第5話

 

「えっと、お姉さんは誰ですか?」

 見たところあのパーティーの方というわけでもなさそうですが。

 服装も何というか、まるで街を歩いている男の人のような動きやすそうなズボン姿ですし。

「私かい? 私は通りすがりのお姉さん、名はサーシャだ」

「そうなんですか。改めてこんにちは、通りすがりのお姉さんのサーシャさん」

 あたしがそう返すと、サーシャさんはニコニコと笑いながら頭を撫でてきました。

「いやー、素直ないい子だねえ。お姉さん君みたいな子好きだなあ」

「恐縮です!」

「こらこら」

 サーシャさんは撫でていた手をそのまま降ろして、あたしの口の前に人差し指を立てました。

「大声を出してはダイチの邪魔になるだろ。黙って観戦しようね」

「はっ! そうでした」

 師匠の戦いを見学しなくてはいけません。

 再び師匠たちの方を見ましたが、状況は全く変わっていませんでした。

 師匠がまるで嵐のように激しく、それでいて流れる水のように淀みなくパーティーの人たちを蹴散らしています。

「くそ、くそお!」

「これならどうよ!?」

 パーティーの人たちは魔法や剣で師匠を止めようとしていますが、まったく通じてませんね。

 さすが師匠!

「……撤退だ!」

 おや?

 パーティーリーダーと思わしき方が撤退を指示しましたね。

「で、でも……!」

「良いから撤退だ! 一面ボスだと思って侮った!」

「……分かった! みんな引くぞ!」

 パーティーの人たちが揃って撤退を開始しました。

 師匠はそれを昨日のように何もせず見ていますが……むう。

 折角師匠の戦闘を見れる機会だったのに、もう少し粘って欲しかったですね。

「はっは、今回のパーティーは賢明だったね。昨日来た君のとこのパーティーが無駄に足搔いて勝手に消耗していたのに比べれば、随分と的確な判断だ」

「あれ、サーシャさんは私が昨日来た事をご存じなんですか?」

 もしかして今みたいにどこかで見ていたんでしょうか?

「当然だよ、私に知らない事はない。ま、このダンジョン内限定だけどね」

「おお、すごいですね!」

 このダンジョンの事を全部知ってるだなんて、サーシャさん凄いです!

「ふっふ、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「凄いですサーシャさん!」

「ふっふっふ!」

「最高ですサーシャさん!」

「はっはっは!」

「何をしている」

 と、見ると師匠がこっちに来ていました。

「お疲れさまでした、師匠!」

「別に疲れてはいない、が」

 と、師匠はサーシャさんを見ると固まりました。

「ふふ、お疲れだったねダイチ」

 そうだ、師匠にサーシャさんを紹介しないと!

「師匠! この方凄いんですよ! このダンジョンの事を何でも知ってるそうです!」

「……だろうな」

 師匠はそう言うと、いきなり片膝をついて頭を垂れました。

「ど、どうしたんですか師匠!? もしや先ほどの戦いでダメージが?」

「……この方が誰か、知るわけもないか」

 師匠はそう言って跪いたまま顔を上げて、腰に手を当ててふんぞり返っているサーシャさんを見ました。

「この方は、このセブンスヘルを支配する魔王、サーシャ・セブンスヘル様だ」

「……ええー!?」

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