもうすぐ終わる。それより行くぞ」

『あぁ、こちらもこちらで仲間たちを探さないとな』


 誰かと話しながら一人廊下を歩いて行った。

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