砕けぬ意思 壊れる心 人はわかりあえないのか? 破滅と再生の物語

彼女を守って

僕が

死ぬ

それが僕の愛だった
なにもない僕 すべては彼女のためにある
よわい僕 大事な彼女にしてあげられるのは、命をかけて守ること

そんな僕と彼女に 凄い男が現れた
とても強くて、ここぞの場面で誰より頼りになる男
僕の彼女は その男の背中を見つめてた
嫉妬した 僕にないものすべてを持ってる男に嫉妬した

彼女が魅せる眩しい笑顔 それが痛くて痛くて堪らない
笑顔を向けてる相手は 僕じゃない
彼女の心は離れていった 僕の心は虚ろになった

彼女は別の男を愛してる、強い男を愛してる、彼女を守るに相応しい

心が理解を拒絶する 心が砕けて砕けて、それでも砕けて
 
すべてを賭けて彼女の心を取り戻す
弱い僕よ、砕けてしまえ、お前は彼女に相応しくない
彼女を離さないためならば、強さを手にするためならば

苦しさ痛みに、心が体が、反応しない もはや、見えず、聞こえず、感じない
それでも強く、なれてはいない
己の意思が砕けぬ限り 何があろうと前へと進む
体よ砕けよ 心よ砕けよ 
弱い僕のあらゆるすべてよ、砕けてしまえ

すべては砕けた 潰えてしまった なのに強さは手に入らない 
たとえすべてが砕けても ここには砕けぬ意思がある 
この ぼくの意思 がある 負けるものかと震える意思が
ここにある 意思がすべてを超えた時
僕の中の 何か が弾けた

そうして僕は手に入れた、守れる力を手に入れた


だから愛しい人よ、どうか僕を捨てないで

どうか僕を選んでおくれ








この物語はロージャという主人公の視点で物語が進みます。
彼はどういう人物か。一言で言うなら聖人でしょう。
およそ、人とは思えないほど善良な人物。
人の世の奇跡とは、彼のこと。

彼は劣等感の塊でもあります。
それはなぜか?
この世界には魔素があり、魔導があります。
魔導が使えない人物は、無価値、劣等なのです。
ええ、そのとおり。
彼は魔導がまったく使えない、この世における最劣等。
ですが、彼は決して挫けない。
真っ直ぐ真っ直ぐ生きていく、その眩さは太陽さえも比較にならない。

なのに当人にはその自覚なし。
己は無能であると心の底から信じきっている。
その自信の無さは底なしと言えるでしょう。
彼は自分の価値を知らない。
だから、大事なものを守るためならば、簡単に自分の命を投げ出してしまう。
傍にいる人たちが彼をどれほど大事に思っているのか
これっぽちも知りもしないで、、、

彼はとても優しく、恐ろしいまでのお人好し。
人を信じることしか知らない。彼の世界にはまだ敵と言えるものはほんの少し。

彼の言葉は他の人とは違います。彼は助けると言えば必ず助けます。
たとえどんな敵が来ようとも決して言葉を違えることはありません。
その敵が暗殺者であろうと巨人であろうと巨大宗教組織の教皇であろうと。


そんな彼が、最愛の恋人が寝取られて手ひどく振られた後から物語は始まるのでした。


第一の読み方 ロージャの世界
そのまま読み進めればロージャ視点のお話が楽しめます。
この視点では、人、モノ、すべてがロージャフイルタを通して見ることになります。
彼の考え、性質、生まれ、育ち、教育、経験、その他諸々があらゆるものに付与され
ロージャの世界が構築されています。

話は彼の内面を体験していくもの。
白眉というべきは彼の喪失、心が壊れていく様。
劣等感、焦燥、嫉妬に無力感。
狂気に堕ちていく彼の苦しみを味わおう。

想像力と感受性を最大にし、ロージャと同調して苦しみぬく。
これが本作を一番美味しく頂く方法。
苦しければ苦しいほど美味しい。
死ぬほど苦しければ死ぬほど美味しい。

第二の読み方 無限の世界
小説の中で公開されている設定があります。
その設定から演繹的に導き出される、おそらくは、こうであろうという世界の仕組み。
それらが組み合わさると。
心象内で、世界が再構築されます。
世界は情報が蓄積するほどに、鮮やかに精密に
濃密に見えるようになっていきます。

心の中に世界が湧き出てくるというべきでしょうか。
蓄積の足りない部分はぼんやりとしか見えません。
そういう部分は新情報が公開されると、途端にはっきりと見えるようになることがあります。
場合によっては、世界そのものが壊されて、また一から再構築される
そういうことも起こります。
ごくたまに、閃きによって、世界が人物が物語が一瞬で変貌するのを体感することもあるでしょう。
閃きによって世界が新生し、新世界が新体験を生む。
これこそが読書の基本にして究極。
新鮮な驚き、閃きの快感、新世界の体験。

濃密に蓄積されている部分は驚くほどの完成度で世界が
こちらに飛び込んでくるのが感じられるでしょう。
その世界に登場する人物。
彼、彼女らも情報が蓄積するにつれて、人格がはっきりとわかるようになっていきます。
蓄積が十分ならその人物の心の息吹まで感じるでしょう。
この人はなぜ、こんなことを言うのか、するのか。
わかるようになっていきます。

このお話はそういう読み方もできるのです。






※レビューの完成度 現在37%
※閃きのたびに更新されます
※場合によっては全面刷新も起こります







新体験が新たな驚きを呼び起こし、物語が心に刻まれる。