人間ドミノの成功者と人柱のみなさん

ちびまるフォイ

幸せはひとりじゃつかめない

『私は神です。今はあなたの頭の中に直接話しています。

 あなたはこれまで不幸な日々を送っているようなので

 私から特別にプレゼントを贈りましょう』


「本当ですか! ありがとうございます!」


『人間でドミノを作りなさい。

 最後のドミノ人間が倒れたところに

 幸福を与えると約束します』


「なんでそんな回りくどいことを……」


『私が楽しいからです』


神様が言うので仕方なくやることに。

ゴール地点にさっき買ってきた宝くじを置いて、

ドミノに扮した自分が宝くじの上に倒れる。


「はい、やりましたよ」


『ふざけてるんですか。1人だけでドミノとは言えません』


「わかりました、人数集めればいいんでしょう?」


『なお、ドミノとして倒れた人は

 その後の人生の幸福が吸い出されるのであしからず』


「へっ?」


『ゴール地点に幸福をリレーする都合上しょうがないのです。

 ドミノとして倒れたら、その人は今後ずっと不幸。

 でも、ゴール地点には100人ドミノなら100人分の幸福が手に入ります』


「すぐに集めます!!」


『そこ躊躇しないのね。やっぱ人間ってクズだわ』


世界の裏側で内戦が激化しているニュースを見ながら、

普通に食事ができる俺からすればどこの誰が不幸になろうと知ったことではない。


動画サイトの企画として人間ドミノの参加者を募った。


「ここでやるのかな」

「けっこう人いるなあ」

「有名人になれるのかな」


無名の配信者に人はついてこないので、すでに別の動画配信してフォロワー数を増やしてた。

配信者として顔が割れるのは避けたいけれど有名にはなりたい。

そんなあさましい心を持つ人間などすぐに集められた。


広い会場を抑えるのは難しかったので人通りの少ない町でやることに。


「人が少ないって聞いてたんだけどなぁ……」


会場には観客がひしめき合って、さらにホームレスまでいた。


「おい、これから動画取るからそこをどいてくれ」


「ワシは昔からずっとここにいるんじゃ。

 あとから来たお前の都合など知ったことではない」


「連れ出せ」


「おのれーー! 力でなんでも解決しやがってーー」


ホームレスは動画協力者の手によって観客席の最果てまで追いやられた。

カメラに汚いおじさんがカットインしてほしくなかった。


「それじゃ、1列に並んでください」


「「「 はーーい 」」」


全員が並んでゴール地点までの長いドミノ行列が並ぶ。

ゴール地点には柵が設けられ、観客はゴール地点にも集まっている。

宝くじはゴール地点に置いてある。


これだけの人数がドミノ倒しできたら、宝くじに収まりきらないほどの幸福が手に入りそうだ。


「よーーい、スタート!!」


スタート地点の人が倒れて、前の人の背中を押した。

次の人が倒れて、また次の人の背中を押していく。


カメラを持ちながら倒れていく人を映しながらどんどん先へ進んでいく。


「いいぞいいぞ、順調だ!!」


普通のドミノと違って、人間が行うので多少軌道修正もしてくれるから

間隔が短くても広くてもうまく調整してつなげてくれる。


人間ドミノは自分が不幸になるとも知らずに進んでいく。


「はぁっ……はぁっ……。

 ドミノ追いかけ続けるの……キツいな……。

 先に行ってカメラ構えておこう……」


運動しなさすぎの体にドミノを追いかけるマラソンはきつかった。

先回りしてカメラを回しておこうとドミノを追い抜いた。


その途中に、無駄に広いスペースができているのに気づいた。


「おい! なんだよこのスペースは! 1人分空いてるじゃないか!!」


「実はさっきトイレと言って……」


「トイレ!? 勝手なことを!! もうそこまでドミノ来てるんだぞ!!」


人気のない場所を選んだからトイレは遠い。

周りを見渡しても抜けたやつは戻ってきそうもない。


ドミノの間隔を短くするか。いや影響範囲が大きすぎる。

強引につなげるか。いや途切れたら幸福リレーの効果が……


「ドミノ来てます!!」


「ああ、もう!! ちくしょう!!」


しょうがないので俺が間に収まった。

前の人間に背中を押されて倒れつつ、前の人の背中を押す。


ドミノは俺が補てんすることでなんとか続いた。


「はぁ、俺の幸福も賭けちゃった……まあ、大丈夫か」


仮にこれからの人生で幸福がなかったとしても、

このドミノが成功した先には必ず宝くじが手に入る。


金さえあれば不幸なんて大した代償ではない。


念のため先回りして、もう列が途切れてないことを確認。

先にゴール地点まで向かいクラッカーの確認も行う。


一番怖いのはなんらかの不幸で自分が死んだりするオチだ。


「クラッカーよし、宝くじもOK、期限も大丈夫。

 隕石も近づいてないから死ぬこともないな」


念入りに確認を済ませていると人間ドミノはゴール地点から見えてきた。


「よしよし!! いい感じだ!」


もうすぐゴール地点。

心臓の音が自分でも聞こえるくらい高鳴っていく。


あとは最後の奴がゴール地点に倒れれば、仕込まれている宝くじに何百人ぶんの幸福が――。


「あの、もうドミノってどこまで進みましたぁ?」


予想外の声に思わず振り返った。

後ろには途中で列を抜けていた女が戻ってきていた。


「私のところもう過ぎちゃいましたかね?

 今から入れる列ってありますか、友達に動画に出るって言っちゃってぇ……」


「おい、いいから向こうにいけ!」


もめていると、最後のドミノ人間がゴールに倒れた。

演出用に用意していたクラッカーが大きな音を立てる。


パンッ!!


「きゃあ!!」


ゴールの仕掛けを知らなかった女は驚いてバランスを崩した。

そのまますし詰めの観客席へと倒れ込む。


「うわっ!」

「押すなって!」

「いたたっ!」


ひしめき合っていた観客たちは将棋倒しに倒れていく。

それはまるでドミノのよう。


慌ててドミノを追いかけるも、とても追いつけない。


人間ドミノが最後に途切れた場所に立っていたのは――。


「え? ワシかい? これ映っとるのかね?」



観客席の最端に立っていたホームレスは、

その後に大躍進を遂げるサクセスストーリーをたどった。


俺はというと……。


ホームレスを追いやった部分がドミノ参加者に撮影され

炎上して今やネットのおもちゃとして広く親しまれている。

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