7-4 出会いの結末

 さてさて、こうして私の人生観をまるっと変えた彰との出会い、それによる一連の事件はひとまずの終幕を迎えた。この後も私たちは大なり小なり、様々な事件に巻き込まれたり、彰が起こす気まぐれに振り回されたりと賑やかな高校生活を送ることとなる。


 高校卒業後、私は彰の夢を叶えるべく教師免許を取った。香奈は彰と私の癒やし枠として調理免許を取り、彰が作った学園内で喫茶店を開くこととなる。


 学園内に喫茶店? と多くの人は不思議に思うだろうが、彰による理想の学校は、学校というには規模が大きい、もはや街といえるものだった。お狐様の願いである十歳以下の子供を集めるべく幼等部、初等部があるのは当然として、中等部、高等部、しまいには大学部まで作り上げた。


 そのうえ、教職員や生徒、学園関係者が住まう住居エリアに買い物や娯楽が楽しめる商業エリア、部活動の本格的な施設が固まった部活エリアまで完備。入学してしまえば学校卒業まで学校から出なくても生活できるという学園都市を作り上げてしまったのである。


 羽澤と関わらなくていい状況を作ろうと思ったらこうなったと彰はいっているたが半分以上は趣味だと思う。理想で終わらず現実にしてしまうあたりが流石だ。千鳥屋先輩が彰ならもっと上にいけると言っていたがここまでとは思っていなかっただろう。


 響さんは宣言通り協力という名目で資金を巻き上げられている。彰との関係は親子と言うには微妙なままで響さんは虎視眈々と踏み込むタイミングを見計らっているが、現状は彰の警戒が勝っている。こちらの関係についてはそのうち進展があるだろう。近々、彰の異母弟が転校予定なので。


 るいさんは経営者兼彰の秘書として活躍中。相変わらず彰第一で謎の人だが、仕事が大変丁寧で真面目なうえ、暴走しがちな彰のストッパーとして頼れる存在である。


 小野先輩は大学在学中に立ち上げた衣服のネット販売会社で成功し、黒天学園のスポンサーとなった。千鳥屋先輩は小野先輩と彰の協力の元、念願の自分の店を手に入れ、黒天学園の制服デザインを担当している。

 二人は大学卒業を機に結婚するかと思われたが、千鳥屋先輩の実家関係で色々あるらしく事実婚で収まっている。小野先輩は順調に業績を伸ばしているし、彰と響さんという強カードがあるので心配はしていない。


 日下先輩は持ち前の正義感から弁護士になり、彰のスカウトにより黒天学園の顧問弁護士に就任した。彰が不正したら内部告発すると宣言している頼もしい存在である。溜め込む性質は変わらず、たまに飲みに行くと泣き上戸になる。かなり面倒くさいがガス抜きは必要だろうと日下先輩を泣かせる会は定期開催中だ。


 百合先生は彰の大学卒業を機に教師をやめ、海外に旅立った。今は海外の貧しい子どもたちに数学を教えるボランティアに参加していると聞く。旅立ってから一切連絡がつかないが百合先生ならどこでも生きていけると思うので心配してない。彰の叔父だし、きっと妹さんの加護もあるだろう。


 小林先生と一条先生は黒天学園の教師にスカウトされ、現在も教師として活躍中である。どちらも私達の高校時代を知るため、私達からすると頭が上がらない。特に小林先生は暴走しがちな彰を定期的に叱ってくれる頼もしい人であり、私からすると先輩教師だ。教師という仕事の難しさを知った今では尊敬できる先輩であるが、同時に恐ろしさに磨きもかかった。私は小林先生路線は無理なので、一条先生よりで頑張ろうと思う。


 小宮先輩と重里玲奈は残念なことにというべきか、しぶとくというべきか順調に交際を続けている。子供が生まれたら黒天学園を受験させたいと語った幸せそうな小宮先輩に対し重里の顔が引きつっていたのが印象的だった。入学した際には私も気にかけたい。どっちに似ても厄介そうなので。


 色々と不憫だった尾谷先輩はなんと黒天学園に商品を卸す会社に就職していた。百合先生いわくギリギリで大学に滑り込み、人づてによると真面目な大学生活だったらしいが、なんの因果がまた彰と関わることになってしまったのは本人曰く最悪らしい。

 だが最近、香奈といい感じの雰囲気になっていることを私は知っている。現在、彰と全力で阻止する計画を進行中だ。


 白猫カフェは現在も営業を続けており、宮後さんも生き生きと働いている。宮後さん主導の元、第二店舗もオープンし、着実に業績を伸ばしているらしい。業績が伸びたことよりも救われる猫が増えることに宮後さんたちは喜んでいた。

 ちなみに第二店舗の開店記念に駆けつけた彰は案の定、猫たちに大ブーイングを受けた。もはやお家芸である。


 商店街は「子狐商店街」と名前を変え、地域だけでなく、遠方からも人がやってくる人気スポットなっている。入り口付近にある祠に挨拶すると幸運が訪れるというパワースポットとしても知名度を上げ、子狐様の毛並みが数段良くなった。

 一方、お狐様は子どもと戯れるために保育士免許を取得し、黒天学園の幼等部、及び託児所で元気に働いている。お狐様的には楽園らしく、こちらの毛並みも数段良くなった。

 しっかり神様をやっている子狐様を見て安心したのか、親子関係も以前より良好である。


 クティさんとマーゴさんは未だに商店街付近で出没中。私が高校を卒業したあたりから会う機会は減ったが元気にしていると小野先輩と千鳥屋先輩から聞いている。

 最近、クティさんの様子がおかしいらしく、中学生女子と行動を共にしているという噂を耳にする。クティさんに限ってロリコンはないと思いたいが、リンさんといいお狐様といい、長寿は純粋無垢な子供に弱いという統計が出ているので絆されたのかもしれない。人間に絆されたクティさんなんて面白すぎるがからかうと本気で嫌がらせされそうなので触れられずにいる。


 お世話になった特視の方々も案の定というか、あの後も会う機会があり、大鷲さんにいたっては高等部の養護教諭の地位についた。特視としては大物の外レ者が集まる学園を無視できないので、監視が目的と言っていたが彰とすっかり意気投合して酒盛りする姿はただの友達だ。平和で何より。

 大鷲さんから緒方さん、双月、センジュカの話を聞くがそれぞれ元気にしているらしい。


 リンさんはというと相変わらず彰につきまとっており、一応彰のボディーガードという地位を得たが、実情はただの不審者。彰にちょっかいをかけてはどつかれる姿が至るところで目撃され、もはや学園の名物になっている。


 そんなリンさんを陰ながらどつくトキアは前よりも行動範囲が狭まった。というのも彰が持ち前の世話焼きを発揮して至るところから訳あり生徒を集めてくるおかげでトキアを見る条件に当てはまる子が増えてしまったのだ。未だに彰はトキアが見えないこともあり、トキアはバレないように壁やら天井やらを移動する頻度が上がった。おかげで驚かされる機会が増え、とても心臓に悪い。


 彰は前向きになり吹っ切れたように見えたが、幼い頃から刷り込まれた自分はいらないという思考は根深いらしく、トキアが見える日がやってくるのかは分からない。それでも今の彰は楽しそうなので友達として気長に見守ろうと思っている。


 私はというと現状にとても満足している。中学時代、学校が嫌いだったとは思えないほど学校に来るのが楽しく、青春を謳歌する子どもたちを見守るのが生きがいになっている。

 大学時代、教師なんて私に向いているのかと零したとき、「面倒見いいから適任だよ」と答えた彰の直感は当たっていたようだ。

 なんだかずっと彰の手のひらの上のようで苛つくこともあるが、彰だししょうがないかとも思う。彰と香奈と三人で過ごすことが平和な日常となってしまったのだから、素直に負けを認めた方が良いだろう。


 私の友人である彰くんは常識をぶっ壊す天才であり、私こと香月七海は名誉ある最初の被害者である。


 未来に迷う若者は一度彰くんに相談してみると良い。彰くんは子供に対しては異常にアクティブなので、黒天学園に電話かけて理事長お願いしますというと普通につながる。これは都市伝説扱いされているが本当の話。


 私は中等部の香月先生お願いしますって言えば繋がるけど、彰くんほどの処理能力はないので勘弁してほしい。でもまあ、どうしてもというのであれば真面目に相談に乗ろう。私も今や教師なので。

 その時は彰くんっていう規格外生物の話でもしてあげる。彰くんの突拍子ない行動見てるとだいたいのことがどうでもよくなるから。その後は香奈の癒やしエピソードで締めだ。


 私の他にも頼りになる先生はたくさんいるから、遠慮なく黒天学園に電話してくるといい。何なら転校、入学大歓迎である。試験に関しては一般よりも厳しめだが、やる気と能力があれば生まれも育ちも関係ない。

 黒天学園は子供のための秘密基地。どんな問題を抱えた子供たちも無邪気に遊べる、彰の理想郷。常識をぶっ壊して欲しい方はどうぞ黒天学園へ。未来ある子供たちの入学を私は心待ちにしている。


 どうか彼ら、彼女らに私みたいに未来を変える、特別な出会いがありますようにと今日も私は願い続けている。

 


 




〈終〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐のおつかい 黒月水羽 @kurotuki012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ