第172話 初夜と正妃

北の王として、盛大に挙式が執り行われた……妃四人との同時の挙式で、北全体がお祝い一色に染まり、お祭り騒ぎとなる。


「凄いな……王が妃を迎えただけなのに」


「エイメルさま、国の王が妃を迎えるのは一大イベントですよ、それに一度に四人とは……まあ、北の王としての門出としては良いかもしれませんがね」


ゼダーダンは染み染みと裕太にそう語る。


「それより妃達はどこにいるんだ、朝から見えないけど」

「それはそうでしょ、挙式の最後に、誓いの儀式でエイメルさまと対面するのが慣しですので」

「そうなんだ……」


「あと、今日の初夜の相手はお決めになっているのですか? まさかと思いますが何も考えてないなんてことはないですよね」


「ええ! 初夜って……ちょっと待ってよ、そんなの考えてもなかったよ」

「初夜の相手は正妃の証です、凄く重要なことですから慎重にお選びください」


結婚イコール子作りという認識は裕太にはなく、ちょっとしたイベントくらいにしか考えてなかったが、ゼダーダンにそう言われて急に変に意識し始めた。



式典は妃たちが登場することなく執り行われていき、いよいよ最後の近いの儀式へと時は進んだ。


そこで初めてアースレインの古い民族衣装に着替えた四人の妃が登場する……


綺麗だ……裕太は普段とは違う雰囲気の四人を見て、心の底からそう思っていた。


「何見つめてんだよ、恥ずかしいだろ」

「あら、アズキ、エイメルが見てるのは私ですよ」

「なんだよリュジャナ、お前は普段と変わらねえだろ、それに比べて私は激変してるからな」

「変わったからって良いとは限らないのよ、お分かり?」

「なんだと!」


「二人とも式中だよ、そんなみっともない喧嘩はやめなよ」

「何よあなた、そもそもどうして軍師まで妃になる話になったのよ! そこの女も意味不明、あんた、敵だったんでしょう」


「言っとくけど飛田くん……いや、エイメルと私は昔からの知り合いですからね、この中では一番付き合いは長いのよ」


「残念でしたわね、私とエイメルはこ〜〜〜んな小さな頃からの付き合いです! あんたがどこで知り合ったか知らないけど、私の方が長いですのよ!」


四人の妃が円満にいっていると思っていた裕太は、そのやりとりに少しビビっていた……


「ま……まずは誓いの儀式を終わらそうか、話はそれからで……」


「そう言えばエイメル、正妃は誰かって聞いてなかったんだけど……」

「私に決まってるだろ、私が一番最初に妃になるって決まったんだから」

「アズキ、順番じゃないのよ、こういうのはエイメルの愛の大きさで決まるものよ」

「それじゃ、やっぱり私だろ」

「やっぱりってすごい自信ですわね! しかし残念ね、この私が正妃に決まってますのよ!」


「決まってねえよ! ほら、エイメル! 言ってやれよこの守銭奴女に!」


裕太は本気で困っていた……この中で一番誰が好きとか考えたこともなく、考えたくもなかった……それは男としてどうかとは思うのだが、やっぱりそれが本音であった。


「よし、決めたぞ!」


「おっ、誰が正妃か決めたんだな、もちろん私だろ」

「いえ、私ですわ!」


「それは誓いの儀式が終わってからの楽しみだ、ほら、みんな見てるだろ、ちゃんとして」


そう言われた妃たちは、やっと儀式に集中した。妃全員と裕太が誓いの宣誓をして、それを大司教が認め、誓いの儀式は終了した。



今日は大事な初夜の日である、裕太の部屋の前に妃たちが集まっていた。全員初めての経験なのだろう、大小あるが一様に表情は緊張していた。


自分が選ばれることを願っているようだったが、裕太から伝えられた初夜の相手は、予想の斜め上をいっていた。


「はぁ? 全員だって! ちょ……ちょっとエイメル! それ本気で言ってんのか!」


「え……エイメル……その意味が分かって言っているのか? そ……それは、ちょっとかなり凄いことだぞ」


普段は冷静な軍師のフィルナも同様を隠せない、まさか初夜の相手に全員を指名するとは天才軍師も予想していなかった。


「仕方ない、選べなかったんだから」


あっけらかんと言う王のその言葉に対して、四人は自分たちがどのような王の妃になるか理解した……まあ、こういう男だったと半分諦めて、裕太の意見を受け入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

群雄学級の黄昏 RYOMA @RyomaRyoma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ