1-3 M16A4をどうぞ
「いやー、ごめん。ちょっと手間取っちゃって」
あれから少し時間がたった時、ユウタは黒色の異形な鉄塊を持ってやってきた。
「まぁ、それはいいんだが、お前が持っている”それ”は何だ?」
ユウタが持っている物は長剣より全長が短く、グリップはあるのに刃が無い、と、どう見ても武器には見えない。
ダリオの純粋な質問にユウタは「ふふッ!」と誇らしげにその鉄塊を変な持ち方で構える。
「これはね! M16A4と呼ばれる弓よりも素早く攻撃でき、上級魔法と同等、又はそれ以上の威力を持つ遠距離武器なんだ!」
「それが、武器……?」
ダリオにはユウタの言っている事が理解できなかった。
まず、〈魔法〉には【下級魔法】【中級魔法】【上級魔法】【超級魔法】の四つが存在している。
まあ、属性の云々も色々あるのだが大きく脱線するので今は省くとして、それら四つには使用可能レベルが存在している。
◦下級魔法:28Lv以上
◦中級魔法:48Lv以上
◦上級魔法:75Lv以上
◦超級魔法:100Lv以上
このように【上級魔法】が扱えるのは75Lvな訳で、熟練者の中の熟練者がやっとの思いで使う事が許される高威力魔法だ。
そんなただの鉄塊如きにそこまでの威力を出すことができるなど到底ありえないだろう、と思うダリオ。
「うーん、ダリオ君疑ってるねぇ。なら、試し撃ちを一回してもらうしかないね」
「試す?」
「そう、試すんだよ」
ユウタは鉄塊を細い方を縦に向け、ダリオに手渡す。
渡されたその鉄塊は思いの他重く、グリップの方に重心が偏っている。
「あっ、今はまだ撃たないでね。これから試し撃ちできる場所に連れて行くから」
そう言って、ユウタはカウンター下に設けられていた地下へと続く階段への扉を開け、鎖で固定する。
ダリオはその開けられた空間を興味本位で見て、驚いた。
「
店の下に存在するとは思えぬ広大な地下空間には石を敷き詰められたフロアに多くを照らさぬ淡い光を放つ蝋燭が不定間隔で立ち並ぶ—―っていうか浮いている。
そしてぱっと見ただけで分かる、上下左右に分岐した複雑な通路。
「ゴクッ……」
ここで迷ったら一生出てこれぬ考えてしまい、生唾を飲むダリオ。
「それじゃ、行くよ。ほら、怖気づいてないで早く行って」
ダリオの後ろで腰に手をあて、ユウタが早く行くよう急かす。
「あ、あぁ……。分かった」
ダリオはゆっくりと足を踏み出して階段を下りていく。
多分、強力なモンスターが存在しないと分かっているからユウタは初心者レベルの自分を先頭に行かせるのだろう。そう、ダリオは思っていたのだが。
ガシャンッ!
鈍く、鉄がぶつかる音が迷宮に鳴り響く。
「…………えっ?」
ダリオは一瞬、何が起こっているのかを理解することができなかった。
「さぁ、ダリオ君! そのM16A4を使用してこの迷宮のボス。
ダリオは思った。
「いや、待てよユウタ」と。
今の状況を整理しよう。
1)ダリオはM16A4と呼ばれる武器をユウタに渡された。
2)ユウタと一緒に迷宮に入った、と思っていた。
3)後ろを振り返れば、ユウタの姿は無く、入口が閉じられていた。
4)何処からともなく聞こえるユウタの声は牛闘巨人—―ミノタウロスを倒せと指示をしてきた。←今ここ。
まあ、要するにダリオは迷宮に閉じ込められた。
「謀ったなユウタアァァァァァァァ!!!」
ダリオは怨念をユウタに向け吐き出しながら閉められた迷宮の入口を何度も叩く。
「大丈夫だって! その”銃”さえあればミノタウロスなんて楽勝だよ!」
「そんな訳あるかボケエェェェェェッ!!!」
〖ミノタウロス・別名—―地下迷宮の主〗
◦討伐適正:最低Lv40の中級職者4名以上
◦適正職業:無し。
【ステータス】
Lv60
◦体力:45000
◦攻撃:1500
◦防御:1600
◦俊敏:800
◦知恵:300
◦運 :1
〈スキル〉
◦迷宮の主
〘効果1〙迷宮に住まう者全てに命令を出せる。
〘効果2〙迷宮での全ステータスアップ。
〘効果3〙女に対して攻撃力アップ
〘効果4〙瀕死状態(体力3000以下)になると防御力超アップ
――――――――――――――――――――――――――――
「なぁ、ユウタって俺より馬鹿なのか!? 最低【シルバーランク】の冒険者が束になってやっと倒せるかどうかのモンスターだぞ!?
適正レベルより遥か下の初心者の俺が勝てると思ってんのか!?」
閉じられた強固な鉄扉を何度も叩きユウタがいるだろう扉の向こうへ叫ぶダリオ。
それを言ったら何で適正レベルが全く足りていなかったのにシルヴァ山脈に入ったのだろう? という疑問をユウタはあえて口にしない。
「まぁ、行けるよダリオ君なら、っと、後ろからスケルトンが来てるよ?」
ダリオはその忠告を聞いて、後ろを振り返る。
すると、そこにいたのは長剣と円型の盾を持った骨しかない人の異形。
体を動かす為の筋肉が無いはずなのに、平然と動き、迷宮に入ってきた人間を殺して自分達の仲間にする魔物。
〖スケルトン〗
◦討伐適正:Lv20以上の冒険者
◦適正職業:無し。
【ステータス】
Lv18
◦体力:500
◦攻撃:220
◦防御:120
◦俊敏:200
◦知恵:80
◦運 :1
〈スキル〉
◦無し
――――――――――――――—―
「ひっ……!?」
町の周りで生息するゴブリンやスライムとは全てが違う。
あれらより、明確な殺意を向け、知恵を持って自分の首を切断しようとゆっくり迫ってくる。
「それじゃ、ダリオ君。君が今持っているM16A4をさっき僕が構えた通りに敵に先端を向けて持つんだ」
「……さっきユウタが構えていた通り?」
ダリオはユウタに一撃を加えるまで死ぬわけにはいかないと心に強く誓い、素直に憎きユウタの指示に従う。
グリップだと思われる所を右手で掴み、人差し指を輪っかに入れ込む。
そして、凸凹したグリップより太い部分を左手で掴み、この武器の先端だと思われる部分を迫るスケルトンに向ける。
「よし! そして右の人差し指を自分の方へ引く!」
ダリオはユウタの言葉にコクリと頷き、指示通り輪っかに入れていた人差し指を自分に向けて力強く引く。
パパパパパパパパッ!!
さっきの扉が閉められた時とは比にならぬ巨大な音が迷宮の隅々まで鳴り響く。
「……っ!?」
それと同時に、腕を持っていかれそうな感覚を覚えたダリオは、危険と判断し銃を手放してしまった。
「うーん。まあ、初心者にしてはまずまずだね」
手放してしまい地面を滑っていったM16A4と、穴だらけになって転がってきた骸骨を眺めダリオは唖然—―いや、固まった。
理由は耳が割れると思ってしまう程の大きな音と、腕がもぎれると錯覚してしまう程の反動でもあるのだが。
その最大の原因は、”レベル3のダリオが適正レベル20以上のモンスターを一瞬で倒してしまった事”だ。
そもそも、適正レベルというのは「これ以上のレベルなら苦戦せずに倒せますよ」という目安であって、一瞬で倒せる訳では無い。
なのに、それを上級冒険者ではく、ましてや適性レベルさえ超えていないダリオが一瞬で倒してしまった。
「何が、起こったんだ……?」
「どう? 銃の威力は。凄く強いでしょ!」
えへん! と聞こえてきそうなユウタの声に、ダリオはただ首を縦に振る。
「あと、銃は弓で使用する〖矢〗と同じ要領で〖弾丸〗を使うんだ」
「矢ではなく?」
〖矢〗は〈木〉+〈石〉で製作が可能な初級アイテムである。
ダリオも最初は「遠距離攻撃の方が強いんじゃね?」などと、浅はかな考えで弓を使った事があった。
しかしウィークポイントに当てなければダメージがあまり入らず。
いちいち素材を集めては《アイテム調合》を行うのが面倒くさく。
剣で切った方が戦闘で安定するなどの理由から止めた。
「矢じゃなくて弾薬。とりあえずもう一度銃を撃ってみて」
ダリオは銃を拾う前に近くに転がったスケルトンの死体(?)からドロップアイテムを拾い、少し離れた所まで滑っていた銃を持ち上げる。
そして壁に向かって構え、人差し指を手前に引く。
するとさっきと同じようにけたたましい音が鳴り響き、大きな反動で腕が持っていかれそうになるが何とか耐える。
そしてカランカランと小さな鉄が銃から落ちる中、その銃声は突然止まった。
トリガーから指を放しもう一度引くがカチッと音がするだけで反応は無し。
「よし、全弾撃ち切ったね。それじゃ、今ダリオ君が左手で持っている凸凹した部分あるよね?」
その通りなのでユウタの質問に頷く。
「その部分の上にボタン……押せる場所があるんだけど分かる?」
ダリオは一度M16A4を横にして凸凹した部分の上に注目して見る。
押せるという事は凹ではなく凸。
そう考え、気になる場所を手当たり次第に押した。
すると丸い凸を押した瞬間、カチャと乾いた音が銃からした。
「おーけーおーけー。そしたら構える時に左手で持っていた部分を引っ張ってもらえるかな?」
「左手でもってた部分だな」
さっき構えた時に左手で持っていた部分をユウタに言われた通り引っ張るとスルッと抜けた。
「後は簡単。それを持って〖
「えっと、ちょっと待ってくれ」
ダリオは冒険者になった者なら誰でも使う事ができる魔法。
〖ステータス〗を使用する。
【ステータス】
名前—―ダリオ・リード
◦Lv4—―ブロンズランク—―職業:戦士
◦体力:150
◦魔力:18
◦攻撃:30
◦防御:22
◦俊敏:24
◦知恵:11
◦運 :50
〈スキル〉
◦アイテム調合—―誰もが持つ初級汎用スキル
ダリオは表示されたステータスを見て驚いた。
Lv3まで上げるのにゴブリンやスライムを30体以上は倒したのを覚えている。
なのに、スケルトンを一体倒しただけでLvが1上がっていたのだ。
「すげぇ!! 一体倒すだけでレベル上がってる!」
「そりゃ、20レベル以上の冒険者用経験値と言ってもいいからね。って結局、魔力はどのくらいあるの?」
「えっ、あぁ。今の俺の魔力は”18”だな」
「ふっ……」
迷宮に響くユウタの人を小馬鹿にしたような鼻笑い。
「あーはいはい! どうせ俺は雑魚ですよッ!!」
「あっ、ご、ごめん。馬鹿にしてる訳じゃなくてね。ヘステルに住んでい町人って冒険者じゃないのに最低、30レベル以上で魔力が100は超えているんだ」
この時、ダリオの中で元々ボロボロだった何かが崩壊していった。
一緒に冒険者になった友人達のステータスを見せてもらうと皆平均10レベル前後だったのに対し、ダリオは1。
友達達は
ユウタが今言った事について考えてみよう。
ヘステルに住んでいる人の最低レベルは30。多分それには生まれたばかりの子供も含まれているのだろう。
まあ、現実に目を背けず正直に言ってしまえば。
—―ダリオは赤ちゃんと素手で戦ったら負ける—―
「神様のバカヤロオォォォォォォォォォ!!!!」
ダリオはただ叫んだ。
こんな差別があっていいのか、と。
まだ前後ろ分からぬ赤ちゃんにすら勝てないなんて、と。
「まあレベルが高いのは、こんな厳しい環境だからという理由で女神様がヘステルに加護を授けてくれたおかげだけどね」
「尚更神様のバカヤロォォォォォォォォォ!!!」
ダリオは加護の云々ではなく、どうして自分だけ差別されているのかという点で再び大声で叫んだ。
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