番外編5 貴方の隣に座るために

前作の『この世界の何処かに』番外編の座談会を書くのが楽しかったので、今作でも座談会開催です! リュックの弟クリストフ君が主人公二人に質問をします。本編終了は1029年の春で、この座談会はその後しばらく経った同じ年の年末頃に行われました。



***



― 王国歴1029年 年末


― サンレオナール王都 サヴァン伯爵家



 サヴァン伯爵家の応接室の長椅子にはアメリとリュックが座っており、その向かいにはリュックの弟クリストフがいる。


「兄上、アメリさん、今日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」


「何なんだ、クリス? いきなりかしこまっちゃってさ」


「本日、主役のお二人に色々とお話を聞く座談会を開催することになりました。このクリストフ・サヴァンが聞き手という栄誉ある大役に抜擢されましたぁー」


「それにしてはお前、棒読みだし……」


「栄誉だなんて全然思ってないでしょう?」


「そりゃそうですよ。何が嬉しくて、この僕が、この彼女イナイ歴〇年の僕が、普段から貴方達のイチャイチャはうんざりするほど見せつけられている僕がこんな役回りを……ううう」


「だったら断れば良かったのに(イナイ歴二桁じゃなかったのか、コイツ?)」


「そうよ。妙なところで律儀なのだから」


「リゼット女官長に任命されたら断れませんよ! これも『読者さーびすの一環』です、とか訳の分からない理由で押し付けられました。他にもっと適任がいらっしゃるでしょう、と申し上げたのに。例えば王妃様とか、ジェレミー・ルクレール中佐とか……」


「王妃様とルクレールだけは勘弁して欲しいな、俺も。お前で良かったよ」


「そうねえ。王妃さまやジェレミーさまが仕切るとなると座談会じゃなくて尋問会とか吊るし上げ大会になるわね。それもいかがわしい話題だけに集中しそうよね」


「そうなのです、リゼット様もそれを懸念されておりました。僕みたいな地味なキャラの方が聞き手に向いているそうです」


「お前、それ自分で言ってて悲しくないか?」


「クリス、希望を捨てちゃ駄目よ」


「(……さっさと終わらせてフテ寝するに限るよぅ)そろそろ本題に入ってよろしいですか? 今更ですがお二人に簡単な自己紹介をお願いします」


「リュック・サヴァン、もうすぐ伯爵位を継ぐ予定の26歳。今は王都警護団所属。生まれも育ちも王都。あと数か月したら隣に座っている婚約者のアメリと結婚する。婚約まで大変だったけど今は幸せいっぱいラブラブ……」


「ではアメリさん、お願いします!」


 隣に座るアメリをニヤニヤ見つめながら彼女の手をしっかり握るリュックの言葉をクリストフはさえぎる。


「もう、リュックったら……アメリ・デジャルダン、19歳です。今は怪我の為休職中ですけれど、年明けには王妃さま付きの侍女として復職します。子供の頃は10歳までこのお屋敷の隣に住んでいました。それから色々あって、王都中心部の借家、デジャルダン家、学院の宿舎、王宮の宿舎とあちこち移りましたけれど、来年このお屋敷に嫁いできます。何だか感慨深いです」


「そうですね、アメリさん。以前はお隣さんだったのですよね。僕もアメリさん一家のこと、良く覚えています。さて、今度は兄上に。王太子襲撃事件をきっかけに王都警護団に押しかけ、そのまま居座ってもう一年経ちましね。いかがですか、お仕事の方は?」


「何か言い方に棘がないか、お前? 仕事はやり甲斐があって楽しいよ、純粋に。俺はあまり他の同僚みたいに迷子捜索や夫婦喧嘩の仲裁なんて押し付けられないけどね。一応身分を気にされてか、貴族や富豪が住む地区の担当だから」


「やはり平民でも貧困層が多く住む地区の方が犯罪は多く発生するのでしょうか?」


「まあね、人口密度にもよる。人が多いとそれだけ事件も多い。でもなあ、こんな仕事していると人間のいい面だけじゃなくて汚い面も見えるわけよ。裕福ならそれで皆幸せで犯罪が起こらないってわけじゃないんだ。お貴族様や金持ちが起こすのに限って、ここでは言えないようなえげつない事件なんだよな」


「いい例が王太子殿下襲撃事件よね」


「迷い犬や眼鏡の落とし物とか、そういう平和な案件ばかりだといいんだけど」


「まあその為に警護団が存在するわけですね。では次はアメリさんに。怪我も良くなってもう杖は要らなくなりましたね。もうすぐ復職ですが、結婚されてもお仕事は続ける予定ですか?」


「ええ、出来る限りは続けるわ。サヴァンのお義母さまもお許しくださったしね。怪我で療養中少し太ったのよ、実は。体を動かしていないと駄目みたいね」


「今度は王妃さま付き、とおっしゃっていましたが、もともと就職時も王妃さま付きでしたよね」


「最初はね。一年くらい経って、当時王太子殿下付きだったビアンカが魔術塔に異動になったから私がその穴を埋めるために王太子殿下担当になったのよね。あの頃は沢山のことが一度に起こったわ。リュックと私が再会したり、ビアンカがやっとクロードさまに出会えたり」


「懐かしいよな」


 リュックはアメリの手を先程からずっと握ったままである。アメリは顔を赤くして彼を見つめている。向かいに座っているクリストフは盛大なため息をつきたくなった。


「お二人は意外と長い婚約期間を設けて来年の春に式を挙げられますが、新郎新婦の付添人は決まっているのですか?」


「何、お前付添人やりたいの? でも相手役の彼女がいないんじゃなぁ?」


(グサグサグサッ! ああ、僕のいたいけなハートがぁ……)


「私の侍女仲間の誰かをクリスに紹介するってわけにもいかないのよね。あのお義母さまのお眼鏡に適うような家柄の方じゃないと……私もそれで少々揉めたしね」


 クリストフは肩をガックリと落とす。


(それにアメリさんみたいに、うちの母に対抗できるような女性なんてそうそう居るもんじゃないし……ハァ)


「付添人は多分俺の友人で彼女か婚約者がいる奴に頼むつもりだけど」


「では、気を取り直して……お二人の将来の目標、夢などがあればお聞かせください」


「おいクリス、もしかして涙ぐんでんの?」


「放っといてください!」


「そうだな、俺は当分は警護団の一員として王都の治安を守るためにしっかり務めたい。色々と学ぶことも多いしな。今は近隣諸国とのいさかいもなく王国全体的には平和だから、この王都をより住み易い都にするために一役買えれば、と思ってる」


「いずれは近衛に戻るつもりですか?」


「それは分からないよ、まだ。でも警護の現場で働けるのは若いうちしか出来ないから、今のところはまだしばらく戻る予定はないんだ。あとはそうだな、伯爵としての仕事もしばらくは父上が当分は領地の方は管理してくれると言ってくれるけど、父上にいつまでも全部任せておくわけにはいかないからね。爵位を継いだらその義務も果たさないとな」


「私も手伝いますよ、兄上。さて、アメリさんの方の目標はお仕事と伯爵夫人としてのお役目の両立ですか?」


「そうね。他にはね、私があの手切れ金を寄付した孤児院があるでしょ、あんな感じでもっと大きい規模の施設を作りたいのよ」


 男性二人はギクッとする。


「アメリさ、その手切れ金って言い方もうやめよう、な?」


「じゃあ何て言ったらいいの? 見舞金? 慰謝料? どうでもいいでしょ。とにかくね、もっと多くの身寄りのない子供達や、家庭内暴力を受けている人、路頭に迷っている人の一時避難施設を設立して地域の役に立ちたいのよ」


「それはまた、立派な目標ですね」


「施設を設立、運営をしようという同志はいるし、出資のお話までもう頂いているのよ。夢物語のままでは終わらせないわ」


「サヴァン家からも少しだけど寄付をするしね」


「僕も文官の端くれですから、何かお役に立てると思います」


「ありがとう、二人とも。頼もしいわ。あ、もっと近い将来の夢としてはね、結婚後出来ればリュックに良く似た男の子が欲しいなぁ」


「俺は断然アメリ似の女の子がいいな。まあ男でも女でも、何人でも俺に任せておけって!」


 そこでリュックはアメリの肩を抱き、頬に口付ける。


「もう、リュックのバカァ!」


 アメリは彼の胸板をドンドンと叩いている。


(もうヤダ……最後の質問省略してもうお開きにしたいのですけど……そういうわけにはいかないのだろうなぁ、ええぃ、こうなりゃヤケだ)


「お二人はどう呼び合っていらっしゃいますかぁ!」


「俺はアメリ、時々アメリちゃん、お姫様、姫かな」


 二人は至近距離で見つめ合っている。


「私はいつもリュックって呼んでいるわ。たまにリュックのバカァ!」


「それってバカァまでついて呼び名ですか? ま、どーでもいいですけどね、そんなこと。ではこれにて座談会終了でございます。お二人共アリガトウゴザイマシター!」


 クリストフはさっさと立ち上がり、お辞儀をして退室してしまう。


「相変わらずだな、クリスの奴」


「分かり易いわよね。思わずからかいたくなっちゃう」



***おまけ***

その後自室に戻ろうとするクリストフは母親のジョアンヌに捕まる。

「クリストフ、今度『リュックママに聞きました!』なんて企画はないのですか?」

「あるわけないと思います、母上」

「あのフランソワーズだけ番外編で独壇場なんて、全くもって悔しいわ!」

アメリママに対抗心メラメラのリュックママだった。

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貴方の隣に立つために 王国物語2 合間 妹子 @oyoyo45

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