1-2 M16A4をどうぞ 

「おいおい、嘘だろ!? この町から出ようとしてる人なんて誰もいねーのかよ!」



 ダリオの町に入ってからの経緯を簡単に説明すると。

 この町の全ての商人に声をかけたが、誰一人としてアナトザに向かう人はいなかったのだ。


 —―回想—―


「あの~、すみません」


「おう、兄ちゃんいらっしゃ! 何を買っていく!」


「えっ? あ、それじゃ、この赤い果実を二つ」


 何も買わずにそんな事を聞くなんて常識がないと、知恵が足りぬダリオですら理解していた為、一番安い果実を購入した。


「毎度ありぃ! ってそういや兄ちゃん、この町の人じゃないよな? 何処から来たんだ?」


 品を買ってもらい、上機嫌になった商人のおっちゃんは世間話を振ってくる。


「えっと、自分は西のアナトザから来たのですが」


「アナトザ!? 兄ちゃん頼りなく見えるのに上級冒険者だったのか! 

 いやー、たまげたなぁ!」


 あのシルヴァ山脈を単独で超えてきたと勘違いしているからこそおっちゃんは上級冒険者だと思い込んでいるのだろうが、実際は命からがらで逃げてきてたまたま行き着いただけなダリオはそのおっちゃんの言葉が心にブスブス刺さる。


「……それで、アナトザに向かう商人の団体とかっていませんか? それに自分も便乗して行こうと思うのですが」


「はぁ? そんな商人なんていねぇよ。そもそもここで商売している商人なんて生まれも育ちもこのヘステルで、外界に出ようと考える奴なんて一人もいねぇぞ」


「へ? 一人も?」


「あぁ、一人もだ、っといらっしゃい! どれも熟してうめぇーぞ!」


 果物屋のおっちゃんは別の客が来たことにより、ダリオとの会話を途切り接客を始める。

 それを区切りにダリオも本当に誰も行こうとしないのか確認の為、他の商人へ手当たり次第に聞きまわった。


 だが、果物屋のおっちゃんに言われた通り。


「うちはヘステルだけで間に合ってるから」

「誰があんな危険な所を通過してまで外界に出るか!」

「変態! あたしをそんな所に連れて行ってどうするつもり!」


 など、若干一名、頭が変な女がいた以外は全て駄目だったことで今に至る。



「くそぉぉぉ!! 運だけはいい俺のレアアイテムの数々がぁぁぁ!!」


 ダリオはその場で四つん這いになり地面を力の限り何度も殴る、が。


「糞痛ぇぇぇぇぇぇ!!!」


 すぐ痛覚に耐えきれなくなり殴るのを止めた。



 ズザッ



 そんな馬鹿みたいな事をしているダリオの前に誰かが立ち止まる。


「ちょっと君、何かお困りかい?」


 顔を上げて声の主を見ると、物優しそうな雰囲気を出している細目の青年。

 アイテムポーチや武器を取り付けるベルトがついていないことから、この人もこの町の住人だと思われる。


「あぁ、すげぇ困ってる。このままだと俺の何もかもが失われてしまう……」


「ふーん、それは大変そうだねぇ。まあ、こんな場所で倒れ込まれると邪魔になってしまうからね、ひとまず僕が経営する店に来なよ」


 後ろを振り向くと馬車を止めてこちらを凄い顔して睨むじいさん。

 周りを見ると買い物をする町人や、さっき質問をした果物屋のおっちゃんまでも怪訝そうにダリオへ見ている。


「あぁ、言葉に甘えさせてもらうよ。

 —―そして、マジで邪魔してすみませんでした!!!」


 ダリオは全力で迷惑をかけてしまった周りの人に全力で頭を下げた後、その青年の提案に乗り、その場を早々に離脱した。



 ◆◆□◆◆



「ここが、僕の店だよ」


 果物屋のおっちゃん達が商売をしていた商店街から北に進み、程なくして着いた青年の経営する店。

 

「お前の店って武器屋だったのか」


 店の中は様々な武器が立てかけられていた。

 誰もが最初に手にする両刃の長剣はもちろん、筋力ステータスがある程度上がった者が扱う事ができる大剣。盗賊が愛用する短刃のナイフに遠距離用の長弓。

 それ以外にも沢山あるのだが、冒険者なりたてのダリオにはそれがなんなのかが分からなかった。

 

「うん、そうだよ。っとそうだ、名前まだ言ってなかったね。

 僕はユウタ・カワシマって言うんだ。ユウタでいいよ」


「おう、俺はダリオ・リードって言うんだ。ダリオでいいぞ」


「ダリオ君ね、分かった」


 変わった名前であるユウタはカウンターの奥の小部屋に向かった後、何かを持ってすぐダリオの居る所へ戻って来た。


「ひとまず、これを飲んで落ち着こう。話はそれからだね」


 ユウタが手渡してきた木製をコップを受け取ったダリオだが、入っていた中身を見て顔をしかめた。


「なんだこれ? この泥みたい色した飲み物は」


 黒に近い茶色をしたその飲み物は少しドロッとしている。


「それはね、”ココア”と呼ばれる祖父の故郷で良く冬に飲まれていた物なんだ」


 そう言ってユウタは泥のような飲み物を普通に飲み始める。

 試しに匂いを嗅いでみると、甘い香りが鼻孔を突き抜けた。


「暖かいうちに飲んだほうがおいしいよ、それは」


「そう、だな」


 ユウタが普通に”ココア”という飲み物を飲んでいるし危ない物ではないのだろう。

 ダリオは決心をつけ、目を瞑り一気に口に流し込んだ。

 そして。


「何だこれ! めちゃくちゃうめぇ!!」


 この店に響き渡る程の大きな声でこの飲み物を美味さを称えた。

 外の冷気で冷えた体を温め、蜜や砂糖とは違った甘さが体に染み渡る。


「ふふっ、気に入ってもらえたようで何より。お代わりはいるかい?」


「あぁ! 頼む!」


 殻になったコップをユウタに勢いよく差し出し、お代わりを要求するダリオ。

 

 再びユウタが注いできたココアを受け取り、また飲み干してお代わりを要求する。

 それをダリオは5回も繰り返したのであった。



「ダリオ君、そろそろ落ち着いたかい?」


「あぁ、落ち着いたよ」


 6杯目のココアをゆっくりと飲みつつ、ふぅと一息つけるダリオ。

 それを見てユウタは「ははは」と苦笑いを漏らす。


「それで、ダリオ君の困っている事とは何?」


 長方形の大きな木箱に座り、ユウタは本題に入った。


「えっとそれがな。簡単に説明するとアナトザに帰りたいけど帰れないんだ」


「帰れない? アナトザからヘステルまで来れる程の腕を持った上級冒険者様なら普通に突破できるのでは?」


 果物屋のおっちゃん同様、ユウタはダリオの事を上級冒険者だと思い込んでいる。

 命からがらで逃げ、奇跡的にたどり着いたダリオにはユウタの言葉が凄く痛い。


「えっと、それが、だな—―」



 —―経緯説明中—―



「なるほど、低レベルなのに欲をはってシルヴァ山脈に乗り込んで、ボッコボコにされて、逃げたらヘステルだったと。ダリオ君ってバカなの?」


「ぐふっ……。やめてくれ、あんときの俺はどうかしていたんだ!」


 ユウタの正直な言葉に精神的ダメージを受けるダリオ。


「このままだと俺のレアアイテム達が金の亡者に一斉売却されてしまうんだ!」


「ふーん。ちなみにそのレアアイテムってどんなの?」


「えっとな。【ダイヤモンド】に【ウラン】、【プルトニウム】とか言う訳の分からない最高ランクの鉱石が—―」


「えっ! 本当に持ってるの!?」


 いきなりダリオの所まで駆け寄って、目をキラキラさせながら聞いてくるユウタ。

 

「あ? あぁ、アイテムの鑑定してもらっての結果だから、間違ってはないと思う」


「よし分かった! 僕がダリオ君をアナトザに帰るすべを授けよう!

 報酬は今の鉱石一個ずつでいいから!」


「本当か!?」


 ダリオはそのユウタが要求した鉱石を各10個以上は所持していた。 

 全てを失うのと、各鉱石一個ずつをユウタに報酬として渡し、残りを所持し続けるなんて馬鹿なダリオですら分かりきっていることだ。


「本当だよ本当! ちょっとまってね」


 ユウタはウキウキさせながら再び店の奥に入っていった。

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