第3章『変わるということ』

第13話『創と優樹 ①』

 そうなやみの種が増えた。

 事のほつたんは、夏の平日の、昼きゆうけいもりみやていで開かれた家族会議だった。

「『神社のおえらいさん』としてなら難色を示すけど、『ゆうの父親』としては『ゆう達が式を挙げること』には反対しない。ぼく個人は……正直、その間くらいで、決めかねてる」

 父親のしんから、そうとのけつこんを認められた。そこに、事実上家族としてんでいたはなが『私たちもやりたい!』と手を挙げたことで、考えを伝え合っているうちに日がかたむいていた。

「別に、はなは……悪い子では、ない」

 そめはなそうふたの姉のゆうにアタックを続け、それが実ったのがすうげつ前。その時はゆうも自分の心境の変化にまどっていたが、おかげで少し性格が円くなったと、そうも感じていた。正直すぎるところはあるが、人なつっこさは次男のけいのようで、そうからの印象も『妹のような子』と悪いわけでは無い。

 それでも、『前例のない形』が、そうは苦手だ。父親のしんが決めるなら先送りしたり、判断に従うことも考えたが。

そうあとぎが新しい時代の形を考えてみるのはどう?」

 白羽の矢が立てられてしまっては、今さらげようもない。いずれ考えなければいけないとは分かっていたが、『りにって自分のけつこんのタイミングで言うのか』と頭をかかえた。

 歩きながらため息をつくと、曲がり角でだれかのかげが視界に入った。

「(あっ――)」

 ぼすん、と受け止められた。そのままきしめられて、くすくすと笑う声が聞こえて、そうは観念した。

……」

「おつかれさま、そう

 高校時代。下心があったわけではないが、いちなアタックにかんらくした。その結果の延長線上が今回のけつこんばなしなのだが、察しの良いは、そうを解放すると、えんがわさそった。

「考えてみましょう。ね?」

 うながされてえんがわに来ると、が正座をしてひざうえをぽんぽんとたたく。そうが苦笑いするが、期待のまなざしを向けるに根負けするのがわかりきっているので、大人しく横になって頭を預ける。

「……この状態で、話、するの?」

そうが一番大変だから」

 このけたやさしさはどこから来るのだろう。そうのぞから目をらして、今までのことを思い返した。


 片やもく、片やたかはな自身は『そんなことないわ』と否定するが、めんどうが良く、スタイルも良い。男子が色んな目線を向け、女子からも色々な目線を受けていた。注目されるからこそ、関心を強く持たずフラットに話すそうの存在がありがたかった、と言う。

「後から民話の神様と知っておどろいたけど、神社のことを勉強するのも楽しかったの。そんな話をしたら、はなちゃんが大きな声で『あっ、それいいですね!』って」

 ふふ、と笑うの言葉に、そうは『少しだけ、分かったかも』と答えた。

「……子犬みたい」

「ふふ、確かに」

 そうは何となく、はくれんのことを思い出した。チワワとゴールデンレトリバーのようなふたり。それで小声で思い出し笑いをしてから、改めて『はなのことを、きらいなのではない』とかくにんした。

 問題はシンプルで、おそらく父親も同じなやみをかかえている。

 神社という、形式や伝統のイメージがついて回る場所。それでいて、『えん』という新しいものを呼ぶ場所でもある。

 その外に向けたメッセージともなる『しんぜんしき』を、優樹とはなに、受けさせたくもあり、受けさせない方が良いとも思っている。ふたりを知っていれば『仕方ないか』とも言える。

「難しいな……」

「そうね」

 が『私ね、』と続ける。

「――こういう変化がおとずれた後、ものすごくまどったのは、前に話した通りだけど……。それでも、その人となりを知っていると、きらいになれない」

「うん……」

「そう思うと、『ちゃんと向き合うべきだ』って気になれたし、はなちゃんの答えがあまりにもじゆんすいだったから、に落ちたのよね」

 そうの額をゆっくりとで、照れながら話に応える。

ゆうも、めんどうを見るのは……好き、だからね」

「ええ。はなちゃんはあまえ上手で、ゆうさんはまさにそう。それで、やっぱりこの話がすごく難しいのは、人となりを知らないと『変だ』と思われることね……」

「そう。それが、難しくて。『参加する人を限定すれば』とは、思うけど」

はなちゃんの性格だと、好みじゃなさそうなのよね……」

「……だよね。――あ、良いよ、来ても」

 目をせて、もう一度上げた視界にひとかげを見かけたそうが声をけると、ゆいがおぼんを持って麦茶を運びに来ていた。

「気をつかわせちゃったかしら」

 ぺこぺこと頭を下げながらこちらに来るゆいに、耳を赤くしながら起き上がるそうをよそに、はそう言ってほほむ。

そうにいてたらそっと置きに来るつもりだったから……」

「……なんか、ごめん」

 顔を手でおおった後、先ほどの話を思い出して、そうもどろうとしたゆいを引き留めた。

「……また、話、聞いてもらえる?」


 コップをもう一つ持ってきたゆいそうのそばにすわると、そうは一口麦茶を飲んでからたずねた。

「……まずは。ぼくたち、けっこんすることに、なる」

 ゆいにそう言うと、ぱあっ、と分かりやすく喜びの表情をかべた。

「おめでとうございます」

「ありがとう」

 兄に、そして義理の姉となるへ、ゆいが正座に直ってからおをする。それに、ほほみ返すふたり。そうはその後に、こほん、とせきばらいをした。

「これは、前置き、なんだけど。ゆいは、れんたちのころからの変化、どう思った?」

 さとい末っ子には、この聞き方だけで意図をってもらえるだろう、というしんらい感があった。常に『この子の周りで何かが起きている』とそうは考えていると同時に、あのゆうの妹でもある、という意図もあった。

「…………」

 ゆいがしばらく言葉を探した後。

「色んな気持ちをかかえてる人がいるな、って思う。暗い気持ちもあれば、前だけを見る人も。でも、最近で印象に残るのは、手をにぎられたときに、すっ、と心の中に届く感じがする」

「――そっか」

「……もしかして、だけど」

 言い終えてから、見かけた人物に心当たりがあるのか、ゆいが言いよどみながら聞いてきた。その表情に引っかかるものがあったそうが、逆に問いかける。

「……ゆうたち、何かあった?」

「あっ、えー……っと、何か、はなさんがきよを置いてて……」

 が『えっ』と声を出し、そうが頭をかかえる。

「……どこから、説明しようか。んで、ごめん」

「あ、いや。えっと」

 数十秒なやんだ後、『麦茶、ぬるくなる前に、飲もうか』と提案し、いつたん落ち着いてから改めて考え直すことにした。


 夏祭りが近づくえんがわには、ふうりんつるされていた。えんにちむかれる準備にもいそがしくなるだろう、とそうは頭の中で山積する課題の整理に追われ、気が休まらなかった。

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巫女さんえにしさま《本編》 うらひと @Urahito_Soluton

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