異世界の武器屋さん

煩悩

異世界転移者の孫

駆け出し冒険者、ダリオ編

1-1 M16A4をどうぞ 

 時は世界を恐怖で溢れ返させていた魔王が討伐され、月日がたった世界。

 

 ヘリシス国領内の最東、ネフティア共和国との境界線ギリギリに存在している小さな田舎町—―ヘステル。

 ヘステルは高く自然が豊富な山々—―シルヴァ山脈に囲まれていた。

 その、人には厳しく魔物には優しい山脈には上級冒険者がパーティを組んででも負ける可能性がある強力な魔物が住み着いており、共和国に向かう人以外は商人でさえ寄り付かぬ秘境の町であった。



「はぁ、はぁ……。やっと、町に、つい、た……」


 そんな町に一人、新人冒険者が心身共にボロボロになりながらやって来た。


 その冒険者の名はダリオ・リード。

【ステータス】 

 Lv3—―ブロンズランク—―職業:戦士

 ◦体力:120

 ◦魔力:16

 ◦攻撃:23

 ◦防御:18

 ◦俊敏:20

 ◦知恵:10

 ◦運 :50

 〈スキル〉

 ◦アイテム調合—―誰もが持つ初級汎用スキル



 ステータスの〈知恵〉を見て分かる通り、ダリオは馬鹿であった。

 ダリオは冒険者入りを果たしたばかりで。

【ブロンズランク】【シルバーランク】【ゴールドランク】の三ランクあるうちの一番下。

 そして職業はまだ下級職の誰もが最初になる戦士。

 なのに、早くレベルを上げたいが為、近場にあった【ゴールドランク】でも寄り付かぬダンジョン—―シルヴァ山脈に足を踏み入れてしまった。


 それからと言うもの、爆発するキノコを何度も踏んで吹き飛ばされ、糞強いオークに素手でボコボコにされ、磁場が発生していたと思われる平地で何度もつまずかされ、別次元の強さ+ナメプしてくる巨大な狼から逃亡を続けた。

 それだけではなく、帰り道を示すダンジョンに潜る際に必須な魔法。

 〈リターン〉をLv3如きのダリオが習得しているはずがなく、魔物が跋扈する迷路のような山脈を迷いに迷ってBダッシュ。


 命からがらに逃げ、ダリオが着いた先はこの山脈に踏み入れる前に装備品を整えた西側の麓町—―アナトザではなく、東側の田舎町—―ヘステル。

 幸か不幸か、ダリオはシルヴァ山脈の史上初の低レベル踏破を果たした。


 だが、快挙を成し遂げたダリオはと言うと。


「はぁ、どうやって帰ろ……」


 自分がアナトザで借りた宿の”家賃”の事で頭がいっぱいだった。 


 アナトザで借りた宿は質素で狭い部屋ではあったが、新人冒険者の財布にはとても優しく、持ち切れぬアイテムやモンスターの素材を一時的に置く仮拠点として使用していた。

 

 一日の宿使用料金—―銅貨3枚


 そしてその銅貨は冒険者ギルドに張られた初心者向けの薬草採取クエストを一つこなすだけで5枚稼ぐことができる。

 それも【薬草】は町の近くの森林で大量に伐採できる訳で、一日一回と制限がかけられた採取クエストを毎日、デイリーの如く受注しては報酬を受け取ると、一日銅貨5枚は確定している為、住む所には困る事がなかった。


 だがしかし、今の状況は素晴らしくヤバい。


 その借りた宿の経営者には一日一回、3枚の銅貨を払わなくてはいけない。

 もし払わなければ、その者が部屋に置いていたアイテムを全て売り払われる。


 ダリオはその宿主がどういった性格の持ち主かを知っている。

 あれは、一言で表すなら〈金の亡者〉だ。

 

 それは以前ダリオの隣に住んでいた【シルバーランク】になったばかり冒険者例。


 その冒険者、仮に先輩冒険者と称しよう。

 その先輩冒険者は祝いに自分の部屋へパーティ仲間を連れ込んで夜遅くまでガヤガヤと酒を飲み明かしていた。

 その時、ダリオは隣から聞こえる大きな騒ぎ声で眠れずにいた。

 その状態が続き数刻が立ち、日付が変わると同時に隣の先輩冒険者の部屋に宿主が入って、こう言い放ったのを覚えている。


「お前、宿代払わなかったから今ここにあるアイテムを全て売却な」


 その、宿主の非道とも言えるやり口に先輩冒険者は激高した。

 しかし。


「使用に関しての契約事項に書いてあっただろ。もしそれを拒否するのなら、冒険者ギルドにこの事を報告して、お前から冒険者ライセンスを剥奪させるぞ」


 と、返したのであった。


 その宿主の淡々とした言い草に先輩冒険者は悔しそうに歯切りして、その宿にアイテムを全て置き立ち去っていたのであった。


 まあ、要するにダリオが思う事は。


「早く帰んねぇとやべぇッ!!」


 これであった。



 ダリオは後ろを振り向きシルヴァ山脈に視線を向ける。

 白く雪の積もった山の頂は雲を突き刺し、入るたびに地形が変わる薄暗く不気味な森林が人を拒むように立ち並ぶ。

 いくら馬鹿なダリオでもあんな目に合ったら二度と入りたくないと思ってしまう。


「はぁ、あのでっかい狼にまた追いかけられるのかぁ、嫌だなぁ……」



〖エンシェントフォレストウルフ・別名—―森の守護者〗

 ◦討伐適正:最低Lv80の上級職者6名以上

 ◦適正職業:聖騎士ホーリーセイバー猛戦士バトルマスター

【ステータス】

 Lv120

 ◦体力:100000

 ◦攻撃:2400

 ◦防御:2100

 ◦俊敏:4300

 ◦知恵:4100

 ◦運 :12

 〈スキル〉

 ◦森の守護者

 〘効果1〙森に住む者全てに命令を出せる。

 〘効果2〙自分の縄張りで防御、俊敏のステータスアップ。

 〘効果3〙自分の縄張りでリジェネ(体力自動回復)が入る。

 ―――――――――――――――――――――――――――


 そもそもの話、シルヴァ山脈は上級者がパーティを組んでやっと攻略できるかどうかのレベルであり、ダリオからすると場違いなダンジョンであった。 

 そんなダンジョンに足を踏み入れ、ここまで生還する事ができたのは。

 エンシェントフォレストウルフ—―森の守護者の慈愛からであった。

 

 森の守護者からすると「また懲りずに人が我らを討伐しに来たのか」と思い対応に当たったのに、ダリオはと言うと。

 全ての対人トラップにまんまと引っかかるわ。

 この森で一番弱いオークに完膚なきにボコされるわ。

 おまけに何も無い所で何度もこけるわ。

 と、色々あり、憐みと言うか悲しみを覚えたと言うか。

 メスである森の守護者はダリオの一連の行動で母性本能がくすぐられてしまい、襲うという名目でこの東に存在する人の町—―ヘステルへ誘導し、助けたのであった。

 


「はぁ、とりあえずアナトザに向かう人を探して、同行させてもらうかぁ……」


 ダリオは踵を返して、田舎町のヘステルに入っていく。


      

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