1-5 M16A4をどうぞ
「(やっぱ無理なんだね~)」
世間話の如くミノタウロスに笑いかけるユウタにダリオは首を傾げた。
この世界、魔物と共存するだけならまだしも、魔物を従わせるなんてできるはずが無い。
なのだが、今目の前で起こっている事はまさしく主従関係。
『ナンドデモ、リスポーンスルトハイエ、イタイモノハイタイノデス』
「(そうだよねぇ~。そもそもこの【管理者試験用フロア】に居る君達は争いを好まないもんねぇ~)」
「管理者用フロア……?」
今、ダリオが聞き間違えていなければ、ユウタは管理者用フロアと言った。
もしかしてと思い、ユウタに質問をしてみる。
「なあユウタ、お前もしかしてこのダンジョンを運営しているのか……?」
世界の均衡を大いに崩し、世界を恐慌させていた魔王—―アイルナ。
各地域に存在するダンジョンを支配していたのはアイルナと思われ、討伐と同時に機能が停止すると思われていた。
しかし、各ダンジョンは機能が停止する事が無く、魔物が無尽蔵に湧く。
だが、かと言って地域を脅かすような強力な魔物は討伐され切っているの為、初級、中級冒険者がレベリングする為の”狩場”と今は重宝されている。
「(ん? そうだけど、何か変?)」
「……はい?」
「(いやだから、それってそんなに変な事なの? ダンジョンって今は冒険者ギルドの管理下で運営しているんだよ?)」
「はぃ!?」
ユウタはごく当たり前のように答えた事にダリオは声が裏返る。
「あぁー、ダリオ君知らなかったんだ。各地に点在しているダンジョンは人間が運営、管理を行っているんだよ。例えばハリグルの【
「えっ!? 実家の町にあった”あれ”も人が運営していたのか!?」
ヘリシス国の中心に位置する首都—―ハリグル。
その巨大な街の中心にはその名の通り、天を貫く程の高い塔が存在していた。
〖
◦入場可能条件
〘1〙Lv50以上の冒険者
〘2〙6人以上のパーティである事
〘3〙ギルドからの許可状を取得している者
【ダンジョン基本情報】
魔物Lv:60~80
フロア数:120
危険度:〘■■■■■□〙
〈ダンジョン内発動スキル〉
〘効果1〙フロアにいる『人間』のステータスアップ
――――――――――――――――――――――――
「(そうだよー。確かあのダンジョンは全体の指揮権を持つ【ダンジョンマスター】一人と20フロアずつで管轄している【フロアマスター】5人で運営してたはず)」
「マジか……、俺知らなかった」
ハリグルで生まれ育ったダリオは母親に良く”こう”言い聞かされていた。
あそこの高い塔はね、天に繋がっているの。神々が住む【天界】って場所。
そこに行くと何でも願いが叶えてもらえると言い伝えられているわ。
お父さんや私はそこまでいけなかったけど、ダリオならいけるかもしれないね。
そんな話を昔から塔を指さしながら聞かされていたダリオはその言い伝えを信じていた。
というか、願いを叶える為に冒険者になったと言っても過言ではない。
だけど、人間が管轄しているという事は……、つまりそういう事だ。
「はぁ……。ヘブンズタワーを上りきれば何でも願いが叶うなんてデマじゃねーかよ、お袋……」
がっくりと腰を下ろしてその場に座り込むダリオ。
人が運営するヘブンズタワーを上りきった所で得られるのは、名誉、優越感くらいではないだろうか。
「(へっ? 願い、叶うけど?)」
「……………………今、なんと?」
「(だから叶うんだって、願いが)」
「えっ!? いやいや無理だろ。どうやって人間が【親父を生き返らせる】なんて願いを叶えるんだよ」
ダリオの父親は五年前。ダリオがまだ15歳の時に36歳の若さで他界した。
父親はハリグルで物を売買する商人兼、上級冒険者であった。
父はヘブンズタワーに古き仲間達と登りそこで獲得したアイテムを街の商店街で販売し、そこで得た資金の半分を家庭、半分を冒険に使い頂上を目指していた。
まあ、そんな事を続けてレベルが68と結構高かった父親が死んだ理由は簡単。
—―病死である。
原因不明の病で床伏せた父親は数多の回復ポーションや【
「(ダンジョンは人が管轄してはいるけど女神様の加護があってこそなんだ)」
「女神様? 信仰上の崇拝偶像ではなくて?」
「(違う違う、本当にいるんだよ女神様。そうじゃなかったら魔物のリスポーンなんてできないし、ダンジョンで死んだ人間を入口に蘇生させるなんてできないよ)」
「えっ? ここで死んだら生き返るの? 冗談は止してくれよ」
冒険者ギルドの初心者に向けられた講義で。
当たり前ですが命は一つしかないので大事にしてください。
と、念押しされていたダリオはユウタの言っている事が嘘に聞こえる。
「(信じてないね。—―ってな訳でミノ君出番だよ)」
『ホントウニスミマセン、イタイノハイッシュンデスカラ—―』
バゴッ!
「……っ、……」
ユウタの指示にタイムラグ無く、ダリオの後頭部を殴るミノタウロス。
叩かれた頭からはスカスカと連想させる、いい音が鳴る。
もちろん、自分よりも二回りも三回りもレベル差があるミノタウロスに。
〈ウィークポイント〉を殴られたダリオは無事【死亡】
―――――――
――――
—―
◇□□□◇
「痛ってぇぇぇぇぇぇぇ……って、え?」
ダリオが目を覚ました場所はユウタの経営する武器が立ち並ぶ店中。
今一瞬まで酷かった痛覚は何もなかったかのように消え、熟睡した後のように体がスッキリしている。
「ねっ、生き返ったでしょ」
店の奥からコップを二つ持ってやって来たユウタは片方のコップをダリオに渡す。
「……、マジで……?」
「マジだよ、大マジ。君は今さっき死んだんだよ。だけどダンジョンに付与されている女神様の加護のお陰で生き返ったんだ」
今だに信じる事ができぬダリオは、渡されたコップに入れられていたココアを飲み干し、「うーん」と唸り始める。
「と、まあ結構時間がたったんだけど大丈夫かい?」
「時間?」
ダリオは店の外に出て、空を見上げる。
雲は沈みかけの太陽の日を浴びてオレンジ色に変わり、飛竜が太陽に向かって鳴き声をあげながら飛んでいた。
「これ……、やばくね?」
アナトザから日が昇ったと同時にシルヴァ山脈に入ったダリオ。
そこから色々あってヘステルに着いたのがお昼時。
ダンジョンで数刻を過ごして現在、綺麗な夕焼けが見える日没間際。
〘補足〙
◦夜は魔物が活性化するため、日が落ちた後のダンジョンは適正レベルがプラス10される。
つまり、ただでさえ酷かったシルヴァ山脈は更に酷くなる。
「ねえダリオ君。そこで僕から提案なんだけど—―」
絶望するダリオの隣に来たユウタはポケットから透き通った鉱石を渡す。
「……ん? なんだこの石」
「これはね。【転移結晶】って呼ばれる上級冒険者が愛用しているものなんだけど」
〖転移結晶〗
◦一度行った事がある町、ダンジョンへ瞬間的に移動が可能。
◦販売場所:道具屋・武器屋・防具屋
◦販売価格:銀貨10枚
「まさか……! 転移って事は一瞬で行けるのか!?」
「まあ、そうなんだけど。銀貨10枚になりまーす」
「……銀貨10枚?」
《この世界の通貨価値》
◦銅貨:三枚あれば一般男性が腹いっぱいになる程の食事が可能
◦銀貨:一枚あれば一週間飲み食いできる程の価値。
◦金貨:十枚あれば結構良い大きな家が買える程の価値。
〈金銭換算〉
◦金貨:銀貨100枚分・銅貨10000枚分
◦銀貨:銅貨100枚分
現在、ダリオの全財産は2銀貨と80銅貨。
もし【転移結晶】を買うには7銀貨と20銅貨が必要。
「ちょ~っと、お金が足りないかなぁ……」
「それなら分割の50銅貨の20回払いでいいよ。それか、お金がある時に一括で払ってもいいし。もちろん期限付きだけど」
「えっ、いいのか? それじゃ—―」
ダリオが選択したのは。
「分割でお願いするわ。多分これからもこの店を愛用しそうだし」
ダリオは財布を開いて50銅貨をユウタに手渡す。
シルヴァ山脈をまた超えてここまで来る自身はないが、この色々あったこの店にまた来たいと心から思えたから分割払いを選んだ。
そもそも、期限内に10銀貨なんて払える気がしないとダリオ。
「はい、毎度ありがとうございまーす。それじゃ、転移結晶を上に掲げて行きたい場所の名前を呟くんだ」
「分かった。色々と助かったよ、ありがとうユウタ。
—―アナトザ—―」
転移結晶を掲げたダリオがそう呟くと、体が下から粒子になって消えていく。
それを、この世に在らざる武器を扱う武器屋さんは笑顔で見送るのであった。
異世界の武器屋さん 煩悩 @morimorimomizi
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