番外編4 貴方に毒を盛るために

このような題名ですが、年齢制限も反社会的要素も何もございません。全ての読者の方々に安心してお読み頂けます。

***



― 王国歴1032年 秋


― サンレオナール王都



 初めまして、私の名前はフランソワーズ・テリエン。肩書は伯爵夫人よ。って言うか何なのよ、この物騒な題名は! でもまあいいわ、あのジョアンヌばあさん(注1)を差し置いて番外編に抜擢して頂けたから許してあげるわよ。


 気を取り直して自己紹介を続けますわ。歳は内緒、私ももう孫までいるくらいですから、大体の年齢は想像つくわよね。前夫ミシェル・ガニエとの間に子供が二人、十五の若さで亡くなってしまったフェリックスと、今はサヴァン伯爵夫人で一児の母となったアメリね。今の夫、テリエン伯爵との間にも女の子と男の子が一人ずつ居るわ。それぞれ十五と十三よ。


 ところで、あのハゲエロ・テリエン伯爵(注2)に毒なんて盛るわけないじゃないの、真っ先に疑われるのは私なのですから! 毒殺なんて企まなくてもそのうちポックリ逝くわよ、だからいいの。でも長生きするならそれで別に私は構わないわ。あんなオヤジでも子供二人の父親ですからね。


 あっ、今両親がこんな奴らで子供がまともに育つのかって思ったでしょう? 実は私自身もそう思うわ。でもテリエンはいわゆる貴族で子育ては人任せですから、この私の方がよっぽどあの子たちの世話はしているのよ。アメリとフェリックスは私よりも父親のミシェルの方が根気よく相手をしていたのは皆さんもご存知の通りよ。何故かテリエン家では父親があれだから、この私でも割とまともな母親に見えているらしいのよね。


 あのエロオヤジのこと、ボロクソに言っていますけどね、私と子供二人が日々生活出来ているのは彼のお陰だから、一応は感謝もしているのよ。跡継ぎの居なかったやもめのテリエンに、男子を産んだ後は好きにしてもいいと言われて後妻に入ったのですもの、役目を果たして気ままに生きているというわけ。


 どうしてあの厳格なデジャルダン子爵(注3)の一人っ子がこんな我儘で身勝手な放蕩娘なのか、ですって? そうね、母が幼い頃に亡くなって父親は仕事で忙しくほとんど顔を合わせたことはなかったわ。彼はそもそも騎士として、騎士団の上司としては立派な人間だったけれど、父親としてはあまり家にも居なかったし不器用な人間で愛情表現も下手だったのよね。だから私も反発してこんな人間に育ってしまったのでしょうね。


 私の生き方に賛同出来ない方も多いのは分かっているわ。でも、これが私ですからね。フランソワーズ・デジャルダンの座右の銘はね『ためらわない、振り返らない、愚痴らない』よ。


 それから私は自分の好きなように生きているから、人にも家族にも自分の理想なんて押し付けないわ。ジョアンヌばあさんみたいに息子が連れてきたお嬢さんに難癖をつけて手切れ金を渡すなんてことも、もちろんしません。大体ね、息子は息子であって自分の所有物ではないのよ。自由にさせておきなさいよ。


 最終的にアメリがリュックさんと結ばれたのは嬉しく思っています。リュックさんが、あの強烈な母親ジョアンヌの言いなりになるようなマザコン野郎じゃなくて良かったわ。ま、彼がそんな情けない男だったらアメリも好きになっていないわね。


 先日生まれたばかりの孫のミシェルは、リュックさん似でそれはそれは可愛らしい赤ん坊なのよ。婆バカはジョアンヌだけではないの。彼女は大暴走しまくっているけどね。十代の難しい時期に入ってからもあんまりベタベタしていると『ウゼえんだよ、このクソババア!』なんて言われかねないわよ。私はクールなグランマとしての姿勢を崩さないわ。


 あ、そろそろ行かなくては。今晩は舞踏会なのよ。私自身の楽しみのためじゃないわよ、言っておくけど。アメリの異父妹にあたる娘が十五になって社交界にデビューしたから彼女に付き添うだけよ。どこの貴公子を捕まえさせるのかって? 先程も申しましたようにね、娘の人生は娘のものだから彼女の好きなようにさせるわよ。では失礼いたしますわ。



***ひとこと***

以上、お遊び気分で書いたものです。丁度いいから母の日に更新することにしました。王国物語シリーズ一の奔放母、アメリママの呟きでした。


登場人物名をうろ覚えな方のための覚書

注1:ジョアンヌはアメリの姑、リュックの母親です。フランソワーズさんとはいいライバルのような感じですね、最近は。

注2:ハゲエロはテリエン伯爵のファーストネームではありません。

注3:デジャルダン子爵はアメリの祖父で、フランソワーズさんの父親です。彼女は最初の夫ミシェルと結婚しガニエ姓になり、今は再婚してテリエン姓を名乗っています。

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