実験結果のレビュー

 朝、計画通り起きて、昨夜徹底てってい的に洗濯し、花の香を染めた服を着こなし、髪の一筋で一輪のバラを結びあげ、朝の老人があるべき場所へ赴く…

 

 彼は私を待っている。


「先生、参りました」

「話せ」

「二つの問題があります、どう聞きますか?」

「一つは虫のことだ、もう一つは知らん、話せ」

「なぜここは風がいないのですか?」

「どこにもあるものを、何故いない?」

「確かにいません。昨日畑の傍で一日引っ込んで、頭がふらふらするまで考えたのに、頬っぺたを涼しんだ微風そよかぜもいません。夜になって、泉の傍からも夜風を感じません」

「じゃ雨はどうする?」

「あるかもしれない、でもわかりません、あの日は室内であまやどりしていった」

「虫はどう戻った?」

「風に吹いて戻ったのです」

「いないと?」

「でも今の私の持つものには、この結論を辿り着くしか、ない。だから風に吹いて戻ったのです」

「なら風はある」

「あると?」

「ある、でも弱い、人が感じない、虫は感じる」

「……でも青虫は力持ちです、微弱びじゃくな風は効かないはず」

「動かないが、感じる」

「だから骨格をつけるのですね?」

無論むろん、それに天女てんにょころものように設計だ。水車の方はどうだ?」

「水車なら歯車があります、大きい。骨格にもあるが、とても小さい」

「歯車は両方ある。水車が単純たんじゅん、初に押されたのは一ヶ所」

「水が流したところ?」

「そうだ。まずは水車を理解しろ、次は骨格を見る、押さえたのは一ヶ所に限らん」

「分かりました。ありがとう!先生、お時間をとらせました!」

「礼はいらん。教えると言ったはずだ」

「さよなら、先生!」


 私は待っていられない、すぐ水車のところへ来た。小さな輪が歯車を動かす、歯車が丸い木の棒を叩く、木の棒がまた歯車の円と接続せつぞくし、ワンセットの複雑な装置そうち。でもこれは簡単な装置だったはずだ、設計図さえあれば。

 私は老人が回したハンドルを回した、勝手に回しても大丈夫だ、老人が井から離れ、わざっと私一人残したから。回したハンドルは一枚手持ちサイズの歯車をプッシュし、水車装置の内部にはまる。そして井の真上まうえにぶら下げたロープは遠くの水の力を得て回し始め、バケツをどんどん持ち上がった、これは老人が毎日水を汲んだわけだ。


 再び畑へ行く、虫たちは依然いぜんと行き来てしている。人の目がいくらを凝らしても、微塵な歯車の回し方を見えない、が、私は設計図を持っている!それがこれ程役立つ道具とは夢にも思わなかった。


 昼飯を抜きため、大盛の朝ご飯を堪能した。今日の予定はペルパーに描いた一つ一つの歯車の回し方を知る、一本一本の木屑の転動方向を知る。それは今の私の唯一のやることだ。


 歯車の運動うんどうは風によるもの、水によるもの、二つの力は異なる、水は一ヶ所しか流さないが、風はどこでも届く。水車は大きな輪がある、骨格も同じ。骨格の歯車がサイズそれぞれ、もっとも大きいのは4つ、互いに違う場所に居て、ブレードは他の歯車より遥かに大きい、だから最初に風と接触したポイントに違いない。骨格の動力どうりょくは部品の回るによって伝動する、それに方向は一方的すぎて、最後の効果は虫の足を圧迫あっぱくし強制的に運動させる。それはとてもぎこちない、機械の動きだった。


 やっと気休めできた、未完成の謎を一時忘れて。風の方向とか、雨の影響とか、なぜ虫は力の圧迫に流され移動できないとか、等々。大事な、また煩い心事しんじ。老人に会いたい、やはり彼は預言者だ!私は彼の全てを学んで、族人を救う!私は祈りを捨て、人の力で全てを挽回して見せる!最後は父の石の名前をシナゴーグの聖碑へ植え付ける!



 太陽が昇って、また新しい一日を始める。今日は正々堂々と小屋の扉を潜って、中をすこしだけ探索する。今朝先生の視界しかいの中でハンドルを回す素振そぶりを見せても、何の反応も見せなかった、ただ水汲む一心で、完全なる無視。つまり小屋の道具を触っても、許される行為ということだ。

 気になるのは老人シートの机に載せた木の碗、中には幾つの金属器が、鉄の紙切れがいた。これは骨格をつくる道具に違いない、気づくのが遅いけれど、初めに来た夜、私はもう骨格を見たことがあった。


 そうだ、答えは最初から決まっているではないか…あんな精緻なパーツを作るには金属しかありえないことを。この薄い金属エッジは木のみきが切らないが、木の屑ならうってつけのツールよ。薄い木の板に骨格のパーツを描き、そして金属エッジを使って彫刻ちょうこくする。

 骨格のパーツなど、私の指が勝手に描けるものを、そして彫刻するのだ…半日を使って、2セットの骨格が作った。遅いけど、作り方は間違いない正解だ。私はもう骨格をつくることもできたんだ!他には、青虫だけだ、この材料だけが先生の手に握っていた。


 でももういいんだ、今は新しいものを学びたい。午後適当に骨格を作って、明日また先生に会うのだ、新しい仕事を見つけ出す。虫はもう、どうでもいい気がした……

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科学精神症候群 Dr.ペルパー @sharuru

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