エピローグ 風に
風になった私は穏やかに春の空を舞い、ゆるやかに大地を吹き渡る。
地表には見上げる少女の姿、
潤んだ大きな瞳と、しとやかに揺れる黒髪。
初めて目にする顔だけれど、もちろん私は知っているわ。
ねえカナリア、どうしてそんな泣きそうな顔をしているの?
私が居なくなってしまったと思っているの?
ここに居るわ、私はずっと。
どこにでもいて、いつもあなたの傍にいる。
寂しい時も、嬉しい時も、いつもあなたを包んでいるわ。
優しい春の風がひとすじ、ふわり少女の頬を撫でて、
ほら、笑ってちょうだいカナリア、
きらきら光るお日さまの下で。
木々の枝では小鳥たちが歌い出し、
芽吹いたばかりの草の匂いが風に広がる。
さあ、歌ってちょうだいカナリア、
みんなを笑顔にするあなたの歌を。
そうしたら私はその歌を運んで、どこまでもどこまでも遠く吹いて、
はるかな大地、遠い空の彼方、
明るい笑顔と優しい想いが、地上のすみずみまで広がって、
そうしたらきっとそれは遠く遠く、
あのはるかな菜の花畑にまでたどり着いて、
私はひらり羽を揺すり
そこは一面の黄色い世界、
深く静かな青空の下、
あたたかな日差しに包まれて、
春の風の中でまどろむ、胡蝶の夢。
終わり
モンシロチョウとカナリア 沙倉由衣 @sky2017
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