第6話

「こ、ここの魔王だったんですかサーシャさん!?」

「そうだよヒィア。私こそセブンスヘルのラスボス、魔王サーシャ・セブンスヘルその人だ!」

 なにやらかっこよさげなポーズを決めるこのサーシャさんがラスボスだなんて、とても信じられません。

 ラスボスとはダンジョンの主であり、支配者であり、何よりそのダンジョンでは最強とさえる恐怖の存在。

 新人のあたしでも、いや冒険者でなくともそのことは一般常識です。

「でも、サーシャさんはそんなに怖そうではないですね?」

「おいヒィア」

 師匠があたしを咎めようとすると、サーシャさんが手をかざして止めました。

「怒るなダイチ。私は人から怖がられる魔王ではないのは自覚している。しかし同時にそんな自分を良しともしている。恐れられるよりも親しまれる魔王で私はありたいと思っているのだから」

 そう言いながらサーシャさんはかざしていた手で師匠に立つように促しました。

「なのでそんな風に頭を垂れずに、威風堂々としたいつもの姿を見せてくれ、我らが守護者の一人、ダイチ。私は、お前のそんな姿こそを誇りに思うのだから」

「……ならば」

 サーシャさんの言葉を受けて、師匠は立ち上がりました。

 私が何度も言うまでもなく、その姿は数々の冒険者を退けた誇りと実績を感じさせる雄々しい威容です!

「うん、そうだ。その姿こそまさに一面を任せるにふさわしいボスそのものの姿だ。これからも頼むぞ」

「はっ!」

 賛辞を贈るサーシャさんに師匠が頭を下げているのを見ていると、やはりサーシャさんがなんだかすごい人に見えます。

 いえ、魔王ならば魔物のはずですが。

「——で、そんな君にも慕ってくれる弟子が出来たと見える。いつも一人で戦う君の事を常日頃心配する私にとって、こんなに嬉しい事はないよ」

「恐縮です!」

 サーシャさんは次に私の方を見てニッコリと笑ってきましたが、こうしてまじまじと見られると、こっちが照れてくるほどに美人さんです!

 恐らくお姫さまってこんな人なんだろうなあと想像させます!

 人ではなく魔物ですが!

「いえ、こいつは別に弟子ではないですが」

 むむ、師匠もなかなかに強情ですね。

 そういうところも、また素敵ですが!

「いいじゃないか。戯れのようなものだよ。なんならペットか何かでも飼い始めたと思えばいい」

「ペット……ありですね!」

 師匠のペットというのもなかなかありな気がします!

 もしかしたら撫でてもらえるかもしれません!

「ない。そしてサーシャ様、流石にそれは戯れが過ぎます」

「はっは、まあペットは冗談だが、それでも君に彼女は必要かもしれないと思っているのは本当だよ」

 私が師匠に必要? それは嬉しいですが、どういう事でしょうか?

「……分かりました。弟子やペットはともかく、サーシャ様がお望みならば、こいつは置いておきます」

「ずっと置かせてもらいます!」

「はっはっは! 本当に面白い子だね、ヒィアさんは。はっはっは、はっはっは!」

 そう言ってサーシャさんは楽しそうに笑う声が、しばらく私たちだけの神殿内にこだましていました。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一面ボスに弟子入りしました リュウ @dragon88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る