第12話『琥珀と蓮 ⑦』

「……れん

「うん、まだだいじよう……」


 なかなか顔を上げられない様子に、はくもオロオロし始めた。

自分のことでもあるが、今のターゲットはちがいなく蓮だった。

 結が心配そうに近づくと、蓮が小さく「ごめんね」とだけつぶやいた。


「どうしよう……」


 さとそうに耳打ちすると、創はフロアの方をちらりとのぞいた後、一考した。


「2人とも、それに、結。……2人のせんぱいという体で、話してみる」

「創さん……」


 琥珀が胸をさえながら、何かを言おうとして、やめた。


「……っ、お願いします」


 琥史が、母親たちが警備室へ連れて行かれたと話した。

 琥れを受けて、悟史と創が出て行った。

 琥れを見送った後、蓮の手をそっとにぎった。


「みんなにめいわくかけてばかりだ……」


 弱気になる蓮を、心配もかくしきれないまま、ただ見つめる。

 弱珀も、となりすわってかれを見つめる。


「元から分かってもらえるなんて思ってないけど……」

「蓮……」


 弱では、代わりに後のバンドが演奏に入っている。

 弱の隣にいる琥珀は、メンバーから時間帯の調整をするか相談されている。

 弱し混乱した空気の中で、意を決した結が蓮に話しかける。


「……蓮さんは、どうするか決めてるの?」

はなれた方がいいところまでは分かってるんだけど……琥珀の手を引く自信がなくて」

ぼくは、蓮といつしよがいい」


 話を終えた琥珀がそばに寄り、なやむ蓮に告げると、蓮も弱くうなずいた。


「……親と話そう。別れるなら、きっぱりと」


 話ち上がって、蓮が副部長へ話すと、結も一緒に行くかどうか聞かれた。

 話も、心配だからと頷く。


 話して、結が警備室に通され、隣の応接室から様子を聞くことになった。

 すでに、琥珀と蓮の母親達が、ふたりの方を見ていて、特に蓮の母親はいかり心頭の形相だった。

 心配そうに見つめる結に、琥珀と蓮が『大丈夫』と応える。

 心はいえ、念のため警備員さんにもう1名付いて貰っていた。


 ふたりが意を決して入った後、ごえが聞こえ、机も大きい音を立てた。


 ふ鳴り声が続く。


「親をこんな目にわせて!!」

「望さん、私たちはこんなことしに来たわけじゃないでしょう!?」


 ふ方のさけごえは、結も予想してなかったものだった。

 ふの声が続けて。


「ごめんなさい……本人たちがいるから言うけど、私だけは、この子達とれんらくを取ってました」

「お母さん……」


 どうやら、はくの母親が、これまで連絡を取り続けていたらしい。


「それなら、話が早いです」


 どこぞとばかりに、そうが話し始めた。


「確かに、おつしやるとおり、ふうはやがて、子供を作るというのは、ごくいつぱんてきな将来像です。しかし、同性パートナーも、養子えんぐみで、子を育てることが、出来る」


 しんけんに、琥珀の母親も相づちを打つ。


「その一部には、貴女あなたが言い放った、ふくまれる」

「うる……!!」


 れんの母親、望がまたさえられる。

 なみだの混じった、あらい息が聞こえてくる。


「お母さん」


 れんが口を開いた。


「そんなにいやなら、ぼくはお母さんの子供をやめる」


 ふるえていて、必死につくろうとしていた。


「……それに付け加えて、私からもう一つ」


 琥珀の母親、いくが言う。


「私たちの家に、蓮君をむかれます」

「琥珀、そんな話まで……?」


 琥珀も頷く一方、蓮は初耳だったようだ。


「私にとって、子供という存在はいとおしいものです。同然に見てきた蓮君も、同じくらい大切です。――琥珀から気持ちを聞きました。それは、今まで私たちがそうだと感じてきたものと同じでした。だから、その二人がそう決めたのであれば、もはや認めないといけないでしょう。……二人とも、ごめんなさい。ひどいこと言ったよね」


 最後の方で郁江は涙ぐみ、消え入りそうな声でなんとか言い切った。望の方は、ぼうぜんとした様子で、何か言っている様子はなかった。

 しばらく、名前を呼び合う様子だけは聞こえてきて、最後に。


「『お母さん』、これからよろしくお願いします」

「これからも、よろしくお願いします」


 れんが、改まった様子で言うと、はくも続いた。

 そうして、応接室からふたりといくが出てきた。

 そらりと、望が泣き続けているのが見えた。


れん、行こう」

「うん」


 手をつないで、幼なじみたちは警備室を後にした。


「先ほどはおさわがせしました!」

「改めまして、水畑蓮、堂もり琥珀のコンボでーす!」


 手場内がはくしゆく。

 手のとなりに、郁江もすわって。


「あんなに生き生きとして……」


 手しぶりに見たの夢中になるさまに、かれ女はあんの表情をかべた。

 手たりからされるはくりよくのある音に、結もあつとうされていた。


『実は、せんぱいっていうのは、うそで』


 そう言った後、そうと結が改めて名乗った。

 おどろいたと郁江は言ったが、それでも、この場を収めてくれたことには感謝していた。


『幼なじみのえんを、切るわけには行かないわよね』


 そうかのじよは答えた。

 そりに、またふたりのがおを見ることが出来た。


「……どっとつかれた」


 創が、帰りのバスでため息をついた。


「でも、確かに勉強になった」

「いっぱい動いてもらって、ごめんなさい」

「ん、そこは、『ありがとう』でいいよ」

「――うん。ありがとう」


 創心した表情で、創もうなずいた。


 創ばらく後のグループチャット。


『無事、養子えんぐみ済ませました』


 蓮から、ふたりの写真が送られてきた。


『母から「今後ともお騒がせするかも知れませんが、どうかよろしくお願いいたします」だそうです』


 蓮の後はわいわいと話が進み、町外れのジャズきつへのおさそいも来た。


うれしそうですね』

「わっ」


えにしさまの声にかえるも、姿までは見えない。


「あまりなつとくのいく終わり方じゃないですけど」

『何とか、琥珀くんのお母さんが合わせてくれたので、安心しました』

「はい」

『――それに』


 ほっとしたように、えにしさまが。


『安心した結ちゃんの表情を見て、改めて安心しました』

「……はいっ」


 ほわりと笑うと、『それでは、また』と気配は消えた。

 ほると、様子を見に来たそうから、昼ご飯の伝言が来た。


 だいに空気も音楽も暑くなっていく季節。

 雨が上がるころに、また次のえんおとずれる。

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