最終話 おれの必殺技

「なに……」

 グリムワードが低く呻く。


「おまえには、聞こえていないのか?」おれは静かにたずねた。「いま、鳴り響いているこの曲が? 大音量で流れている、『SP戦隊マモルンジャー』のオープニング・テーマが! 子門真人師の天に響くようなこの歌声がっ!」


 ぐっと握りしめ、腰だめに引き絞ったおれの右拳が、赤い炎をめらめらと纏う。


臨終りんじゅう拳SP奥義、マモルン・ダイナマイト!」


 だんっ!と大地を踏みしめて、突き出されたおれ拳が、『流星閃光』となって、亜音速でグリムワードの腹へ迫る。ばしゅっ!と水蒸気ベイパーを曳きながら打ち出された拳打が、音速を突破するときの、すぱぱぱぱーん!という衝撃波をまとって走り、魔導拳士の紫色のアーマーを突き破り、奴のどてっ腹に穴をあけた。


「お、おお、おおー」


 うめき声をあげながら、魔導拳士グリムワードは赤い炎を噴き上げて爆散してゆく。ちょっとナパーム使い過ぎじゃないかという大爆発に巻きこまれたが、熱いハートでクールに戦うおれの身体はびくともしなかった。


 ゆっくりと拳を引き、悪の拳士の冥福を祈り、夜空にあがってゆく黒煙を見上げる。あれ? グリムワードって、人間じゃなかったのかな?という疑問がちらりと脳裏をよぎったが、ここはとりあえず決めポーズで締めておく。


「カクヨム二周年、おめでとう!」


 おれは踵を返し、その場から去ろうとする。


 が、そのおれの背中に投げかけられる、鈴を転がすような声。

「待って、マモルンジャー」

 振り返ると、ジラフちゃんがそこにいた。さっきおれのことを、その声援で死の淵から助け出してくれた恩人だ。そして、おれにとって、唯一無二のアイドル。


「ねえ、なんでしょ、マモルンジャー」ジラフちゃんは、真摯な瞳でおれのことを見上げてくる。「いつも、あたしのあとを追いかけていた、なんでしょ?」


「ちがいますよ」

 低い声で否定するおれ。


「うそ」ジラフちゃんは首を否否と振る。「あなたみたいに、太ってる人、そうそういないでしょ。体重百キロくらいあるよね」


 いや、もっとあるけど。


 ゆっくりと歩み寄ってきたジラフちゃんは、その小さい手で、おれの血に濡れたグラブを取る。

「いつも、守ってくれてありがとう。気づいてはいたんだけど、どう反応すればいいのか、分からなくて……。でも、感謝してました。これからも、あたしのこと、守ってね」


 きらきらと光る瞳で見上げられた。ジラフちゃんは、半分泣いたような笑顔でおれのことを見上げると、その艶っぽい唇を開く。



「あなた、IT企業の社長さんだったんだね♡」

「そっちかーい」



 マモルンジャーの戦いは続く。


                               【終】



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SP戦隊マモルンジャー 雲江斬太 @zannta

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